かつて友人だった、あるひとりの同級生の話
大学の講義が急遽オンデマンドになって真昼間に2時間の空白ができた。
ここ最近の忙しさで完全に限界を迎えていた僕は1時間弱の睡眠をもぎ取るためだけに一時帰宅し、ほとんど気絶するように眠った。(1時間だけのためでも帰宅して睡眠を取らないとまずいと思って実行するくらいなのだから、相当限界である)
そして、夢を見た。
夢の中で、心を殺した。
友人Yの。度々僕のnoteに今度きちんと書く、と言いながら登場している彼女である。
自分の放つ言葉が彼女の心を切り裂いた感覚を、はっきり、全部、ひとつ残らず覚えている。
止まらなかった。それでも。止まらない自分をどこか俯瞰して見ていた。
呪いのように勢いのままに心を切り裂いていることを知りながら、全部解りながら、吐いて、吐いて、吐いて吐いて吐いて吐いて吐いて吐いて吐いて吐きだして、渾身の嫌味を込めて最後のとどめを放って嗤って、
目を覚ました。
目を覚まして、消えようと決めた。彼女の世界から。
次に現実世界で彼女の悪意のない言動から何か少しでも傷を負ったら、僕はこうやって彼女の心を殺すんだなと思って。ほとんど確信だった。
LINEをブロックした。TwitterもInstagramも何もかも全部ブロックした。
もう彼女から僕に直接連絡を取る術はない。間接的に取る術もほとんどないと言っていい。そもそも中高の同級生で連絡先を残していたのはほとんど彼女だけだったから。
…情けないことに、愛のようなそんな感情を未だに引き摺っている唯一の相手の連絡先だけは消せずにいるけれど。
こうして友人Yは、かつて友人だったあるひとりの同級生、へと変わった、というわけだ。
何度か書いたような気がしないでもないが、Yは僕の中高の同級生だ。
6年間同じ学校に居たくせに話すようになったのは高校3年生の秋だった。
わけがわからないくらい、急速に仲良くなった。3日くらいで急激に仲良くなって、半年間ずっと友人の中でも相当仲がいい関係性で過ごした。
僕と彼女は似ていた。
同じように同級生に、同性に恋をしていたし、(便利だから今回はこう表現することにする)同じように少し歪んでいたし、思考回路も感性もすごく似ていた。
もちろん僕も彼女も別々の人間だから当たり前に違うところはあったけれど。
それでもすごく、似ていた。
同性の同級生に恋をしていて、基本的に感情が重くて、生きていくために親元を離れたいと願っていて、それが叶わない世界線を生きていて、色んなことを仕方ないねって諦めていた。なんなら最初は志望大学まで同じだった。
もっとも彼女は親元を離れなきゃいけないで、僕は親元を離れたい、という大きな差はあったけれども。
彼女にしか話せないことがたくさんあった。彼女も僕にしか話せないことがたくさんあった。
なんだかこうやって書くと好きだったみたいだなって思うし恐らく傍から見たらいや好きだろ、って感じに見えるだろうなと思う。が、全くそんなことはない。信じてもらえないかもしれないけれど。たぶん信じてもらえないけれど。別にそれでもいい。
ただ、確かに、相手が望むなら好きになれた。彼女にその話をしたとき彼女も同じだといった。じゃあ二分の一×二分の一はゼロだねと笑った。絶対に成立しないね、って。
そんなところまで僕たちは似ていた。
僕たちは高校を卒業した。
半年の間に予期せず親元を離れる選択肢が降ってきた彼女は無事親元を離れて一人暮らしを始めることが決まり、僕は6年間親元から大学に通うことが決まった。
高校を卒業してから、在学中ほど頻繁には連絡を取らなくなった(在学中の連絡頻度があまりにも異常だっただけなのだが)けれどたまに連絡は取っていたし、SNSも繋がっていたので会ったときに話すことがほとんどないくらいにはお互いの近況は知っていた。
いつしか彼女の悪意のない呟きに心を擦られることばかりになっていた。無論本人に言ったことはないけれど。
彼女は何一つ悪くない。
悪いのは、原因は全部僕だ。間違いなく。
思い返せばたぶん、彼女が親元を離れて一人暮らしをすることが決まり、僕が最低でも6年間は親元で生きていくことが決まったあの瞬間、僕たちははっきりと道を違えたのだと思う。
親からより酷い扱いを受けていて、一刻も早く親元を離れるべきだったのは間違いなく彼女だ。
僕は親から特に酷い扱いは受けていないし(少なくとも自分ではそう思っている)、親のことは恐らく一般的に同年代の人が親に対して持つ好きよりもかなり好きだ。間違いなく。
彼女は自身の親のことを嫌いになれなかった。僕は自身の親のことが大好きだった。
彼女も僕も、親元を離れなければ自分として生きていくことが叶わなかった。
なんてわかったように書いているけれど実際本当にそうかは知らない。いや、知っているけれど、僕がこうやって書くと多分違ったものになっているんだろうなと思う。というかそもそも僕がこうやって、分かり得ない他人のことを自分の中で消化していかにも事実かのように書くことそのものがよくないこと、やめた方がいいことなのは知っている。
知っているから、許してくれないかな。なーんてね。
大学生になった彼女は普通になった。いい意味で。
言い方が悪いけれど、でも、いい意味で普通になった。
中高のころよりも、人に自分を開示するようになって、自分の望みを少しずつ現実に反映させるようになって、他人の優しさに少しずつ手を伸ばせるようになって、きちんと嫌なことに対して毒を吐けるようになって、泣けるようになった。人に頼れるようになった。
間違いなくいい変化。うん。
僕と同じように世界に弾かれていた彼女はもういない。
すごくいいこと。高校の時から思っていたし言葉にしてもいた。僕と彼女は確かに似ているけれど、彼女は僕と違って世界に受け入れられて愛されるべき人だから。
本来あるべき居場所を手に入れた彼女は僕にとって目の粗いサンドペーパーだった。
寂しくはなかった。ただ嬉しいとも思わなかった。嬉しいと思うには世界にきちんと属した彼女の言葉に心がざらつくことが多すぎた。想定外。
自分が欲していたのは友達でも恋人でも理解者でもなんでもなくて大人にならない、大人になれない仲間だったんだなと思った。
心は動かなかった。
夢の中の彼女は一言も、本当に一言も言い返さなかった。
真っ二つに心を切り裂かれているのに。それがはっきり見えているのに。
そういうとこだよ。僕の負け。
君が世界に愛されるべき所以は、僕との違いはそこにある。
いつか僕が本当に君の心を殺してしまう時も君はきっとそうやって何の抵抗もしなさそうだから。高校時代と違って世界に属して、守るべき相手も居るっていうのに。
もうそんなことはないって言われそうだしそうかもしれないけれど、たとえそうだとしても僕の方は何の躊躇もせずに君の心を殺すから。
僕は自分の心のざらつきの底に、殺しそうなほどの何かが確実にあることを知ったから。
元気でなんて言えるほど僕は世界を愛しきれなくて、君は世界の方へ行ってしまったから。それは間違いなくいいことだけれど。
何も告げずにある日いきなりすべてを断って消えた僕のことをどうか心から恨んでいてくれますように。
それで完璧に君はあるべき居場所で生きていけるから。
勝手言うなよって感じだろうけど僕だけが知ってる僕だけの世界の理だから。そしてここは僕だけの世界だから、勝手言わせてもらう。
なんだかほんとに別れた元カノかなんかへの未練たらたらな文章みたいになってきたな。そう思われても仕方ないか。
彼女がこれを見つけることはほぼ100%ないからまあいいか。見つけられたとしてもお前なら全くもって違うってわかってくれるだろ。
かつて誰にも言えない、君と僕の間しか共有することのできなかったいろいろ全部を、少数派特有の感情を、考えを、問題点を、悩みを、世界を、唯一語り得た、間違いなくかけがえのない友人だった君に、永遠のさよならを。
2024.5.31
響
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