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ソングライン くるり

いまの日本に、くるりほど真っ当でまっすぐなロックバンドはいない。誤解を恐れずともいいきってしまっても問題ないと思う。ファンファン産休からかなりの時間を経てリリースされた新譜だが、これぞくるり!と賞賛の嵐をおくってしまいたくなるほど素晴らしいものであった。すでにライブなどではおなじみの楽曲や、シングルとしてリリースされていたものが多かったので、アルバムとしての統一性がなくベストアルバムっぽいものになってしまうのでは、、、という心配はまったくの杞憂であった。どこか懐かしさをかんじるような暖かいミックス。丁寧に丁寧に作り込まれたトラック。ささやくように語りかけるように、そして力強く届く岸田繁の歌声。デビュー20周年を超えているバンドとはおもえないほど瑞々しく新鮮に輝く珠玉の12曲、それでいてキャリアに裏打ちされた確かな楽曲の力強さといったところだろうか。なんとも聴いていて落ち着くアルバムである。すばらしい。

個人的に、ここさいきんの岸田くんが作る楽曲の方向性(ロックというより、交響曲というか、ソングライティングの手法がいままでのロック的なものとはまったく違い、緻密にトラックを重ねていくような繊細な作り方)について、ちょっと寂しさを感じていた僕もいたのだが。。なぜかというと、どうしてもMr.Childrenにしてもくるりにしても、過去に一度、自分が「最高!」と感じてしまった懐メロを求めてしまうのだ。Mr.Childrenではそのものさしは「深海」であったり「I♡U」(アイラブユー)だったりするし、くるりでいえば「The World is Mine」や「アンテナ」だったりするわけだ。ようするに、シンプルなオルタナティブ・ロックンロールを求めてしまっているわけなんだが、今回の「ソングライン」は、その過去のくるりの空気感をそこかしこに残しつつ、次なる楽曲のステップへと大きく歩みを進めたような、全方向型のくるり、オールマイティなくるりの魅力をとことん詰め込んだような傑作なのだ。

テクニカルなプログレッシヴ・インストメンタルの「TOKYO OP」、人生の応援歌のような「ソングライン」、イントロのザラついたギターリフを聴いた瞬間にしびれてしまう「その線は水平線」などなど、今回の作品にはとてもバリエーションに富んだ楽曲が詰まっているが、前作「THE PIER」や、そのまえの「坩堝の電圧」と比較するとどことなくアナログ感がただよう温かみのあるミックスの楽曲がおおいように感じる。ここが一番個人的には意外だった点で、統一感がものすごくあるのだ。確かに「琥珀色の街、上海蟹の朝」や「ふたつの世界」など、既発のシングル未収録のものもあって、なるほどアルバムの世界観を考えるとこれらが収録されていないのも納得だなあとおもってしまった。シングルの寄せ集めなどではなく、ひとつの統一感をもって圧倒的なクオリティのアルバムをリリースするくるりの底力に心底驚かされた。

おそらく、聴き手が考えるのをはるかに超える手間暇をかけて完成された楽曲たちであろうにもかかわらず、小難しいことを考えなくてもすっと心にしみる、ものすごく高級なんだけれど、ものすごく庶民にやさしい、高級素材を親切丁寧に調理した小料理屋の親父、割烹岸田繁のフルコースのような作品だなあとおもっています。なんだそりゃ。

追伸。今年はすばらしいアーティスト、アイドルが素晴らしいアルバムをたくさんリリースしてくれて、ほんとうに幸せな年になっています。年末には今年のベスト10をまとめられたらいいな。


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