並行線のエレベーター

横を進んでいく袴姿の女の子をふと目にしていた。
可愛いな、あの子も卒業式かなと思いながら、その女の子の肩を握る手に見覚えがあった。忘れるわけもない肩の抱き方と、声だった。

友人のダンス公演を見るために向かった横浜で、知っている駅をいくつも通過して、少なからず思い出していた。もしかしたら今日もまたここにいるかもしれないと、心のどこかで思っていた。そんなことの罰なのかもしれないけど、まさか現実になるなんて思ってないじゃない。

一緒にいた友達がぺちゃくちゃと男自慢をしている話も上の空、何も考えられない。
何が悔しくて虚しいのかわからない。
私は私が幸せになるための術を、全て正しく選択してきたはずなのに、なぜ今、隣を並行して知らない子の肩を抱くあなたを見る羽目になったのだろう。

見たくもなかった。私の中で死んだことにした彼の声は私の記憶の中と変わらなくて すぐに分かってしまったのは、もう私の落ち度でいいからどうか早く忘れたい。
彼女の顔が見えなかったのは幸いだった。きっと、あのときの私と同じように可愛い顔をしてるはず。私じゃない女の子なら、きっとあなたは幸せにしてあげられる。私だからあなたとは幸せになれなかっただけ。

あなたが好きだと言った私の黒くて長い髪を短く切って、茶色く染めた私にあなたは気付いただろうか。ただの勘違いと思っているだろうか。
すれ違っていたはずが、今は並行するエレベーターを、違う目的地をもって下っている。行き先がどこなのかをお互い知る由もなく、ただ横を進んでいる。
余計な記憶がたくさんよぎって今夜は眠れそうにない。

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