在タイ日系中小企業が日本人を採用するにあたって大切なこと

元々文章は読むのも書くのも大好きでnoteは前々から興味があり、年末年始休暇中に一本くらい書いてみたいなと思っていた。今回は手始めに少し前までやっていたタイでの日本人の採用活動にあたってウチのような知名度のない中小企業が良い人と巡り合うために意識したことや重要だと実感したことについて書こうと思う。自分のようなオーナー社長の息子という立場だからやれることもある一方、駐在員が現地日本人を採用する際、またタイ以外の国でも海外法人で現地在住日本人を採用する際に共通することもあると思う。多分日本で頑張っているアトツギ仲間の皆さんにも。

なお「タイ現地在住日本人」という言い方をしているが、現時点で日本にいてタイで働きたいと思っている人もここには含まれる。

面接は自社のことを好きになってもらう場と心得る

中小企業の採用面接では手持ちの会社概要資料を使って簡潔に「ウチはこういう会社です」と説明してそのまま相手に自己紹介を促すことが多いのではないだろうか。僕はここに一手間を加えたらいくらか差別化になるのではないかと思い、具体的に以下のようなコンテンツを含むプレゼンを準備した。

①ちょっと深めの自己紹介

②会社のビジョンやバリュー、今取り組んでるものごとの紹介

③今回の求人の背景

④ジョブディスクリプション

①が多分一番大事なので長めに説明する。まずはこちらから個人的な話も含めて「ちょっと深めの」自己紹介をする。「ちょっと深めの」というのはそれこそ役職と担当業務だけ伝えるなんてものではなく、細かい経歴も含めた一般的な自己紹介以上のこと。例えば経歴にしても入社した会社と所属部門、勤続年数のみを伝えるのではなくて、「最初の会社では当初鬼のような上司がいて何かある毎に怒られないかビクビクの毎日でしたがその後は云々」みたいな感情のこもった生のエピソードを入れるということ。あるいは「学生時代に事故で死にかけたことがあって」とかでもいい。採用面接では候補者が会社から一方的に質問を受けることが多いので、こんな事細かにまるで候補者かのような話をされると相手は「おっ、この人(会社)は良くも悪くもちょっと違う」という印象を受けるのではないか。

また「自己開示の返報性」というのがある。人間は相手にさらけ出されると相手への心理的安全性が高まり自分も同じレベルで開示しても良い、すべきだと感じるため、その後候補者に自己紹介をしてもらう時にも普通より深掘りされた話が聞けることが多い。自分のことを下げ過ぎないちょっとしたドジ話(『新卒の頃0を一つ間違えて請求書を出してしまい大騒ぎになりました』とか)などは特に相手との距離が縮まるので効果的。

面接の場で面接官が自分のことを細かく話すというのは特に大手企業なんかでは考えづらいと思うのだけど、たとえ大手であっても海外法人は限られた人数で回すわけで自分の色を出すことはできると思うし、特に自分の部下を探すケースや現地法人トップが自ら行う面接では「一緒に働く上司はこういう人なんだ」と候補者側に事前に理解してもらった上で入社してもらうことでミスマッチも一定度防げるのでは。

②は過去の自社がかなりブラックな状態だったので、それを今こんな風に改善しました、しようとしていますというエピソードを伝えるようにした。バリュー(行動規範)は最近きちんと作ったので問題なかったものの、ビジョン(目指すべき姿)は現在進行形で経営幹部と構築途中だという話を正直にした。そういったものがない状態の会社も少なくないと思うが、「現状は良くないけど良くしようとしている姿勢」を示せるエピソードがあれば積極的に開示すべきと思う。この点ビジョンがしっかりしている会社は全面に押し出せば大きな差別化ポイントになって強い。

③では具体的にどういう理由で人を探していてどんな役割を期待しているか、将来同じ会社の中でどんなキャリアパスが見えるかというのをできる限り明確にする。たとえ自分が駐在員であと何年いるかわからないという立場でも少なくとも今人が必要な理由は語れるし、自分個人の期待を伝えるだけでも相手の受け取り方は大いに変わるはず。

④はそのままJDの内容を明確にし、具体的な業務について相手にイメージをしてもらう。欧米式にキッチリ線引きをしづらい業務が頻発し、そういった事にも責任感を持って取り組んでもらいたいと考えるのが多くの日系企業だけど、たとえそうであっても「ここに書かれていることだけでなく色々なトラブルシューティングも発生します」などと可能な限り言語化して伝えたいところ。

ここまでのことを一つの資料にまとめるだけで採用に対する意識の高さはアピールでき、少なくとも同規模の他社との違いは見せられるのではないだろうか。実際に人材紹介会社を経由した面接後のフィードバックでは「トップが事細かにしっかり説明してくれた」とポジティブな反応をもらえることが結構あった。今日本の若い企業などは普通にやっていることなのだろうけど、大手を除き海外現地法人は人事の専門家がいない組織がほとんどなのでそうはいかないはず。面接は誰を採用するか選ぶ場である一方、まず相手に自社のことを好きになってもらわないとどんな良い人がいても来てくれないという風に意識をリセットすることこそがここで一番大事と思う。待遇面で必ずしも良いオファーが出せない中小企業は「選んでやってる」という考え方は決して持ってはいけない。

人材紹介会社をパートナーと考えて真摯に接する

タイの場合は人材紹介会社に求人を依頼するのが一般的で、かなりの数の業者が存在する。クオリティは玉石混交でフィー欲しさに手当たり次第に履歴書を送ってくる会社もいるのだけど、採用活動、特に給料の高い日本人の採用はとにかくエネルギーを費やすプロセス。履歴書を読むだけで結構疲れるし面接も本気を出せば出すほど時間も手間も掛かる。人材紹介会社がどれだけ求められる人物像を理解して適切にスクリーニングをしてくれるかで無駄打ちによるロスを防げる。そのためには信頼できる人材紹介会社と担当者さんにいかに出会えるか、またこちらも求める人物像について熱量を惜しまずきちんとすり合わせをできるかが重要。こればかりは理想のパートナーに出会うまで複数社をあたってみるしかないが、僕のオススメの会社と担当者さんは紹介できるので興味があればツイッターでDM頂ければと思う。

ツイッターといえば今回自分がツイッターでも求人をしたら最終的にそこからのご縁で採用が決まったが(詳細はこちらの連投)、これはどちらかというと飛び道具に近くて心理的にもハードルが高く、自分がオーナー企業のアトツギでなくても出来たかというと正直自信はない。でももしそれができる立場なのであればブランディングの意味でもやってみることをオススメしたい。

妥協は決してしない。でも最後はやっぱり「ご縁」

タイ人事界隈の先輩方がよく言っているのが「やはり採用が大事」ということ。採用後の教育で能力が向上することは普通にある。でもやはり採用時のポテンシャル次第で能力改善までに掛かる時間は全然違うし、結局望んだレベルまで伸びないということも考えられる。「もう結構な人数会ったしとりあえずこの人でいいか」という妥協は絶対やってはいけない。また前述のような会社のバリューやビジョンへの共感があるかどうかはとても大事で、どんなにスキルはあってもバリューに背くような言動をする人は組織にとって決してプラスにはならないので絶対に採用してはいけない(とはいえ面接でそこまで見抜くのは難しいけど)。

またSPIのように一般教養や数学的理解力、語学力などを測るオンラインテストをGoogleフォームで作り候補者に受けてもらった。手作り感満載のものだけどそれなりに意味はあったと思うしオンラインで設問を引っ張ってきたりも含めて数時間あれば作れるのでこれもオススメしたい。

そして面接回数。大手のように第7ラウンドとかまでやる必要はないと思うが、いくら中小企業だとしても一度きりで決定するのは避けたい。たとえトップが初っ端に一対一で面接したとしても、その後一緒に働く事になるタイ人メンバーや他の管理職も同席して複数回行うようにしたい。自分以外の相手と話す候補者の様子を見て印象がガラッと変わるということもあった。

と、こんな風にやっていたら結果として良い出会いが沢山ありかなり悩んだ。ただ無期限に募集するわけにも候補者の皆さんを保留でずっと待たせておくわけにもいかず決断しないとならない。ここに関しては今求めているポジションに一番重要な要素は何か、どの候補者が一番能力を有しているのか、などなど切り口は色々あると思うのだけど、最後は直感しかないしそれで良いのだと思う。良い人と沢山出会った上で一番ピンと来る人というのは何かしらの「ご縁」があるはず。直感に従って採用決定すべき。

以上、僕は人事のプロでも何でもないし、プロに言わせてみたら間違ったことも書いているのかもしれないのだけど、自分がタイトップになり初めて日本人を自分の裁量で募集する事になってから自分なりに試行錯誤した結果として今言えることをまとめてみた。タイ人の採用の方が機会はもっと多いしこれに対するTipsを書けたらもっと良いのだけど、残念ながらそちらの採用ルールはまだきちんと作れておらず、2022年中にタイ人の採用を差別化する枠組みをプロと一緒に整備していく予定。良いものができたら可能な範囲でまた共有したいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?