見出し画像

お前は、俺になれる… ⑤



俺たちの勲章




松田優作さんの原点となるドラマ、といえば『太陽にほえろ』のジーパン刑事だ、という声が圧倒的に多いと思うのだが、自分にとってはこちら『俺たちの勲章』の中野刑事だ…

皮の上下にレイバン、およそ刑事のイメージからは程遠いアウトロースタイルだが、それこそが松田優作らしさフル稼働なのだ。

https://m.youtube.com/watch?v=FaylFp2N5S8


松田優作らしさといっても、一家団欒の時間帯に放送するドラマなので、映画のような過激なバイオレンスやエロい場面はない。

しかし、ある意味で地味な描写が、返って優作氏らしい本質を浮き上がらせているようにも思えた。


中村雅俊さん演じる、新人の五十嵐刑事(中野はアラシと呼ぶ)とともに、相模警察本部の捜査一課では、上司から厄介者扱いされ、毎回地方出張に飛ばされる。

https://youtu.be/DPD1vdfffGk
(音量注意)


『俺たちの勲章』自体、視たことがないという方も多いかもしれないが、詳しい説明は省略させていただいて、自分が最も印象に残っている、第12話『海を撃った日』を回想します。


記憶に基づく省略した再現で、所々に勝手な主観を挟んでいますが…
長々と書いているので、適当に読み飛ばしてください




海を撃った日



麻薬取締官と愛人との心中事件を捜査していた中野は突然担当を外され、出張を命じられる。


中野「心中事件はどうするんですか?あれはオレの担当ですよ!係長がやれって言ったんじゃないですか?あの事件は心中なんかじゃない、殺しですよ!殺し」


野上係長(北村和夫さん)
「つべこべ言わず、行ってこい」


係長ら上司にとって、中野は厄介者だが、無能ではない。銃の扱いや身体能力も長けているし、動物的勘も鋭い。
ただしこの『心中事件』捜査に中野を関わらせるのは、持ち前の勘の鋭さが返って仇になる、と判断したのか?
組織的に不都合な闇があるのか、まだこの時点ではわからない。
いずれにしても中野たちは、また厄介払いだ。

しかし、中野らを追い払ったはずの出先こそが、闇のど真ん中だったのだ…



中野と五十嵐は、栃木県の足尾のある山村の駐在所に着くが、いきなり発砲しながら男が二人逃走した。

中野は矢野(小野進也さん)を格闘の末、確保し連れ戻したが、逃走幇助に来た男は、五十嵐が追ったが逃げ足が速く、逃がしてしまった。

椅子に手錠で繋がれた犯人、矢野に中野は、怒気を含み
「ヤツは何者だ?!」

矢野「知らねえよ」

中野「ほう、お前の知らない奴が、お前を助けに来るのか?」

矢野「あぁ、そういうこった」

署員「あのぉ、本署に報告しますか?
結局は、逃がさなかったんだから…」

中野「あ、いいですよ…
ね、仕方ないから。」

署員は、嬉しそうに敬礼する。

矢野「おうおう、下っ端同士のさぁ
いたわり合いなのかい…? へへへっ」



中野「おい!
お前、そんなに可笑しいか?」

矢野「えぇ…? あぁ~」

中野は、矢野を椅子ごと殴り飛ばす。


中野「おうチンピラ!!
俺はそういう開き直られた
冗談が大嫌いなんだ!おぉ?
俺の前では口のきき方に
気を付けろよ!」


矢野は、椅子に座ったまま
署員に倒れかかり、痛さに顔を歪める。

駅のホームまで駐在署員が見送り
中野たちに敬礼する


署員「矢野は無事
あなた方に引き渡しました。」


「無事に…?」
矢野はニヤニヤ笑う。


気動車は、渡良瀬川に沿って
山間を走り始める。


中野は矢野と手錠を掛けて座るが、懲りない矢野の暴言が中野の機嫌を損ね、肘で激しくド突かれた矢野は嗚咽する。

年配の婦人二人連れが、不安そうにこちらを見る。

「中野さん、変わりましょう。」
五十嵐が、中野と入れ替わる。


中野は立ち上がり、ボックスシートで新聞を被って寝ている男に声をかけ、タバコの火を借りる。

同じ駅から乗車してきた男だが、挙動が不審と睨んだようだ。

「どうも」とマッチを返しながら戻ってくると「次で降りるぞ」と、五十嵐に耳打ちする。

三人が駅で下車するのに気付くと、新聞の男は慌てて飛び起き、後を追って降りようとするが、ドアの直前で中野はその男の手首を掴んで捻り上げる。

男「うっ!何をする…」

中野「こらぁ、なんで俺たちを追って降りようとしたんだ。」

男「いえ…、足音がしたんで、駅だと思って…つい…」

中野「もう発車するからよ、次で降りろ」



中野「奴は、デカの類いだな」

五十嵐「デカ?
でもなんで俺たちを
つけているんですか?」

中野は、男が被っていた新聞を拾い上げ、紙面を開いて五十嵐に差し出す。

『麻薬取締官心中事件』の記事だ。



それを覗き見た矢野は

「心中するような奴かよ…」と呟く。

五十嵐「なにぃ?」

中野「いま心中するような奴か
って言ったな」

矢野「ほう、そう聞こえたかい…」

中野「お前、この取締官
知ってるのか?」

矢野「・・・、あぁ
知ってるよ」

五十嵐「なにぃ?」

矢野「…、奴は仲間を裏切ったから
殺されたんだ。」

中野「何の仲間だ?」

矢野「… 無事になあ
お前たちの署までたどり着いたら
教えてやってもいいぜ…。
無事にな…」


ヘラヘラ笑いながら嘯く。


列車はトンネルの先で、落石が発生したため足止めとなる。



犯人護送のため先を急ぐと迫り
駅員の運転する車で三人は出発するが
それを横目に、作業員風の男が
公衆電話で話す。

「駅の車で出掛けました。」

ー 何か勘づいたからじゃないのか?」

「そうかも知れません」

ー 消せ

「矢野をですか?」

ー ヤツは口が軽い、それにいい気になりすぎている。


落石現場まで​車で来たが、あとは歩きで山越えだという。


草深い山道を歩きながら、矢野を挑発する中野。自分の素性を仄めかす矢野。

矢野「奴らはには、俺を助け出さなきゃならない訳があるんだよ。」


中野「どうせお前は、ただのチンピラだ。口から出任せ言ってるだけだろうが…」

矢野「バカ野郎!出任せじゃねぇよ!
俺はなぁ…!
ヘっ、その手は食わねえんだよ。
ヒッヒッヒッ」

そこへ、突然発砲音が…

パパパ~ン

五十嵐「散弾ですよ。」

矢野「おいっ、来たぜ、お迎えがよ
お~い、俺はここだぁ!」

パパパ~ン

矢野「バカ野郎!
俺をまちがえやがって
俺だ、俺だぁ~」

パパパ~ン

矢野は得意になるが
銃撃は容赦ない。

中野「アラシ!
何人ぐらいいると思う?」

五十嵐「3、4人はいますね。
少なくとも…」

中野「奴らはよ
こいつも殺すつもりらしいぞ。」

矢野「そんなはずはねえよ!」

中野「こいつが死んじまったらなぁ
元も子もねえからなぁ…」

草むらに身を隠しながら移動するが
中野は脚に被弾する。

中野「大丈夫だっ…! かすり傷だ。」

五十嵐が反撃し
なんとかその場を逃げ切る。


矢野は靴を失い、裸足のため
足の裏が血まみれで歩けない。

五十嵐は自分の靴の片方を差し出すが
戸惑う矢野に
「いいから履けよ」と促す。


やがて農耕地に出ると
三人は草地で休憩した。



「ちょっと行ってくるからな。」
と、離れた中野だが
すぐ戻ってくると、五十嵐は


「あれ、中野さん
どうしたんですか?」

「あぁ、ちょっとな…」
と言いながら、矢野を気絶させる。

五十嵐「なにするんですか!」

中野「お前一人じゃ心配だからよ
サービスしてやったんだ。
見てろよちゃんと…」


五十嵐は、ハンカチを湧水で冷やし
矢野を介抱する。


トラックの側で畑仕事をする男に
中野は上着で拳銃を隠しながら近付く。


「あの、電話があるところまで
乗せてもらえませんか?」


三人はトラックの荷台に乗せてもらい
しばらく走るが停まってしまう。
ガス欠だという。

男「燃料を取ってくるよ」

五十嵐「どうも、すみません」

男「ま、いいってことよ。」

五十嵐「田舎の人は親切ですね。」

中野「ほんとにそうだといいけどよ」
と男が去った方へ銃を構える。

男は、あの公衆電話で話していた男だ。

中野は、ポケットから煙草を取り出し
矢野に「吸うか?」と訊く…

矢野は、バツが悪そうに頷き
三人はタバコを咥え
一瞬だけ和やかな空気が流れるが…

「マッチがない。」

五十嵐「あ、運転席にライターがあったっけ…」

立ち上がろうとすると
ライフルの銃声が鳴り響き、トラックのボディーに当たる。


三人は慌てて身を伏せる。


中野「散弾の次はライフルか…」


すると、どこからか
さっきの男らしき声が聞こえてきた。


≪ 聞こえるか?
矢野を荷台からおろせ ≫


荷台の煽りに取付けられたワイヤレススピーカーだ。


≪ 言う通りにすれば
二人は行かせてやる ≫


矢野「どうするんだ!?
降ろすのか降ろさねえのか。」

中野「うるせえ!
てめぇは黙ってろ!」

矢野を降ろさなければ
全員を殺す ≫


中野「おもしれえじゃねぇか!
徹底的にやったろうじゃねえか!」


中野は、拳銃でスピーカーを撃ち壊した。


🔫


長いので…とりあえずここまで…



なんだ、いいところで、と言われそうですが…、視たい方はDVDやCS放送などでどうぞ…


松田優作さん、中村雅俊さんは勿論のこと、小野進也さんもイイ味出している。

アツい男たちの血と汗と、埃と草いきれが、あたかも西部劇のようで、思わずポール・ニューマンとロバート・レッドフォードの『明日に向かって撃て』のようなのだ。



このあと、矢野は「どうせ三人とも殺されるんだから…」と、素性を白状し始める。

矢野は、警察が押収した麻薬の横流しに絡んでおり、心中事件の取締り官も、その仲間の一人だと…。

だから命懸けで連れて帰っても、厄介者を連れて帰るだけで、誰にも歓迎されず、何の手柄にもならないという。



『俺たちの勲章』が、『太陽にほえろ』や『大都会』、『西部警察』などの刑事ドラマと決定的に違うところは、主役二人が捜査の主流から疎外されたアウトローなところだ。

ドーベルマンのように鼻が効く中野刑事、ヒューマニストの五十嵐刑事ら、若い刑事の自由なスタンドプレーによって、他では見られない世の中の闇が、図らずも露呈してくる。

しかし、どんなに銃の扱いや、格闘が強くても、犯罪を未然に防ごう、犯罪者を更正させようというヒューマニズムを持っていても、どうにもならない、世間知らずの若い二人が世の中のジレンマを思い知るドラマなのだ…

だが決してあきらめることなく、難問と格闘しつづけるのだ…

「悪を追い詰める」とは、聞こえが良くてかっこいいが、捕まえたはずの悪は、既に切り取られたトカゲの尻尾で、下手をすると一蓮托生でこちらも葬られてしまう。

この世界の光と闇は、コインの表と裏のように、オセロの駒のように、白黒はっきりした構造であってほしいと、勝手に願っているだけなのかもしれない。自分のような単純思考でも解りやすいように…

ラストシーンで、中野は海に向かって銃を放つ。

その弾は、衝撃音を轟かせながら、空なのか海なのか、中野たちの怒りのように、どこへともわからないブラックホールへ空しく吸い込まれてしまうようだ。



昨年の9月、ドラマ『半沢直樹』を視て、「あの青春ドラマや情熱刑事ドラマの流行った時代でさえ、巨大権力の下では正論はねじ伏せられる、というストーリーが多かった。」

と、書いたのは、そういう感想だったのだが…