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『夫婦関係の治療』

「自己愛」と「境界例」と「ヒステリー」というのは、はっきり言って一見よく似ていて、素人としてはこんなにいろいろ言葉をつくり出されても困るくらいです。

ただ、事態の重さと軽さによって言葉が変わり、また、その人の置かれている状況、つまり学生なのか未婚者なのか既婚者なのかによって「問題の表現」が異なるのでしょう。

手元にユルク・ヴィリの『夫婦関係の治療』という本があります。夫婦に対して同時に精神分析を行った様子を、ほとんどそのままの形で再現している内容です。

特に13章の「ヘルガとスタニー」は、夫婦の双方が「自己愛性」であるところから結婚生活が当然のように暗礁に乗り上げている様子がお互いの罵倒などによってあますところなく伝えられていてとても勉強になります。

ヒステリーでもボーダーラインでも自己愛でも、とても目につく特徴の一つが「過度の理想化とさげすみ」です。極端に振れてしまうのです。若い人の恋愛でよく見られた現象でもあります。

はた目には奇妙でも、当然といえば当然です。恋愛や夫婦関係において「相手に気に入られたい」と思うのは自然であり「そのためには少々自分を曲げる」こともいとわないでしょう。

しかし問題は、どの程度までなら自分を曲げていいものなのかがわからなくなりやすい性質というものがあって、自己愛の人はそれが非常にはなはだしいのです。

しかも

  • 相手が正しければ自分を曲げてもいいのか

  • それにしても曲げすぎて自分が壊れてしまわないか

  • なんであっても自分を曲げるなんてまっぴらごめん

といった複雑な感情とジレンマが強烈に自分を揺さぶるので、ついに相手を憎むようになります。


基本的に夫婦はともに、絶対的で無限の愛情、融合し一体となることを望んでいるのである。
共謀の焦点は「相手と共生的に融合ができず失望した。自分の存在が危うくならないようにするためには、相手を傷つけなければならない」となる。

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