FF7:クリアしてから間をおいての雑語り

 ゲームでも漫画でも小説でも、気に入ったものを消化しまくったあとは、最終的に痛覚のラベルを貼って脳の棚の中にしまう癖がある。その作品を象徴する固有の痛痒さみたいなものがあり、頭の中の辞書ではそれと作品が対応している。
 たとえば直近だとステラアビスはアルコール混じりの胃酸がこみ上げて喉を越えてきた瞬間のあの痛みだし、Sea of Starsはそのまま腹に刃物を挿し込む痛みだ。読み返しやすい漫画や小説なら、その作品の痛覚を象徴する特定のコマや文章を読むためだけに全体を読み返す、ということをよくやる。
 FF7も一通り消化が終わったのでその痛覚の部分だけが残った。ので言語化しとこうと思う。

 FF7に貼ってあるラベルは、「べりべりと引き剥がされるときの痛み」だ。うっかり糊状のものに触れてしまって引き剥がすときの感じでもあるし、かさぶたでもあるし、いま着ている服のどこかが破けてしまって、別にほんとうに痛くはないんだけど取り返しのつかないことをしたような気になるあの感じでもある。
 まあ、おおむねFF7のテーマに即しているだろう。
 クラウドはまさに自分の幻想から自分を引き剥がさねばならなかったし、うっかり癒合してしまった他人の身体、かさぶた、変装のために身に着けた服のどれでもあった。シナリオ中、クラウドの不穏さが増すに従って強くなっていった「剥がせるとっかかりに指が引っかかったけどこれ絶対痛そうなやつ」って肌感覚はよく覚えてる。
 ティファは、身体の外に大きなかさぶたがあって、それを常にいじったり引っ掻いたり撫でさすったりするときの痛み。
 バレットは、ぬるくベタついたお湯のようなものに浸かっていて、そこから身体を持ち上げて抜け出さないといけないあの痛みだ。
 ケット・シーからは共感覚の体質上よく感じる、投影していたモノから自分の座標を引っ張り出すときのあの痛みをよく感じた。
 シドからは千切れかけている皮膚の痛みがする。あのギリ自分の身体じゃなくなって、でもまだ一割くらい自分の身体判定が残ってる取れかけの部分をいじってるときのあの痛み。
 ユフィはヴィンセントはサブキャラだからか、あまりそういうのはなかった。
 ナナキについては痛みかどうかまだよくわからないものが残っている。未分化の細胞のようなもの。ラストシーンの500年後のミッドガルを見たとき、ナナキは引き剥がされる痛みを感じてるのかもしれないし、そうでないのかもしれない。確証がないと頭の中でのラベリングもそうなる。
 同様にエアリスも、痛みそのもののラベリングはない。痛みがあっただろう空の領域だけ確保されてる。エアリスはそういう役目だからだ。かいふくのマテリアに怪我の痛みが記録されていないように。
 FF7全体においても、あの書き割りがムービーになる演出のときはかなり「引き剥がされ感」があったし、たぶん開発陣もどうやればいいかわかっている2D表現から離れるときめちゃくちゃ痛かっただろう。

 特に締めの言葉とかはない。というかこの状態になるともう完全にデータが痛覚の拡張子で圧縮されてるので引っ張り出して言えることが特になくなる。

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