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ウィーンまんぷく日記 17/369

 朝の日本語の授業でお手伝いをするのだが寝坊してしまって、支度もそこそこに急いで行く。基本的には学生さんの話を聞いて、質問とかするだけなのでそんなに大変ではなく、むしろ新鮮で勉強になった。多分学部生とか高校生が留学したらこういう感じで新鮮なんだろうな、という新鮮さだった。
 私は一応研究者なので、もっと研究の中で、専門的な意味で新鮮な気持ちにならなきゃいけない。ただ、こういう、見る人によっては幼稚かもしれないような新鮮さを改めて噛みしめるのも、悪くはないんじゃないかと思ったりする。年をとるほど、そういう素朴な新鮮さのほうに出会えなくなるようにも感じる。
 金曜は割と早く帰る人が多い曜日だが、それでも人は多いほうだと思う。私もファンドの書類を書いていたらおなかがすいたのと、さすがに最近寒すぎてちゃんとしたパジャマを買ったほうがいいんじゃないかと思って早めに切り上げる。大学近くのカフェでシュークリームを食べるが、これは久々のヒットで、食べたい味だった。

 トラムに乗って(一月乗り放題券を買った)中心部に出て、パジャマを買う。とにかく寒いので早く済ませたいから、スイスのメーカーハンロの路面店と、ファッションビルのStefflを見る。ハンロは路面店だから量も多いと予想したが、もう最新のに切り替えられていて薄い素材のものしかなかった。Stefflで買おうといろいろ見ていたら「あなたにこれはパンツの丈が長すぎるからハンロとかヅィメリーがいいと思いますよ」と言われて、二秒ほど足の短さにガーンとなるが、でもヅィメリーも好きだからよかった。実際今履いているが、暖かいし布も柔らかい。ヅィメリーもスイスのメーカーだけど、日本ではあまり取り扱いがないのでここで買っといてよかったとポジティブに捉えることにする。同じく日本でもう取扱がなくなったフォーガルのストッキングもあったので買っておく。これもスイス。スイスイスイス。
 帰りに、シロッコの紅茶(これもスイス!)を買おうと思ってJulius Meinl(お菓子からお肉まで、食品がたくさん売っているワクワク高級スーパー)に行くけど、欲しいものがなかったのでJulius Meinlの紅茶にする。これが意外と......というと失礼だけど、良かった。シロッコのお茶は、一時期新宿伊勢丹が扱っていたけれど、値段が安くない割にあまり個性がないせいなのかすぐになくなった。高めの紅茶というとマリアージュフレールやTWGなど、フレーバーが強いもののほうが日本では印象がいいのもしれない。

 帰ってまたファンドの書類を書く。
 SNSの友人の投稿で、よく国際会議でお世話になっていたある先生が亡くなっていたことを知る。最後に会ったのが2018年のトロントで、その数カ月後にご病気で亡くなられたという。2017年に出た私のペーパーの感想をいただいて、そのあと、これから投稿するとしたらどのようなジャーナルがいいか、対象というか流行の移り変わりが比較的激しい(そしてその対象の新しさに部分的に左右されやすいところがある)グローバルな社会運動の研究のなかで、どう自分なりの軸を見つけていくのがいいかという話になった。
 お会いしたのは2012年、ビルバオで行われたはじめての国際会議に参加したときだった。その時は私もD1で、本格的な国際会議で報告するのははじめてだったので、後のコーヒーブレイクでわざわざ声をかけていただけて本当に嬉しかった。「お世辞~」と思ったが、その後に出た彼女のご研究を拝読すると、確かに似ているというか、私が研究していたのは彼女が理論的に明らかにしたかった現象の一部ではたしかにあったのだと思うようになった。
 その頃はまだ周りに国際会議で報告される人が少なく、国際会議で報告したとしてもペーパーにするのは長い道のりになる。周りの人はガンガン先生の科研費プロジェクトに入ったりブックチャプターを書いているのに、こんなことチンタラしていいのか......と思ったが、彼女たちからもらった言葉を思い出しながら、Gmailのランプを見つつ、細々とやっていた。PDになり就職する中で、その後も何度か国際会議がかぶったので、彼女からはそのたびにアドバイスをもらった。自分は日本では孤独というか、あまり研究上の同志らしき人がいないが、彼女のような人がいてくれるのはありがたいことだった。

 写真はウィーン大学の桜。花びらが大きくて、密集度が高いのですごく華やか。

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