歪み

ちいさな歪みが時間をかけて重なる。

気付いた時にはもう遅くて、誰も手に負えない歪みが完成されてる。

数年前から自覚はしてた。家にいると口に力が入らなくて、喉から声が出ない。何が相槌を打たなきゃと思って小さく「うん」とか「ううん」が出るだけで他の言葉が出てこない。これが精神的な何かでも、そうじゃなくてもどっちでもいい。結果は同じだ。

家にいても話すことないし、あっても話せないし。そう思ってバイトばかりした。家にいる時間を極限まで減らしたかった。家族全員の生活リズムはバラバラになって食卓を囲むことなんてなくなった。まともな会話なんて、いつ何をしたか覚えてない。

空虚な屋根があるだけの場所。できれば明日にでもこんな所から出て遠くで暮らしたい。そんな親不孝な考えばかり過ぎる、自分が、醜くて仕方ない。

数年前からずっと、父は家族の衣食住にお金を払ってない。どころかそれよりも前からずっと母にモラハラをしていたそうだし、最近はもはや家に帰らなくなった。バーだかスナックの女がどうやら私たちより大切らしい。

そんな今になって離婚はむしろ「ようやく」なのに母は18のときから父と付き合ってるから、そう簡単な気持ちにはなれないのは、なんとなく私ももう子供じゃない女として想像できる。


母にとってわたしは父との証で、家族の始まりで、母の始まりで、成功の証でもある。ちゃんとした大学に通う「ちゃんとした娘」が母の生きる支えらしい。だからわたしはここから逃れられない。

1人で生きてみたい、それが苦しくても、自分の力だけで生活がしたい。何かをしたいとかそんなのほとんど描けないわたしの、数少ない夢だった。

って言っても、ただのひとり暮らしなんだけど。

幸せなふりでもして生きていたい。誰とも話さず会わず家の中にいるとインスタばかり見てしまう。手の届かないような幸せなキラキラ人生を送ってる美男美女たちを、唇の皮を剥きながらスクロールしていく私。ふと暗い画面に映りこんだ自分が醜くて仕方なかった。

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