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例えるなら、自転車の乗り方を教えられる人になりたい

補助輪なしになった日

自分が補助輪なしの自転車に乗れるようになったのは小学校1年生の時でした。周りの子ども達が次々補助輪はずしていく中、自分も早く乗れる様になりたいと焦っていた覚えがあるので、タイミングとしては比較的遅いほうだと思っています。

バランスを保ちながら進むことがうまくできず、ヤケになって補助輪付きの自転車で思い切りスピードをだしてみたら、補助輪が両方地面についていない状態で走れていることに気づきました。

その感覚を忘れないように乗ってみたら、案外あっさり乗れてしまいました。

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ジャイロ効果

バスケットボールを指の先に3秒間乗せろと言われたらどうしますか?

そのままやろうとすると、よほど器用な人でない限り簡単にはできないと思いますが、ボールが地球の自転のようにグルグル回転してる状態にすれば、割とあっさりこの目標は達成することができます。

回転する物体は高速になるほど姿勢が安定するという物理法則があり、これをジャイロ効果といいます。

自転車に置き換えると、車輪が回っている(前に進んでいる)時に安定し、車輪は止まっている状態では安定しないということになります。

大人になってこのことを知ったとき自分はこう思いました。

「これを知ってたら、あと1年早く補助輪をはずせたのに」

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料理と自転車

自転車の運転も料理も、「なんとなくで身につける」ということができます。人に習わなくても自転車に乗れたという人はいますし、なんとなくで味付けをしておいしい料理を作れる人もいます。

しかし「なんとなく」や「感覚」で身につけたり、最初からできたことを人に教えたり説明するのは、やってみると分かりますがすごく難しいんです。

たとえば、体質的に太りにくい人はダイエットの秘訣を聞かれても困ることでしょう。

相手がどこでつまずいているのか想像しにくいですし、「基本的で大事なこと」をすっ飛ばしてしまったり、うまく伝えられなかったりします。

その結果「諦めずに続けていれば、そのうちできるようになるよ」というようなアドバイスになってしまいます。

もちろん、このアドバイスは間違っているわけではありません。継続は力なりです。料理にしても自転車の運転にしても上達のために繰り返しの練習が必要な部分は大きいです。

しかし、目指す方向や練習の仕方を間違えていると、ひどい遠回りになってしまうことがあります。自分の補助輪の件がまさにそれなのです。

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スタンディングスティル

当時の自分は「補助輪なしの自転車にのれるようになるには、止まった状態でバランスがとれないといけない」と思い込んでいました。

この止まった状態でバランスをとる技は「スタンディングスティル」というトリックで、自転車に乗るのが得意な人がそれ用の練習をして初めできるような代物です。

それを補助輪付きの小学一年生が練習したってできるようになるわけがありません。


そうとも知らず、幼い頃の自分はスタンディングスティルの練習をしたり、止まったままバランスを取る方法を周りの大人や上級生に聞いて回ったりして1年近く過ごしました。

結局、当時の自分に必要だったのは止まったままバランスを取る練習ではなく、よろけてもペダルをこぎ続けて前に進む練習だったのですが、そのことに気づかず、誰かが教えてくれるでもなく1年を無駄な努力に費やしてしまったのです。

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トリックレシピ

今、様々なレシピが世の中にあふれています。料理教室、レシピ本、インターネットなどで様々なレシピに触れられますが、自分からするとそのほとんどが、例えるなら「両手離し」や「ウィリー」のようなテクニックやトリックについて書いているように感じます。

普通に自転車に乗れる人は楽しめるかもしれませんが、補助輪がまだ外せない人からしてみれば、面食らったり、がっかりしたりすることになります。

つまり基礎的で大事な部分が「そこはまぁ、みんななんとなく分かるよね?」とばかりに端折られていたり、説明が不十分だったりするのです。

たとえば、塩分というのは料理の味を決める基礎的で超重要な部分なのですが、ほとんどのレシピで「塩少々」「塩こしょうで味をととのえる」というふうに書かれています。

味見をして味の調整をすることは重要なのですが、料理初心者の人はどの味が正解かがまず分からないから、塩で味を整えると言われてもどのくらいを目指すのかという味付けの「ゴール」がわからなかったりするのです。

人が美味しいと感じる塩分濃度は、体液の濃度(生理食塩水)と同じ0.9%前後です。白ごはんのおかずだと1.5%以上になったり、汁物だともっと薄めにしないといけないのですが、この「塩分濃度約1%」という目安を知っているのと知らないのでは、味付けの上達に大きな差が出ます。

レシピを見ずに料理を作ったり、自分でレシピを作ったりできるようになるまでにはさらに10年単位で差が開くと思っています。

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自転車に乗れないのにトリックをキメようとする人

少し話がそれますが、一時期、匿名掲示板2ちゃんねるの「嫁のメシがまずいスレッド」にハマってずっと読んでいました。


料理が苦手な奥さんをもった旦那さんが、愚痴を吐いて慰め合うというスレッドなのですが、2004年に最初のスレッドが立ってから今なお続いている長寿スレッドであり、ここでのエピソードを題材にした漫画本が出ているくらいの有名・人気スレッドです。

ここで出てくる奥様方の料理が苦手な原因は千差万別なのですが、大半の人が「自転車に乗れないのに、トリックをキメようとする」というような、小1のころの自分と同じような間違いをしているように思えます。

最初こそ、面白半分で覗きに行ったのですが、読み進めていくうちに、このスレッドにいる人達やその奥様達のように、料理が上手く行かなくて悩んでいる人に「基本的で大事なこと」を教えることで、助けることができたらいいのにと思うようになりました。

スレッドのルールがあるので、直接助言はできないのですが、ここでのそんな思いが今の自分のレシピ研究や料理を紹介する活動に繋がっているのは間違いありません。

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実は思っているより少ないのかも

世の中に何かを教えている人というのは無数にいます。

しかし、自転車に上手く乗れなかった自分に「よろけてもペダルを踏んで前に進む練習をしなさい」と教えてくれた人がいなかったように、初心者向けの料理本の多くに「塩適量」と平気で書いてあったりするように、分からなくて困っている人が、どこでつまずいているのかを考え、「基本的で大事なこと」を分かりやすく教えられる人は、実は結構少ないのかもしれないと思っています。

でも、だからこそ、そういう人になりたいと、そういう人を目指そうと思っています。

料理好きな人がよりおいしい料理をつくるためのレシピではなく、料理苦手な人でも作ろうと思えるような料理配信や、料理初心者が挫折してしまわないようなレシピを作ろうと、改めて最近思いました。

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※ 改めて読み返すと「チラシの裏にでも書いておけ!」と言われそうな文章ですが、どうしても書きとどめておきたくなったので、ついやってしまいました。





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