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新世界建築―風に祈りを捧げる谷

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未来の人たちはどんな建物で生活をしているんだろう?未来の世界はどうなっているのだろう?誰でも一度はこんな妄想をしたことがあるのではないでしょうか。

建築クリエイター集団NoMaDoSでは、建築を自由に拡張して、未来を実験するために、様々なコンテンツを開発しています。
新世界建築は、NoMaDoSが様々な時代・環境・条件を妄想して生まれた世界観、緻密な居住キャラクター設定、そしてそこから生まれるかつてない自由な建築アイデアです。

アインシュタインはこう言いました。“Imagination is more important than knowledge. Knowledge is limited. Imagination encircles the world.”(空想は知識より重要である。知識には限界がある。想像力は世界を包み込む。)

新世界建築によって、建築が持つ無限の可能性を皆さんに届けます。

風から生まれた民族


NoMaDoSが空想と妄想のみで作り上げる、未だ見ぬ未来の建築「新世界建築」。今回は、第3作目「風に祈りを捧げる谷」。

もしもヴィーガンが独自の生態系を築いたとしたら?
もしも風の力を借りて生きる民族がいたとしたら?

そんな未知のコンセプトを重ねて出来上がったバイオサイエンスな今作。
一見するとファンタジーを彷彿とさせますが、その多くが実現可能なテクノロジーで構成されており、実はそう遠くはない未来の話なのかもしれません。


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蜘蛛、実験と新しい文化

2170年現在、アイスランドの「地球の割れ目」と呼ばれる長く深い谷に、風と共に生き、風に生かされている人々が、独自の文化を形成し生活している。

今より100年以上前、ヴィーガンを中心に進められていた人口細胞の研究があった。その人口細胞は、葉緑体のシステムを活用し、風圧に反応する完全栄養の糖分を放出し、一定の環境条件により糖を自己分解して電気に変換する特徴があった。

また、遺伝子組み換えされた蜘蛛にこの人工細胞を移植することで、その蜘蛛が吐き出す強靭な糸に人工細胞が混ざりこむことが判明し、生活環境への活用を目指した新素材の開発が行われるようになった。

そこで生み出されたのが、蜘蛛の糸を用いた居住モジュール。一定の風圧を加えることで、電気エネルギーと糖を自己供給できる生活空間を作り出すことに成功した。

2070年、実証実験のため、研究施設のメンバーから男女10名が選出される。定常的に風が吹き続ける土地として、アイスランドのシンクヴェトリル国立公園にある谷が選ばれた。

実証実験が始まり、15年目を迎えた際に、一つの自治体として認可がおりて、「ウィンディアン・ネスト」との呼称が与えられる。被験者たちは、そのまま谷での生活を続け、独自の生態系と文化を育みながら、谷での生活が始まってから100年目を迎える現在、200名の集落と5世代目の住人が誕生している。

「ウィンディアン」と「ヴィンドゥルレガー」


2070年にアイスランドで実証実験の被験者となった10名の男女。
彼らは、蜘蛛の糸でできた居住モジュールで生活をしながら、健康状態の変化やストレスレベルのデータを測定する生活をはじめた。
2年ほどの月日がたったころ、谷底に動くものがいることに気づく。その正体はオランダ出身のアーティストであるフィン・アーセンが生み出したアート作品であった。

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風を受けることで生物のような動きを見せる人工生物作品である「ヴィンドゥルレガー(「風の脚」の意)」の一つで、15年前の遊牧実験の際に行方不明になった作品であった。このヴィンドゥルレガーは、この谷を1年に1周するスピードで動き続けていた。

データ測定を行うだけの生活に虚無感を抱え始めていた被験者たちは、このヴィンドゥルレガーに対して、愛着を持ち始めた。また、彼らの理想である「風のみで動く」という構造を持つという点、そして一年に一度、実証実験場である集落に戻ってくる点に「神」のイメージを照らし合わせるようになる。

年月を重ねる中で、被験者たちが作った共同体では、ヴィンドゥルレガーに対する宗教的な信仰も徐々に体系化されていき、原始宗教と呼べるようなものへと昇華されていった。

そして、いつしか被験者たちは自らを「ウィンディアン(「風の先住民」の意)」と呼び始めるようになった。

ウィンディアンの中に「風調律師」と呼ばれる人々がいる。モジュール同士を繋ぐ糸を操り、居住モジュールが定常的に風を受けられるように調整する舵取りの職人である。

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彼らは、生活基盤となる風を操作するだけでなく、風が起こす糸の振動音をコントロールすることで「風の音楽」を奏でることができる。

ヴィンドゥルレガーが戻ってくる日には、居住モジュールの発光や、風調律師が奏でる音で、集落の宗教的な祭りを盛り上げている。

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建築情報
(基礎建築情報)

用  途:住宅、宗教施設、商業施設など都市機能
所 在 地:アイスランド/シンクトヴェトリル国立公園
敷地面積:9270ha(国立公園区域面積)
建築面積:2860㎡
床 面 積:8940㎡
階  数:1~4階
構造種別:GSF造(グラフェンスパイダーファイバー)
施工方法:張力・膜構造
仕上材料:GSF膜の上、撥水剤浸透処理

この街に住む少年

ウィンディアン・ネストにフィン・フグルという19歳の男子が住んでいる。フィンはアイスランド語の中で「晴れの日の鳥」の意味で、彼は自分の名前をすごく気がある。彼はウィンディアンの第4世代として生まれる。ウィンディアン・ネスト固有の職業である「風調律師」の見習いをはじめて2年目を迎えた。両親は、ウィンディアン・ネストでも有数の風調律師であり、ヴィンドゥルレガー祭の日の主調律師を務める実力を持っている。

そんな親を尊敬しつつも、自分だけが奏でられる音楽を見つけたいという夢を持っている。

蜘蛛の糸と完全栄養水

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ウィンディアン・ネストに住む人々は、ヴィーガンの次のステージとなる摂食形態・生活形態として、蜘蛛の糸を通した完全栄養水の摂食を行っている。

風圧で生み出された糖分を人体に摂取しやすい形として、貯水モジュールの側面から糸の一部を谷底の川にたらし、毛細管現象により水をくみ上げている。くみ上げられる中で、糸に組み込まれた細胞から分泌される糖が水に溶け込み、完全栄養水となって貯水モジュールにため込まれている。各居住モジュールは、貯水モジュールから伸びた糸をたどって、自由に水を飲み、エネルギー摂取している。


風と共に生きる設備

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クモの糸が、水や電気のインフラとなり、意匠・構造・設備が一体となった存在。
住居となっている繭、タンクとなっている繭、電気をためる繭などが糸で繋がり、この街は生きている。

[空調・換気設備]

風が常に吹き続ける場所のため、住居の換気は自然通風。これにより空調も行っている。
 繭型の住居壁の薄い部分が風を透過する仕組みになっていて、住居に快適な風が送られている。クモの糸により水が住居の壁に供給される。繭型の住居の壁に水が流れることで、補助的に輻射空調の効果をもたらしている。

[給排水・衛生設備]

谷の底にたまった水をろ過することで生活水を確保している。一つの繭型のユニットが貯水タンクとなっており、水面にたらした糸で水を吸い上げる。この糸の中でろ過できるような仕組みになっており、ろ過した水を貯水する。このタンクから各住居へつながった糸によって、住居へ水を供給する。排水はこの糸によりろ過することで外部へ捨てられるようにし、谷底の排水側の池に放流する。

[電気設備]

住居の繭型の壁の薄いところから自然光が入る仕組みになっている。またクモの糸内の養分には光をためる性質ももっており、夜になるとそれが発光する。糸が光ることで人々は明かりを手に入れられる。風の振動によって発電する繭のユニットがあり、その中に蓄電する仕組みとなっている。糸によって各住居ユニットに、電気が供給される。

アップデートし続ける新世界建築


いかがでしたか?

今回の「ヴィーガンが住む谷」というコンセプトは、「ヴィーガンが菜食主義に悩んでいる」というニュースを見たのがきっかけで生まれました。
ヴィーガンになった人たちは倫理的な理由で肉食を避けているはずなのに、自分たちが食べる野菜を育てる過程で動物が駆除されてしまっている、そんな矛盾を抱えている状況らしく。

最近は完全栄養食など摂取する食物にテクノロジーが関与し始めたので、肉食・草食にとらわれない食の可能性もあるだろうと思って、思考を重ねていきました。

しかも、今作を制作している最終段階で、農業を介さずに食料を生産するためのイノベーションを開発するフードテック企業が出てきたり、「やはり世の中の動きはその方向に進むんだ!」という納得感を持つとともに、「マジで実現するのか!」というテクノロジーのスピードとパワーを感じました。

次回は、もしも僕たちが重力をコントロールできるようになったら?重力から解放された独立自治区の物語をお届けします。
お楽しみに!
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※この物語はフィクションです。登場する地名・技術・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
企画・コンセプト:NoMaDoS田中
意匠設計:NoMaDoS永田
設備設計:NoMaDoS高橋
イラスト:NoMaDoS乙坂
編集:NoMaDoS田中
note版編集:NoMaDoSカイ


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