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オペラをつくる 【SdT_5】

オセローと言えば、それを原作としたヴェルディ作曲の傑作オペラ『オテロ』。
宮崎国際音楽祭では、Tも昨年の「レクイエム」、今年の『仮面舞踏会』と、2年続けてヴェルディ作品の公演を担当しました。

でも何故ここでオペラの話?
今回の『avec Toi ――馬がいて、人がいて、そしてまた馬がいる――』について、わかりやすく説明するなら、「アート・プロジェクト」というのが一番近いのかなと思います。
でもTは、このプロジェクトを、自分の中では「オペラ」だと考えています。

オペラというのは、まあ、あの、なんか人間とは思えないような不思議な(ちょっとこの世のものとは思えないような)大きな声で(また時にはささやくような微かな繊細な声で)
愛の歌やなんかを歌ったり、殺されたり死んだり、なんか愛憎その他いろいろ渦巻く綜合芸術です。

アイのウタが歌われる時(それだけではないけど)、オペラでは「アリア」(Aria)なんて呼ばれて、語源的には「空気」(英語のair)と同じです。
そこに愛(ai)があるのは、たぶん意味のある偶然です。

ちなみに「オーパス」(opus:よくクラシック音楽の作品番号を記す際に、Op.という風に略記されます)=「作品」の、複数形が「オペラ」(opera)。
「作品」の集合体である今回のプロジェクトは、ただそれだけの理由ではなく、Tの中では確かに「オペラ」なのです。

『オペラをつくる』というのは、大江健三郎さんと武満徹さんの対談をまとめた岩波新書のタイトル。
高校生の時に読んで以来、Tの中では、ずっと綜合芸術のことが頭にあります。

その大江健三郎さんが今年の3月に亡くなった際、川村さんや伊達さんとのフィールドワークで訪れていた都井岬内の黄金荘で、Tはその訃報に接しました。
もう四半世紀も昔のこと、10代後半から20代前半のTにとって、唯一のアイドルだった大江さん。

Tが求めた唯一のファンサは、東京オペラシティで開催された、たしか武満徹さんの没後5年企画のコンサート会場でのこと。大江さんは前半にトークで登壇されたのだと記憶しています。
休憩中に、客席を出た扉の辺りでバッタリ出くわして、普段はそんなこと絶対にしないのだけど、
プログラムにサインをお願いしました。そういうものを記念に眺めたり崇めたりする志向はなくて
(だから今も、大量の資料類に埋もれてしまって、どこにあるのか、わからなくなってしまった…)、
ただ、当時の大江さんに、(今はまた違う状況と思いますが)数少ないかも知れないけれども、自分のような若い、熱心な読者もいるのだ、ということを知ってもらいたい、むしろ、おこがましいようですが、知らせてあげたい、というのが近いような気持ちでした。
ごちゃごちゃ想いの丈を語るのも申し訳ない、そこでこの想いと知ってもらいたい事実を示すための、咄嗟の判断でした。たぶん、サインを書いてもらっている短い時間に、「これからも読み続けるから、小説をずっと書いてほしい」とだけ伝えたと思います。Tは、彼の小説が本当に好きでした。

彼が恐らく渇望していたと、Tが勝手に確信している、武満徹とのコラボレーション。
それは結局、オペラではなく、Tにも連なる(と勝手に思っている)「雨の樹(レイン・ツリー)」として実現されたと思います。
そしてTの中でそれは、ドビュッシーとマラルメの関係に、奇跡のように符合するのです。
でも、やばっ、これを書き出したら延々と終わらなくなって、本当にいつまでたっても『avec Toi』にたどり着けないので、ここでは渋々置いておきます。でも繋がってるんですけどね(しぶしぶ)…。

次はいよいよ、タイトルの話です。

(つづく)

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