リアル 6
☆
ケイトさんの1回目のレッスンを終え、僕は再び新宿へ向かった。
世間には「○○のファンが集う店」というのがある。
僕が向かったのは熱烈な氷室京介さんのファンである店主が営む焼き鳥屋さんだった。
すごく楽しみにしていた。わざわざ事前に予約までしていた。
氷室京介さんファンが集う焼き鳥屋さん、「新宿 まいど(仮名)」だ。
お店は新宿歌舞伎町の隅のほうにあるらしく、僕は歌舞伎町をおそるおそる、それでいてずんずんと進んでいった。
ケイトさんのレッスンで今後のレベルアップの糸口が見えたことも、僕の足取りを軽くしていた。
☆
「いらっしゃいませ」
事前に予約していたことを告げるとカウンターの端の席に案内された。
店主は愛想良くというのは少し苦手なように見えた。(このお店を知るきっかけになったネットの記事に写真が載っていたのでこの人が店主だということはすぐに分かった。なんか嬉しい。)
うんうん、そこらへんもまた氷室ファンて感じでいい。
案内された席には何か、ラミネートされた下敷きのようなものが置いてある。
「ノムラ様 1007 Happy Birthday!!」
と書かれていた。
一瞬???(僕の誕生日は10/11なので)と思ったが少し考えて胸が踊った。
今日は氷室さんの誕生日だ。
狙って来たわけではない。本当に偶然だった。
というか氷室さんの誕生日までは知らなかった。
こんなことってあるんだな。
☆
店内には所狭しと氷室さん(とボウイ)のポスターや写真が貼られていてまさに氷室さん一色だ。
店主にことわって記念に店内の写真を撮らせてもらう。
常連さんならともかく、初めてこのお店に来た人は大体こんな感じなんだろうな、と内心クスッと笑う。
僕はカウンターの隅でビールを飲み、店の中で延々と流れる氷室さんのヒストリー映像を眺めていた。
僕が座っていた席はお店の入口に一番近いところで、ということはお店にいるお客さんは全員僕と一度はすれ違っていることになる。
ヒストリービデオが氷室さんの15周年ライブを映し出し、氷室さんが涙を堪えて歌ったCLOUDY HEARTに僕は思わずもらい涙が出そうになるのをこらえていた。
「ウイスキーいっちゃおうかな・・東京来て二日目だけど。」
なんてことを考えていた時、一人の女性に声を掛けられた。
「そんな一人ぼっちで飲んでないで、あっちで私たちに混じりませんか?」
とても嬉しかった。
他所ならともかく、今この店の中にいるのは全員氷室さんのファンなのだ。
「はいぜひ!」とお店の奥の席についていくと声を掛けてくれた女性を含めて男女5人のグループだった。
みんななかなかに出来上がっている。陽気な感じだ。
沖縄出身の方々のグループでもあったらしく、さっそく泡盛が登場する。
本当によく笑った。
共通の話題があるということが嬉しかったし、それが氷室さんだからなおさらだ。
すぐに次の予約のお客さんが来る時間になってしまい、その席にあまり長くはいられなかった。
ハッピーバースデー氷室京介さん。アルバムを楽しみにしていますよ。
そして最後は店にいたお客さん全員と乾杯して僕は店を後にした。
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「記録の存在しない街、トーキョー」に送り込まれた一人の男。仕事のなかった彼は、この街で「記録」をつけはじめる。そして彼によって記された「記…
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