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石原夏織/Plastic Smileーいつかの作り笑いが、みんなの笑顔を作るまで

「何もかも夢のような日だった」

伝説のライブから2ヶ月が経過した。

それは全部、夢ではなかった。あの日、僕らが目撃したのは、夢でも幻でもなく、現実であった。だから、物語は続く。それが嬉しくて仕方ない。

季節は巡り、忘れられない記憶を抱きしめて、桜も散った頃、愛しい君から新しい音楽が届いた。

何度目の初恋だろうか?僕は、君の瞳をまっすぐに見つめ返すだけで精一杯になる。それは、頬をピンクに染め上げる色彩であると同時に、僕のパーソナルな部分を抱きしめるように、懐かしくて、恥ずかしくて、優しい。

2nd LIVE『MAKE SMILE』は、これまでの石原夏織の集大成であった。
しかし、それと同時にあのライブが描いたのは、未来でもあった。膨大な過去の上に立つ現在、そこから続く今日を、明日を、彼女は紡ぎ続ける。

生きることは、「いつか見たい」と思う未来を目指すことであり、欲を言えば、その場所にたどり着くことである。それは、あの日までは、パシフィコ横浜であった。しかし、今は違う。

石原夏織という太陽は、まっすぐに未来に伸びる光を、この世界に差しながら、次の場所を目指すのである。
そんな姿勢を全身で表現していたのが、あの日、披露された新曲であった。

今朝は、少し早起きして、本作がEDテーマに使用されているアニメ『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』の最新話を見た。第三話にして、いい話過ぎて泣いてしまった。石原夏織さんの役もめちゃくちゃいい。30を過ぎたおじさんは、出勤前に朝からアニメを見て泣いているのである。涙を流すと、何かがスッキリする。

その後、やっとフルサイズで、歌詞を読みながら聞くことができた。
ストリングスの音が綺麗である。そして、歌詞をまっすぐ伝えるために選び抜かれた音が鳴っている。チャイムや、風呂桶のような音も、効果的に機能している。Face to Faceを聞いた時の気持ちに近い。どんな運命にも負けない極上のポップスに違いない。

ライブでは二回聞いたし、音源が一部公開されてから、何度も何度も聞いてきた。そのはずなのに、再生した瞬間、僕の胸は新しい鼓動を得たように高まった。新しい気持ちが、胸の中に生まれた。

きっと、それは気のせいだと思う。朝、洗面台に立つ自分が、昨日よりいい顔をしているように見える。先週切った髪が、少し伸びて、いい感じになったような気がした。ウインナーを焼く音が、窓から見える景色がいつもと違う。石原夏織さんの新譜を聴く日、世界中の誰よりも、僕は幸せ者になれる。新しい朝が来た。これは希望の朝である。思わず、ラジオ体操でも始めたくなる。

新しい季節、華やぐ街に吹く風は、きっと何よりもフレッシュである。突き抜けるような青い空を眺める。でも、どこか切ない。クリアすぎる。

気づけば、突然の雲が現れ、その隙間から雨が降り出す程度の不安、それが大きな嵐を呼び起こす予兆すらある。雷だって鳴り始めるかもしれない。

いつも僕らは不安だ。いつも、いつも新しくあろうとするたびに、不安が脳裏をかすめる。あの数秒間のイントロに込められたのは、そんな誰もが抱く気持ちに思えてならない。誰だって、みんな考える。

躓かずに上手く行くときは 
いつも不安になってしまう
もっと自信が欲しい
(Blooming Flower)

デビューシングル『Blooming Flower』は、”まだ何者にもなれない”自分の、ありのままの姿を歌った曲であった。彼女は、不安を抱きしめながら、少しばかりの期待の種を蒔き、「未来に繋がっていくよ。何も怖くなどないよ」と、何かに負けそうな声が震えないように歌ってくれた。未来の一秒先に向けて歩き出す。それだけを、彼女は決めていた。

その、正直すぎる姿、メッセージに、僕は共感を抱いた。まだ少し冷たい風に揺れていた頃も、今では懐かしい。

以前も言ったかもしれない。石原夏織という人は、自分の勘違いでなければ、すごく自分に似ている。楽天的に見えて、いつも、何かの不安をぬぐい切れない。自分が足りないことを知っている。自分は、普通ではなくて、いびつであることを、誰よりも知っている。

物事がうまく行った時、普通の人は「この調子でいける」と考えるだろう。でも、自分はそうじゃない。どうせ、絶対に転んでしまうことを知っている。所詮、自分なんかが、そんなにうまく世渡りできるはずがないと知っている。一生、自信がない。

それは、どんな音楽を聴いても、どんな人にどんな言葉を与えられても、根本的には変えられない。

何気ないフリして 笑いながら
本当はね すごく戸惑ってる
ありのままの 自分のままで
いいなんて 思えずにいたから

新曲『Platic Smile』は、こんな1フレーズから始まる。誰かのために、自分の為に、作り笑いに慣れていく主人公を描く。

どうしてもっと自然に笑えないんだろうか?自分らしさとはなんだろうか?
今更そんなことで悩むほど、僕はもう若くはないが、そんなことのせいで頭を支配された時期もあったし、今でも時々悩む。どこに行っても、いつでもうまく笑えるわけではない。今いる場所から一歩先では、何の保証もないのである。

それ故、気休めのように「ありのままの自分でいい」などと歌う曲はこの世に星の数ほど存在し、そのほとんどが無責任の産物であると僕は思っている。そもそも、歌に、アーティストに責任感など求めてはいけないのだが。

ありのままでいいわけがない。そんなことは誰だってわかる。だって、ありのままの僕らは、卑屈でズルくて、怠惰で強欲な生き物である。偶然か否か、雪の女王が歌う某曲と、同じメロディが組み込まている。僕は、あの曲を聞いた時「ありのまでいいわけねえだろ」と感じたことを思い出した。

臆病に閉じてた ココロの扉 今
そっとひらいて 優しさの理由を
探ってみたくなる

やがて、美しい転機のようなBメロが、威風堂々たるストリングスと共に響く。高低差が激しくて大げさなストリングスは、いきものがかりなどを想起させる。チャイムのような音も、少し懐かしいポップスの質感を与える。

転機、きっかけ?それは、なんでもいいし、いきなり訪れることもある。例えば、心を許してもいいと思える人がトリガーになる。色んな人が、色んなきっかけをくれることがある。

例えばー先ほど、僕は「自信なんかない」と言った。それは、言い方を変えれば、「自信なんかなくてもいい」と思っているということである。そう思えるようになったのは、僕の周りには、僕のことを褒めてくれる人がたくさんいるから。最初は疑心暗鬼だったけど、どこまでも優しくて、僕のことを心配してくれる人たちの言葉を信じることにした。
だから、僕はその人たちを信じて動くことにした。自信なんかなくていい。そんな風に思える人が、どんどん増えていく。

この歌の主人公にも、僕にも、荻原沙優にも、石原夏織さんにも、そんな人は当然いる。カギをかけたままの扉を、優しく開こうとする君。優しすぎる君の、その理由を探るための試行錯誤を続ける。

君に出会って 初めて知った気持ち
今はまだ うまく言えないけど
傷ついていることにさえ気づけずにいた
自分でも少しずつ 変わってゆけるから

切なさと不安を抱きながら、ほんの少しの勇気を振り絞り、前に進もうとするサビが、過去と今を繋いでいく。まっすぐに、未来まで伸びる。

あの日、君に出会ったことが、自身を救い、今に繋がっていく。きっと誰にでもある経験、ありふれた特別な時間である。

そして、誰かに出会ったとき、自分が傷ついていたことを思い出した。僕の友人は、僕のコンプレックスさえ受け止め「それでいい」と言ってくれた。そんな日を思い出す。何も大きく変えられなくても、傷ついていることに気づけること。それ自体に大きな価値がある。

期待して落ち込むくらいならば
笑顔でやり過ごせばいいやって
いつからだろう?一歩引く癖
身につけて 慣れてしまってた

2番Aメロ。絶望しないための最善策は、期待しないことである。ゼロからは、ゼロしか発生しない。それを邪魔する要因があるなら、笑顔を作ってやり過ごせばいい。そんな風に考えていた季節を思い出す。

この歌は、あまりにも、あまりにも何も変えられなかった頃の自分を想起させる。優しくて、残酷で、涙腺を崩壊させる。

いとしさに揺らめく ココロのざわめきが
正しさよりも 大事にしたいコト
教えてくれるから

2番Bメロ。人は、正しくあることを前提にして行動するのではない。心が向かう方へ駆け出す。ただそれだけのこと。君を見ていればわかる。

君に出会って ありふれた特別を
一つずつ重ねてゆくたび
モノクロだった世界に 色がさしてゆく
不器用な自分でも 変わっていけそうで

色彩など持たない世界に、誰かが存在するだけで、一瞬にして景色に色が付くことがある。それは、ある時はピンクかもしれないし、もっといろんな色かもしれない。やがて、フルカラーの映像が、目の前に現れる。

思えば、石原夏織が主演を務めた『色づく世界の明日から』もそんな作品であった。さらには、『Face To Face』ツアーのOP映像がモノクロから始まり、そこに絵筆が走り、景色に色が付いたこともあった。全部、全部今に繋がっている。

日々は、当たり前のように続く。しかし、それが当たり前ではなかったことを、2020年は僕らに改めて理解させた。

当たり前のように続く奇跡、それを構成するものを分解し、ひとつひとつ積み重ねていく。そのうえで、「ね、当たり前だったでしょ?」と証明する。石原夏織や、石原夏織スタッフは、そんな証明をずっと続けている。
それは、この世で一番難しくて、尊いことであると、僕は考える。

だから彼女の音楽を信じられる。

クリアすぎる空は どこか現実味がなくて
迷子の雲みたいに ふわふわと漂っていた
答えは今もまだ分からないままだけれど

ギターソロの後に一瞬、切れる音が切ない。劇的に変わっていく空の色を現すような鋭いストリングスが、胸をえぐる。

今日もまた、クリアすぎる空は、正しくあろうとする。でも、僕らが求めるのは、そんな朝ではない。答えなんてわからなくていい。それを、探し続けることが答えになる。

キミに出会って 初めて知ったんだよ
まっすぐであたたかな光
どんな過去にも意味はある 無駄じゃないって
思いたくて 信じたくて 手を伸ばしてみるよ

ここで再び涙が落ちる。いつかの作り笑いは無駄じゃなかった。

ソロ活動6枚目のシングル。ここにたどり着くまでは、簡単じゃなかった。どこまで行っても、過去は消えない。だけど、彼女はそれを清算することはできたと思う。喜びも悲しみも、そのすべてを受け止めて、今、石原夏織はもう一度歩き出す。これは、きっと旅立ちの歌に違いない。

誰にだって、うまく笑えなかった時間、場所がある。でも、あの時間は無駄じゃなかった。だってそれは、いつか、大切な誰かの笑顔を作るための時間なのだから。それが、大勢の笑顔を作ることだってある。

そう信じて、手を伸ばした先には、パシフィコ横浜というステージがあり、君と、僕らの笑顔があった。素晴らしい未来に僕らはたどり着き、その先を歩いている。

きっと、彼女は今後の活動を通して、改めて、証明していく。
だって、2021年2月20日は笑顔に満ちていたから。

『MAKE SMILE』

今なら、ライブタイトルの意味がわかる。あの時から?いや、もうずっと前から、全ては仕組まれていた。

心の底から笑う君を見て、僕らも何も飾らずに笑うことができる。石原夏織の音楽が、ひとりひとりのファンの熱い思いが、どんどん伝播して、たくさんの人の笑顔を作っていく。石原夏織を好きな人が増えていく。タイアップの関係はあるにしても、既にたくさんの人から好評を得ている。この曲は、あまりに大きな可能性を秘めている。

その先にあるのは、パシフィコ横浜よりも大きなステージである。それを夢ではなく、確信に変えてくれる新曲である。

キミに出会って ありふれた特別を
ひとつずつ重ねあえたキセキは
こんなに広い世界のどこにいてもずっと
変わらないぬくもりで 包んでくれるから…さあ

運命の君と離れてしまっても、構わない。ぬくもりが、この世界に残っているから。いつか別れたあの人が、今を支える。何も言わないし、言いたくないけど、僕は古いファンだから、色んなことを考える。本当に良かった。

「さあ」に続く言葉はなんだろうか?まだわからない。
だから進もう。石原夏織第二章を始めよう。

次の色彩を求めて、旅は続く。君という太陽を浴びながら。

今日も僕は笑う。君を見てニヤニヤしてる。

好きだよかおりちゃん・・・

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