デジボク2クリア後雑感(ネタバレ無し)

デジボク2(正式名称:四角い地球に再びシカク現る!? デジボク地球防衛軍2)を最高難易度のINFERNOでクリアした。うれしい! 地球防衛軍――EDFシリーズはいままで2(for Switch)、3P、5、6、デジボク1をプレイしたが、INFでクリアまで行けたのは今回が初だ。なので非常にうれしい! ということで、デジボクシリーズの何が良かったかをまとめておこうと思う。

EDFシリーズの魅力について


 EDFシリーズを一言で説明するのは難しい。大まかに概要を言うなら、「巨大な虫をモチーフとした侵略者たちが大量に現れるのでそれを銃器などで駆除するステージクリア型TPS」となるのだが、別にこのゲームは虫を駆除するのが楽しかったり、銃器を好き放題撃てるのが楽しかったりするわけではない。というか大体後半になると異星人の作ったロボとか出てくるし、虫以外がモチーフの生物もわらわら出てくる。あと武器も変なのばっか出てくるので多分真面目にTPSしたい人にもそんなに向いてない。
 さて、ではEDFの魅力は何か。私はそれを『安全かどうかわからない場所に飛び込む選択』を常に与えてくるところだと思う。
 まあ、TPSに位置取りが重要だというのはそりゃそうなんだが、EDFではちょっと意味合いが違う。
 たとえばこのシリーズの代表的な雑魚敵は『黒蟻』――巨大なアリの形をしたエイリアンだが、こいつの移動ルーチンはシリーズを通してだいたい以下のようになっている。

・攻撃モードでない場合は、指定のエリアを巡回する。

――要するに、一定の範囲内をうろうろしている。これがプレイヤーが索敵範囲内に移動したり、自身がダメージを受けたり、攻撃モードになった仲間が近くにいたりすると攻撃モードに変わる。以下は攻撃モード時だ。

・プレイヤーに向かって直進する。
・プレイヤーに向かわず、大回りしてプレイヤーの裏側に移動するようなルートを取る。この2つの移動モードはランダムに切り替わる。
・プレイヤーが攻撃範囲内にいる場合、散弾状の酸を発射する。酸を発射後、若干のランダムな移動を行う

 これはどういうことか? つまり、黒蟻の群れが攻撃モードになってこちらに向かってきたとき、その群れは

・直進して正面から散弾を撃とうとするやつ
・回り込んで、側面や裏側から散弾を撃とうとするやつ
・プレイヤーから遠く離れてしまったが、プレイヤーが近づけば散弾を撃つやつ

の三種類に分かれるということだ。そして敵は全て同じ見た目の蟻であり、人間や哺乳類が敵であった場合に比べて遥かに「人間的な推測」――見る側が対象を勝手に「あいつは伏兵だな」などとキャラクタライズして処理する思考――がしにくい。
 これがEDFを非常に面白くしている。敵の非人間性とランダム性によって属人的な思考処理ができずに、「今いる場所が安全かどうか」しか思考する軸がなくなってしまうのだ。そのためささいな移動が常にその選択に組み込まれることになり、ある程度移動先で生き残れれば「自分の選択は成功であった」ということになってしまうため、選択と報酬のサイクルが非常に短い――これがEDFのゲーム性の核であると思う。
 事実、EDFシリーズはどのゲームも後半になるに従い、「場所の選択」を強いる難敵が追加される傾向にある。予想外の場所から糸を飛ばしてくる蜘蛛、弱点以外は弾を反射するシールドベアラー、弾速は遅いがゆっくりとこちらに向かってくる炸裂弾を放つダロガやヘクトル、真下に近い位置に立って開口部を攻撃しなければいけないテレポーションシップなどだ。
 そして、EDF特有の「敵が落とすアイテムをクリアまでに拾わなければHPや武器が強化されないシステム」もそれに一役買っている。そのアイテムがあると、プレイヤーは新たに「行く必要はない安全かどうかわからない場所」に行く選択を迫られ、それがより一層ゲーム性を強化する仕組みになっっている。以前とあるインタビュー記事で「アイテムを自動回収にしろという意見は多々あり、開発中に実際そうしてみたこともあったが、自動回収にするとプレイヤーが安全策しか取らなくなってしまいゲーム性が破綻した」と開発陣が述べていたが、これは実に首肯できる発言だ。EDFは「安全かどうかわからない場所に行く選択をする」がゲーム性の要であり、プレイヤーが認識できる報酬をそのサイクルから外してしまえば、無意識での報酬も得ようとしなくなってしまうのだろう。
(ちなみに、デジボクシリーズではその仕様は半分くらいオミットされている。代わりに必殺技ゲージを溜めるアイテムが独自の要素として配置されている)

デジボクの美点:EDFの魅力の「再翻訳」


 さて、EDFのゲーム性は「安全かどうかわからない場所に行く選択をする」ことだと述べた。では、デジボクシリーズがどのようにそれを抽出し、翻訳したのかを述べていこう。

1:真の魅力でない要素の簡略化


 1つ目はまずこれだろう。デジボクシリーズは本編でディテールの複雑だった虫の造形をボクセル=小さな立方体を用いてデフォルメし、マスコットキャラのような見た目に書き換えた。これは虫の造形に敬遠していた層がとっつきやすくするためもあるだろうが、何より「敵の造形でゲーム性が変わるわけではない」ことを理解しているからできることだ。そしてストーリーをギャグ調やジュブナイル調に翻案し、「ハードなシナリオ」もEDFの要ではないことを見た目の印象で強調した。

2:魅力の強調


 そうした表層面を調整した後に、「魅力の強調」をした。もっと具体的に言うならEDFでプレイヤーが行う試行錯誤のサイクルをより早くした。
 たとえば、EDF本編ではプレイヤーは一人のキャラクターしか選ぶことができないが、デジボクでは最大四人で編成を組める。プレイヤーが選べるキャラクターには標準的な歩兵や移動能力に優れた飛行兵、動きが重い重装兵など色々あり、プレイヤーはゲーム中ボタン一つでいつでも操作キャラをその編成内で変更できる。
 これがどういうことかと言うと、デジボクにおいては「あ、この場所まずかったな」と思えばすぐにキャラチェンジをして移動能力の高いキャラに変更して離脱できるということだ。EDF本編であれば一度やられてステージに再挑戦しなければできない試行錯誤が、デジボクではボタン一つで瞬時に行える。

3:試行錯誤サイクルの加速


 また、編成内の各キャラはそれぞれ装備武器が異なり、撃ち尽くせばリロードするまで攻撃ができなくなる。もしそうなればEDF本編ではまわりに敵がいなければなんとかなるし、敵が多ければやられてやり直すだけだが、デジボクではすぐさま他のキャラにチェンジしてその場をしのげる。そして、「さっきの状況で弾を撃ち尽くすのはまずかったな」という学習結果だけその場で得られるようになっている。
 このシステムは単純に戦略の実験を気軽に行えるという点でも優れている。EDF本編――というか操作キャラが一人しかいない状況では、もしかしたらと思っていても特殊な武器を選んで再挑戦するのは億劫なものだ。デジボクのように複数人を同時に使えるなら、「一人くらいはあの変な武器持たせてみるか」という気分になる。ここでも試行錯誤のサイクルが早まるわけだ。(もっとも、EDF本編ではそうした限られた手札がクリアしたときのカタルシスをより強化するので、一概に悪いとは言えない)

デジボク固有の長所:全力のごっこ遊び


 さて、デジボクがどのようにEDFの魅力を再翻訳したのかについては述べたが、デジボクは「本編の良さを伝えるスピンオフ」にはとどまらない。このゲームの最大の長所は、そのアホっぽさにある。
 デジボクには本編に置けるEDF隊員――つまり軍人――とは別にブラザー(シスター)というポジションがある。要するに正規隊員ではないがEDFに対する各国の協力者、という立場なのだが、これがとにかくアホだ。
 昔の日本からタイムスリップしてきたニンジャがいて、普通に刀で戦う。
 EDFにフランクフルトを納品しに来ただけのドイツ娘がいて、爆発するフランクフルトの鉄板に敵をおびき寄せて戦う。
 ピラミッドから目覚めた古代エジプトの王がいて、なんか…謎のエジプト神のパワーで戦う。
 「世界各国を代表し、各文化をモチーフにした武器で戦う」というていではあるのだが、全体的にこんな感じのノリだ。そして、それがとてもいい。
 「正しい理解」はハードルがとても高いし、かつ際限のないものだ。本来は何段階もの「間違った理解」を経なければそのスタート地点に辿り着くことはできないし、「間違った理解」をしている状態は当然その過程で受け入れられなければならない。
 ドイツとソーセージに関連があることを知った人の「ソーセージを武器に戦うドイツ娘を考えること」と「ソーセージの文化史をまじめに調べること」は等価であるべきだし、前者を選んだときに声高に非難されるのであれば、物事に関心を持とうとする人は減る一方だろう。
 デジボクシリーズは「地球がバラバラになり、虫型のエイリアンが攻めてくる」という荒唐無稽な舞台を利用して、その「間違った理解」をする場を提供してくれる。センシティブで、場合によっては批判の矢面に立つかも知れないリスクを犯してだ。そしてそれはデジボクシリーズのシナリオとも実にうまく噛み合っている。間違った理解をしている相手を――たとえ戦場でボロボロになったとしても――まず容認しなければ、バラバラになった地球を直すことなどできないのだと伝えてくるのだ。

まとめ

 そんなわけで、「EDFってなんかよくわかんないけどキモグロい敵を撃って楽しむゲームなんでしょ」とか「スピンオフ作品ってだいたい内輪ネタで本編知らないと面白くないよね」とかそういう印象を持っている人はデジボクシリーズを触ってみてほしい。2から入って問題ないので快適性やキャラの充実を重視したい人は2をやるのがおすすめだ。ボクセルになっても虫は無理という人は……まあ無理かもしれない。


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