ハンサムな彼#28
ムカつくくらいイケメンでいい男。
彼と出会ったのは、薄暗いクラブの中だった。
すらっとしていて、まわりから頭一つ分高い彼の足は長く、整った控えめな顔立ちは、堂々としていて、「女に困らないだろうな」と思わせる余裕があった。
仕事はデザイン系で、名が売れる仕事をし、定期的にヘッドハンティングされるできる男っぷり。
女の私ですら鼻につくようないい男。
彼が隣を歩くと、すれ違う女がこっちを見ているのがよく分かる。
「ああ、気持ちいい」
が、そう思えるのは束の間だった。
週末の繁華街、彼の隣で羨望のまなざしをうけていると、彼がいきなり奇声を発しながら人込みを駆け抜けていく。
人々は驚き、彼を避けていく。
羞恥心の中、彼を見失わないように追いかけ中ればならなかった。
ある日は、ボーリング場で履いたジャージをカボチャパンツの様にまくり上げ、脚線美をさらしていた。
変わった人だったから、
「いくらイケメンでも、私はちょっと無理」
そういう人もいた。
でも、それこそが彼が求めたフィルターだったのかもしれない。
王子様のような見た目で、勝手な期待値も高く、恋で傷ついたこともあったんじゃないかな、と。
女の理想は勝手で残酷。人格を無視して期待して、そして「なんか違う」と簡単に去っていく。
美人もそうだがハンサムで生きるのは、イージーモードなようで、意外と大変。
その理想像を守るのは、簡単ではない。
「私はきれいに生まれなくてよかったなぁ」
彼を追いかけながら思うのは、そんなことだった。
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