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夏のにおいだけでエモくて死ねる#45

夕方、コンビニから出た時に感じるアスファルトの蒸れた熱と、夕方の涼しい風の混ざったにおい。

通り過ぎる木のそばでは樹液の匂いとカブトムシ。

この前まで青々としていた木々の、「暑いからしかたないじゃん」といいたげなくたっとした様子。

夏休みに連れて行ってくれそうなソフトクリーム型の雲、遠く青い空。

そして現実には、33歳になった私が、子どもを抱えながら汗をかいて夕飯のメニューとお風呂の段取りを考えている。

初恋の人との恋は叶わなかったし、初彼は一昨年知らない誰かと結婚した。

大好きだったはずの元彼は、もう誰も思い出さない。

高校時代のイケてるグループはほとんどキラキラワーママに進化し、子どもとの生活をインスタで共有してくれる。

夏が来る度に、けだるく、時間を持て余した学生時代の夏休みをちょっと思い出すけど、もうずいぶん遠くに来てしまった。

夏はいつも、なんでもできるようで、何もしないままで終わってしまう。

ドキドキしながら好きな人と会わないか何度も往復した夏祭り。

夜の学校に忍び込んであげた花火。

川沿いで酒盛りして、みんな濡れて自転車で帰ったあの浮遊感。

全部無くしたんじゃない。

通り過ぎただけだ。

泣き出した汗だくの娘を抱き上げる。

生きものの匂いがする。

きっとこれも、通り過ぎていくのだ。


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