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「はみがきじょうずかな」に出たい

週刊台本 #36  漫才

A:子供の頃憧れてたテレビ番組ってあるでしょ
B:ああ、あるね
A:そういう番組に出るのがやっぱり夢の途中だよね〜
B:夢でいいんだよ。「夢の途中」はセーラー服と機関銃の曲作った人がセルフカバーするときに使うタイトルだから
A:……ほざいてるね〜
B:ほざいちゃいねえよ。なんだその物言いは
A:子供の頃見てて、出たいテレビ番組だよ
B:ああ、そうだね。なんかあるの?
A:「はみがきじょうずかな」に出てみたいね
B:出れねえよ
A:えーっ
B:そもそも「出たい」みたいな目線で見ないでしょあのコーナー
A:嘘?子供の頃見なかった?
B:いや、見てたよ。でも、出たくなるようなタイプの番組じゃないでしょ
A:いやいや、真剣に見てたけどねえ
B:変だよ。あれ真剣にみるの
A:自分で点数もつけてたし
B:なんの!?「はみがきじょうずかな」のなんの点数つけてたの?
A:いや、歯磨きのじょうずさでしょ
B:あれじょうずさを競ってねえんだよ。「じょうずかな」とうたってはいるものの
A:「今日は奥歯45点、前歯42点の87点だな〜」
B:知らないよ、奥歯前歯の50点ずつとか。それ歯科衛生士がやる仕事だから
A:オンエア後はちゃんと講評ブログも書いてたし
B:「はみがきじょうずかな」の?なんでお笑い好きが賞レース見るときみたいな見方で見てんだよ。熱量込めるところ絶対間違えてるだろ
A:いや、でもそんくらい好きだから。だから出たいんだよ
B:出れねえって
A:わかってるよ、やっぱり自分みたいなアマチュアには狭き門だってことは
B:アマチュアとか関係ねえって。出てんのあれ全員アマチュアだから
A:なんでダメなの?
B:年齢制限だよ
A:え?書いてある?募集要項に
B:書いてあるかは知らねえけどわかるだろ。はみがきじょうずかなに大人が出てるの見たことないだろ
A:……確かに
B:なんで今気づいたみたいな顔してんだよ。ずっと何見てたんだよ。講評ブログまで書いて
A:えーっ、それはきたねえよ
B:きたなくねえだろ別に
A:そんな年齢で弾くなんてさ、順天堂大学の医学部じゃないんだから
B:そんな根深い問題じゃないよ。そもそもがそういう対象年齢の番組なんだから
A:えーっ、出れないじゃん
B:出れねえよ
A:どうやったら出れるかなあ……
B:……
A:……口の中に隠れれば出れるかな
B:お前考えることが下手だな
A:無理かな
B:「無理かな」じゃねえんだよ
A:歯磨き粉が目に染みるか
B:どこ懸念してんだよ
A:無理?
B:そもそも子供の方がお前より小さいんだから
A:……またまた〜
B:「またまた〜」じゃねえよ
A:そっか、ということは逆なんだな。子供の方が俺の中に入ればいいのか
B:何言ってんだよ
A:で、その子供の歯が、俺を磨けばいいんだな
B:何言ってんだよって
A:で、俺の中に子供がいて、でその子供の歯が俺を磨いていて……
B:おいおいおいおい、なんだその歯磨きのだまし絵みたいなキモい円環構造は
A:……うーん、ちょっとわかんなくなってきた、177かけて
B:なんで天気聞こうとしてんだよ。しかも今日日電話で
A:えーっ、いい方法なんかない?
B:いや、現実的なのは、もうお前は出れないから、お前が結婚して、子供産んで、その子供が「はみがきじょうずかな」に出る、みたいなことじゃない?
A:えーっ
B:それくらいで我慢しろよ
A:自分の自己実現のために子供に自己を投影させるのは子供がかわいそうだよ
B:急に真面目、急に真面目になった。さっきまであんなにふざけていた奴が
A:そっか、じゃあ、結婚して子供産んでっていうのが一番いいか
B:まあ、そうじゃない?
A:……っておい!結婚なんかしたら、捕まっちゃうだろ!
B:お前、結婚をなんだと思ってんだよ
A:「ソノ・ウン・イセニャンテ・パーライム」
B:……どういう意味?
A:あ、ごめん、これイタリア語で「私は非常勤講師です」だった
B:全然関係ねえじゃねえか

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