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瞑想の達人、あおられる。

週刊台本 #34  コント

(テレビでも大人気の「瞑想の達人」が街角で何かの行列に並んでいる。そこにやんちゃそうな青年が通りがかって……)

青年:お、あれ?なんか見たことある!ね?ね?
(瞑想の達人、少し困った表情)
青年:え?テレビ出てる人っすよね?え?なんだっけあれ?あ!わかった!あれだ、瞑想の達人だ
(瞑想の達人、面倒臭そうに首をかしげる)
青年:え、まじだ、そうっすよね、めっちゃテレビ出てるっすよね?
達人:いやあ、まあ、
青年:ほらあ〜!やべえ、写真とっていいっすか?
達人:いや、ちょっと……
青年:恥ずかしがんなよ〜
(青年、勝手に写真を撮る)
(達人、いやそうな顔)
達人:もう、いいでしょ、いきなさい
青年:え?何?なんて?
達人:もう写真とったんだから。ね、ワシに構うのはやめなさい
青年:うわ、なんかボソボソ喋ってるんですけど!っていうかまじでワシっていうんだ!プライベートでもワシっていうんだ!やっば、ってか、てっちゃんまだこの辺にいるかな?てっちゃんにラインしよ「瞑想いたよ」ってラインしよ
達人:君、ちょっといい加減にしなさいよ
青年:え?
(達人、ため息混じりに)
達人:いい加減にしなさい
青年:え?え?切れるんすか?
達人:なんだね?
青年:瞑想の達人なのに、きれていいんすか?
達人:いやあ、まあ……
(達人、鼻息を鳴らす)
達人:ふーん……
青年:むかつくか?瞑想して見ろよなあ、瞑想の達人なんだろ?いつでも平常心でいられるんだろ?
達人:まあ……そんなにな、むかついてないけどな
青年:すげー、まじで瞑想の人じゃん。さっきの写真インスタあげよ。ねえ、インスタあげていいよね?
達人:……知らん
(青年、携帯を操作する)
青年:あげたよ
(青年、画面を見せる)
青年:ほら、見て、見て、「ハッシュタグ、行列の途中で寝てるおっさん発見」……ねえ、どう?
達人:「どう」とか知らん
青年:……なあ、瞑想ってなんだよそもそも。「ゆっくりとした呼吸で目を瞑って30分間」とか言ってっけどよお。…寝るだろ!
達人:……馬鹿にするな!
(青年、返す刀で達人を指差し)
青年:瞑想!
達人:……なんだそのいさめ方は……
青年:お前に切れる権利ねえからな。なあ。
(青年、携帯電話を見る)
青年:……あ、てっちゃんだ。え?「その瞑想の人、こないだ喫煙所で見た」……え?タバコ吸うの?
達人:……
青年:瞑想できんのにタバコ必要?
達人:関係ないだろ!
(青年、返す刀で達人を指差し)
青年:瞑想!ここできれたら今までの努力全部無駄!
達人:ほんっとに、何がしたいんだ、こいつは……
青年:つうか、何の行列ならんでんの?
達人:関係ないだろ
青年:え?何ならんでんのこれ?
(青年、列の先頭をのぞく)
達人:関係ないだろ
青年:ゲーム?ゲームならんでんの?
(青年、失笑しながら)
青年:ねえねえ〜、ゲームする時間あるんだったら瞑想したらあ?
(青年、達人の顔を覗き込む)
青年:ゲームする時間あるんだったら瞑想したらあ?ねえ
達人:あのねえ、ワシは孫に買うために並んでるんだよ
青年:そっかあ〜、でもさあ、……孫には瞑想勧めないんだあ?
(達人、正面を向いて上を向いて目を瞑る)
青年:あ!瞑想した!
(青年、だらだら辺りを歩きながら嫌味っぽく)
青年:へえ〜これが瞑想かあ。……おい!インチキクソジジイ!
達人:無視無視、関係ない関係ない……
青年:瞑想の施術みたいなの受けるのっていくらかかるの?ねえ。……調べよ
(青年、携帯電話で調べる)
達人:関係ない関係ない、集中集中
青年:え?一回8000円!?高っか!高いですよねえ!8000円!?目瞑ってるだけで8000円!?ビジネスホテルか!
(青年、達人の顔を覗き込む)
青年:ねえねえ、ビジネスホテルか!
達人:なんだ、なんだこの状況は!……こいつは、瞑想の道を極める上での最後のラスボスなのか?
青年:おい、聞いてんのかよ、何考えてんの?ゲーム一台買うのに施術4回分だなとか考えてんの?1ゲーム4瞑想とか考えてんの?なあ、なあ……
(青年、罵倒を飛ばすジェスチャーはそのままで口パクになる)
(達人、少ししてそれに気づく)
達人:……ん?聞こえない!……超えたんだ!ついにこいつの罵倒を乗り越えて、瞑想で何も聞こえない域まで来れた!
(達人、青年の手を急に握り)
達人:君!君のおかげで私が追い求めている瞑想の道のゴールにやっと到達したよ!
青年:……てめえ何言ってんだよ!
達人:いやあ、本当にありがとう、本当にありがとうね。はっはっはっは……
(達人、去っていく)
青年:……なんで急に感謝されてどっか行ったんだよ!……瞑想すげえな!

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