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又は夢現【Short Story】

これを見つけたあなたは、読んだら忘れてほしいし、もう二度と思い出さなくていい。







とある夢を見た。いや、夢だと思いたいだけで、目を背けている事実のような気もする。夢のように信じがたいことだったのかもしれないし、夢だと思うくらい、現実にありえないことだったのかもしれやぬ。きわめておぼろげで、はかない記憶。

私は結婚した。春の日差しが入り込む貴方の家で、確かに返事をしたのだ。
「一緒になりませんか」という、私たちの未来への提案に。

私たちは、いわゆる愛情を伴う交際をしていたわけではない。貴方に彼女がいたことも、私に彼氏がいたこともある。しかし、それが起因でお互いに変に遠慮して離れたこともなかった。「そんなものでは揺らがないほど強い絆であった」のか「お互いにそこまでは干渉したくないほど弱い絆だった」のか。こういう話し方をするときは大体、後者だ、と記されることが多い気がするが、私たちは前者だったような気がする。

しかし、一つ不可解な点があるとすれば、私は好きな人がいたことである。恥ずかしながら私は未練がましく、過去の恋人に思いを寄せていた。隠しながら今まで生きてきた。当人と話すときも、そんな空気は微塵も出さないように努力し、ついうっかり出そうになった時は、「付き合っていた時の信頼故」のような空気に代わる魔法をかけて、乗り切ってきたはずだった。別に関係を前のように戻せなくても、気楽に話せる今のままでいいと思っていた。なのに、今日自分のSNSを見てみたら、その人に関する発信がすべて自分にしか見えない場所にしまわれていた。こんなことする人間だっただろうか。しかし、なっていることがなによりの証拠。本気で結婚するつもりだったようだ。

私は、本当に好きなものより目の前の安定をとるような、流されやすい人間だっただろうか。一応、今までの人生における重大な決断は、最終的に納得して歩んできたつもりだったのだけど。相手が貴方だったからかもしれないな。罪な人。

これから順番に決めなくてはならない、式は地元のあのホテル、ウエディングドレスとお色直しは、、、っと、母への報告が先だ。ドレス姿を見たくて頑張って長生きしていた、祖父母にも電話をしなくては。父は・・・まあ、一応したほうがいいか。

そんなわけで、私は「恋」を捨てて、「愛」と結婚することになった。











これを読んだなら忘れてほしい。こちらも忘れますから、どうか、どうか。

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