一瞬をいろどるもの 『王立宇宙軍 オネアミスの翼』のある音

『王立宇宙軍 オネアミスの翼』の「ある音」について書いた記事です。

※『王立宇宙軍 オネアミスの翼』の内容にふれています。未見の方はご注意ください。

『音楽の基礎』(芥川也寸志著/岩波新書)という本のはじめに、興味深いことが書かれている。
 音を吸収してしまう無響室や、夜の砂漠で起こる真の静寂。このまったく音のしない状態では、人間は孤独や恐怖におそわれるなど、精神的苦痛を感じてしまうという。
 そして、
「このような真の静寂は、日常生活のなかには存在しないまったく特殊な環境ではあるが、この事実は音楽における無音の意味、あるいは、しだいに弱まりつつ休止へと向う音の、積極的な意味を暗示している。休止はある場合、最強音にもまさる強烈な効果を発揮する。」
 と続けている。
 ときとして無音はどんな音よりも強力である、というわけだ。逆説的な、おもしろい指摘である。
 これは音楽だけでなく、音楽が構成要素である映像作品にもあてはまる話であろう。
 そう考えたときに、頭に浮かぶのが『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(以下『王立宇宙軍』)だ。
『王立宇宙軍』は1987年に公開されたアニメ映画。地球とよく似た星を舞台にした、オネアミス王国の王立宇宙軍による、人類初の有人宇宙飛行への挑戦を描いた作品だ。
 作品の終盤、有人宇宙ロケット打ち上げの当日。打ち上げがせまるなか、オネアミスと敵対する共和国の軍隊が、ロケットを奪取しようと攻めこんでくる。オネアミス軍はそれを阻止しようとして、両軍のあいだで戦闘がはじまる。宇宙軍には退避命令がだされるが、宇宙軍はそれを拒否して打ち上げを強行する。はげしい戦闘が繰り広げられるなか、はじまるカウントダウン。……5、4、3、2、1。カウンターが0を示し、ロケットが火を噴き、噴煙が巻き起こる。このロケット発射開始の瞬間から、時間にして3秒ほどが無音になる。
 はじめて『王立宇宙軍』を見たときから、この無音になる瞬間は印象に残るシーンであった。どうして印象的なのか、その理由はずっとわからないままだったが、『音楽の基礎』を読んでようやく理解することができた。発射開始の瞬間、それまでの迫力のある戦闘描写や、それを盛り上げる音楽や効果音に負けない、無音という強烈な音を実は聞いていたのだ。そして、無音という強烈な音によっていろどられた、劇的な一瞬を味わっていたのである。どうりで印象に残るわけだ。
『王立宇宙軍』は無音を絶妙に使ったアニメなのである。

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