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【読んだ本】『鬱の本』/ 点滅社編集部

点滅社の『鬱の本』という本を読んだ。

WEB上の何かの記事で点滅社のことを知って興味を持って、これまで「ニーネ詩集 自分の事ができたら」「漫画選集 ザジ (vol.1)」を購入して読んだ。新作が出るということで買ってはいたが、読めていなかった本書をこの度ようやく読んだ。

『鬱の本』は、鬱と本について84名の著者が綴ったエッセイ集だ。
テーマの1つが「本」ということで、エッセイの中で1人1冊は本を紹介しているので、本のリコメンド集のような側面もある。
著者には、大槻ケンヂ、町田康、pha、谷川俊太郎、山崎ナオコーラ、水野しず、松下育男、東直子、枡野浩一、大橋裕之、杉作J太郎などがおり、ミュージシャンから小説家、漫画家、詩人、歌人など様々なジャンルの人が書いているので、どんな人が読んでも、誰かしら興味のある書き手がいるのではないだろうか。
また、「本が読めないときにも読めるように」という思想で作られた本ということで、1篇が見開き1ページ(1000文字程度)に収められており、長い文が読めない時でも、気軽に読める構成になっている。
(著者が84人もいるから、作るの大変だったろうなーと思った)

内容の話をすると、この本の「甘すぎないこと」「暗すぎないこと」が良いなと思った。
『鬱の本』と聞いて、読む前はもっと陰鬱な内容を想像していた。
もしくは、「がんばらなくていいんだよ」みたいな甘い言葉を集めた本だったら苦手かもなと思っていたが、それは杞憂であった。
もちろん、鬱をテーマにした本ということで、鬱の経験を語っている部分もあり、少し重めな箇所もあるのだが、全体的に暗すぎる感じはなく、むしろ、明るいテイストのエッセイが多い。
鬱なんて縁のない根明な人からすると、「鬱の人が鬱な作品を読んで余計に暗くなってどうするんだ」と思うかもしれないが、それなりに落ち込んだことのある人間なら「鬱の時には鬱な作品しか受け付けない時もある」というのは想像できるので、そっちの方向でまとめられた本だったら、今の元気寄りの自分にはちょっときついなと思っていた。
結果として、元気寄りの状態でも楽しめる内容だったので、面白く読むことができた。

読み方のおすすめとしては、少年ジャンプ的な読み方だ。
自分は頭から順に読んでいったが、本来はどこからでも読める本だと思う。
好きな著者がいれば、その人のエッセイから読めばいいし、目次を見て、興味があるタイトルのものを読んでいく、なんて読み方でもいい。
少年ジャンプのように好きなところから読んでいくのが、一番楽しいのではないか、と思った。
(と書いてしまったが、ジャンプを頭から読むタイプの人もいるのかもしれないな……)

自分が特に好きだったのは
下川リヲさんの「俺は鬱病じゃない」

菅原海春の「あの娘は雨女」。

どちらもかなり「陽」寄りの文章で、
軽快なリズムで読みやすく、コミカルで面白かった。
憂鬱な時に読んでも元気が出そうだなと思った。

あとは、展翅零さんの「とかげ」というエッセイの冒頭の一節がとても良かった。

なんにもない日に、こうしてなんにもしないと、どうしていちにちのおわりに夕方ばかりが反芻されてしまうんだろう。

「とかげ」 展翅零 / 『鬱の本』P.104

「夕方ばかりが反芻されてしまうんだろう」という部分が特に好きで、
そんな状態、情景になんとなく共感できたのと、
その時に本来あるはずの、一日を無駄にした無念や焦燥感、自分への嫌悪感が滲んでいない、綺麗な表現がとてもいいなと思った。

『鬱の本』の全体の話に戻ると、
内容以外に、物としての「本」のかわいさも良い。
手の平くらいの小さなサイズ感は圧迫感がなくて良いし、
ハードカバーでちょっとリッチな装丁は長く持っておきたくなる。
表紙の「鬱の本」という題字がキラキラしているのも良い。
外のカバーがないのも煩わしくなくて良い。
(本づくりとして当たり前かもしれないが……)内容だけでなく、物としての本の設計にもこだわって作ったのが感じ取れた。

点滅社の方が発信している内容を見ると、『鬱の本』は沈んだ人を照らす光として作られたのだと思う。
その点、自分は過去に重度の鬱になったことはないし、特に今はどちらかと言えば元気な状態だ。
そういう意味では、今の自分はこの本のメインターゲットではないだろう。
しかし、この本を楽しめたし、この本をきっかけに読んでみたい本がたくさん増えた。

『鬱の本』を読んでみて、この本は「鬱の(人だけのための)本ではない」と思った。
もちろん、どんな本だって、誰が読んだっていいのだけど、
読む前は正直、「自分が読んでいいのかな?」という引け目が少しあった。
それだけ「鬱」という言葉に重いイメージがあったのだと思う。

世間体として、『鬱の本』なんてタイトルの本が家にあったら、家族に心配されないかなとか、恋人や友人に引かれないかなとか、思って敬遠している人もいるかもしれない。
でも、そういう人も、ぜひ気軽に手に取って読んでほしいと思う。
本屋さんでレジに持っていくのが恥ずかしければAmazonとかネットで買えばいい。
案外楽しめると思うから。
あと、いつか自分が鬱になった時、もしくは、どうしようもなく落ち込んだ時に思い出して、読む時が来るかもしれないし。

一家に一冊あって良い本だと思います。

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