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【観た映画】ケイコ 目を澄ませて(三宅唱 監督)

『ケイコ 目を澄ませて』という映画を観た。

耳が聞こえない女性プロボクサーのお話だ。

実話を元にした作品で、聴覚障害を持ちながらプロ通算4戦3勝をあげた小笠原恵子さんの自伝『負けないで!』を原案として、『きみの鳥はうたえる』や『夜明けのすべて』の三宅唱監督がメガホンをとった。

主人公 小河ケイコ を演じるのは、岸井ゆきの。

原作、監督、役者と観たくなる要素だらけの本作だが、実際に観てみると、そういう前提を関係なしに、主人公・小河ケイコの物語に感情移入して見入ってしまった。

好きなシーンを3つあげるとすると以下の3つだ。
1つ目は、ケイコがボクシングをやめようとするが、そんなケイコの気持ちを知らない周囲の人々から次の試合への期待や応援の言葉をかけられて、やめると言い出せずに複雑な表情をする様子を映した一連のシーン。
2つ目は、ケイコがラストの試合にむけての練習で、長いコンビネーションのミット打ちを完走するシーン。
3つ目は、会長とケイコが鏡の前で二人でシャドーボクシングをするシーン。

他にも、具体的なシーンではないが、家での食事のシーンや勤務先のホテルでの業務中のシーン、時折挟む街並みの遠景なども好きだ。

病気や障がいを題材にすると、主人公が記号のようになってしまいがちだが、そうなっておらず、生きた人間として描かれているため、変な同情も湧かなかった。

そういった同情をさそうような記号的な悲惨さのかわりに、もっと身近でリアルな儚さが描かれている。

勝ち負けがはっきり出るボクシングの試合から感じる、勝負の儚さ
経営難でジムをたたむことになった厳しい現実から感じる、商売の儚さ
死にむかう病と闘う会長から感じる、命の儚さ

それらは気持ちの良いモノではなく
むしろ生活者にとって、辛い日常を思い出させる痛いものだが、
その分、登場人物たちには感情移入してしまう。

ちなみに、モデルとなった小笠原恵子が活動していたのは2010年~2013年だったが、映画ではケイコのプロデビューは2019年となっている。これは、コロナ渦をまたぐことで、そこで行き詰まり、疲弊していた人々や商店、時代の空気感を入れたかったからだろうか。単純に撮影時期がコロナ渦真っ只中だっただけだろうか。コロナ渦であるということを一切作品中で描いていないので、後者な気がするが。

全体的に少し遠くから映したショットが多いのも印象的だった。
街を歩くケイコをちょっと遠くから映している。
ジムなど室内のシーンでも体全体が映る感じに加えてちょっとだけ遠い感じだった。
その距離感が、この作品の良さだと思った。

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