マガジンのカバー画像

見える孤独をあじわいたい

6
代々木4丁目のマンションから八王子の雨漏りする平屋に移り住んだことで起こったこと、変わった暮らし、人生について。タイトルの「見える孤独をあじわいたい」は、漫画家|手相家の卯野たま…
運営しているクリエイター

2024年1月の記事一覧

見える孤独をあじわいたい 06

決めては彼の言葉 言葉は魔法のようなものだと思う人生にある。言葉を重視し過ぎない、行動こそ大事だと人生の経験により今はそのように思うに至ったが、かつては言葉を盲信していたように思う。言葉にすべてできると信じるという意識もなく信じきっていた。それはそれで事足りていたからかもしれない。 確かなことはわからないが、ぼくの場合、お付き合い、人との恋愛によって「言葉ではそう言っていたのに」というある意味での裏切りみたいなものにより、言葉って? となった。恋人とは好き同士で一緒になる

見える孤独をあじわいたい 05

year 1 八王子へ 2006年の秋に告白し、好きではないが付き合うことになったふたりは、喧嘩をよくしていた。言い合いは一度もない。一方的にぼくがポツポツと延々と吐露する、彼との関係の不安と不満を、という陰湿な喧嘩を当初はループするように繰り返していた。出口がないような感覚もあった。相性が悪いふたりのようであったと今は思うが、客観的に関係を眺める余裕はなく、終わりにしたいとは一度も思わず、とにかく前だけを、その場その場だけを見てきた私であった。彼がどうその関係世界を見て

見える孤独をあじわいたい 04

愛ってなに、歌にしてわかるの? くるりのその歌の一節もそういえばずっとずっと刻まれていて、彼とのこの17年の時間に思う歌である。歌とはそうしたある種おそろしく埋め込まれていく魔術的な力がある。音と言葉があわさって、ひょっとしたら認知症という状態になったとしても忘れることがないそのくらいのものではないかと思う。ぼくはこの人生に歌を作っていた時期もある。歌詞は書いたことが一度くらいしかなく作曲はたくさんしたが、才能は感じられない。どうしても自分の知ったものの、好きになった歌の影

見える孤独をあじわいたい 03

彼のことが進まない 彼のことなど進まないのである。記憶とはそう都合よく運ばない、あるいは思考とは。あるいは想像とは、時間とは。そういうことばかりなのである。だけど試みることはできる。人には自由意志というものがあり、その自由意志が有効なのか、それとも決まっているルートをベルトコンベアーに運ばれるように、ディズニーランドなどの乗り物アトラクションみたいにただ運ばれた先に決まったタイミングで何かがどーんと出てくるそういう世界と同じなのかは本当にはわからない。彼が運命だったのか、運

見える孤独をあじわいたい 01

year 0 彼のこと 彼との出会いはmixi。当時はSNSというものがまだほとんどなくて、唯一がmixiだった記憶。まだ世界にiPhoneがなくて、どんどん携帯電話は小さく小さくという競い合いがなされていた。ぼくは小ささにはこだわらず、かわいさで決めていた。価値観というのだろうか、ぼくはいろんなことを「かわいい」で決めている。決めてきてしまった。が、彼のことはかわいいとは思わなかった。かっこいいとも思わなかった。オシャレとも思わなかったし、自分と縁がある人などとは1ミリ

見える孤独をあじわいたい 02

彼のことはわからない わからないからいいということはある。彼とは結局恋人となった。25歳の彼に30歳のわたしは、プロポーズするみたいに覚悟を決めて深夜3時とかにタクシーで中野坂上の彼の部屋を訪ね、詰問するみたいに告白をした。彼は9月の生まれで、乙女座で、彼と知り合って初めてのバースデーに親の自動車を借りてなぜだろう日光に宿をとった。車の運転は得意なほうかなと思っていたが何年か運転から離れていたのもあり、日光への高速で「危険!」という本気のクラクションを鳴らされものすごく恥ず