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竹宮恵子『イズァローン伝説』

2024年の秘かに立てた目標として

「今年はnoteもブログもひとつも書かない」

と、ありました。

それをわずか十日で破ってしまうはめになります。できもしない目標など立てるものではありません。

竹宮恵子さんという漫画家は、私にとってはひょっとして手塚治虫さんよりも「天才」と思われます。

とくに『イズァローン伝説』には感じ入りました。

まるで歴史小説を読んでいたら、ロールプレイングゲームを遊んでいるような夢を見たふうの読後感を得たのです。

そのように異常なまでに要素が多く、少し盛り込みすぎと思われなくもありません。

ある面では国盗り物語のようにも読め、版図を広げる若い大王の成長物語のようにも読めます。しかしそれらは実は主人公の物語ではないのです。

ロールプレイングゲームのようなと書いたとおり『イズァローン伝説』の主人公はあくまでもアル・ティオキアという王子様で、彼は実は半人半魔の魔王としてラスボスにもなるのに、それでいて世界を救うのです。

そんなとんでもない存在でも、登場した最初は、後の王となシド・ルキシュと「次代の王」を争う王子様でしかありません。

最初はたしかにこの王位争いに読者の興味は惹きつけられます。しかしそれは、巻が進むごとに、ほぼどうでもいいテーマに転落してしまうのです。

群像劇です。キャラクターは次から次へ登場します。侵略あり、魔法あり、恋愛あり、冒険ありの多重構造を為しています。

こういう壮大で複雑な白昼夢には、ふつうは読者がだんだんとついていけなくなって白けてしまうものです。「厨二病」ぽいファンタジーには、作者には申し訳ないものの、どこか感情移入しにくいものなのです。

でもこの物語は決してそうは感じられません。少なくともルキシュ王は、アレキサンダー大王くらいには実在の印象を残すのです。竹宮恵子さんの鬼才が発揮されてこそのことです。