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キュビスムの世界にダイブ:あらゆる事象をキャンバスに再構築するムーブメント

キュビスム展に行ってきました。
1/28(日)までですので、まだの方はお急ぎください!

今回、
・パリのポンピドゥーセンターの展示と日本国内の作品と合わせた大展覧会
・ピカソとブラックだけじゃない主要作家約40名の作品
・2024年のパリオリンピックの後に、大改修工事を行うのに合わせ大量に集まった

という滅多にない機会です!

キュビスムについて予習する

主に、山田五郎さんの動画で予習したところでは、ゴーギャン、アンリ・ルソーなどの登場と、原始的な造形であるアフリカ彫刻、イベリア彫刻の流行、そして、セザンヌが単純な立体で構成して描いた「エスタックの海」に代表される絵、

ダンの競走用の仮面(コートジボワール)制作者不詳
バンバラの小像(マリ)制作者不詳

そうしたものから、従来の絵画のルール(遠近法)を外れた表現と、単純な立体をベースに構成する手法を、ブラックとピカソがはじめた実験を端緒に、1910年代に起きた大ムーブメントが、「キュビスム」です。

音声ガイドの一部も山田五郎さんでしたね。上記の動画と、同じような内容が語られていました。展示を見るにあたってすごく見通しがよくなったものの、見終わってみて、キュビスムの理解のために、山田五郎さんの解釈に引っ張られ過ぎたな、という感じ。

作品を眺めていれば、こっちより、こっちの作品が好き、という好みの作品も出てくるし、こっちのほうが新しい、今の表現に寄ってるな、というものは出てきます。しかし、ブラックとピカソやそれ以外の作家が、キュビスムの先、どこにゴールを置いていたか、ということについては、山田五郎さんの解釈「モダニズム」の大きな流れの最初にあったもの、という解釈に引きずられたように思います。展示全体の見通しがよくなって、短い時間で自分なりの理解ができたので、悪いわけではありませんが、ちょっと理解の助けにしすぎたな、と思いました。

特に、山田五郎さんのおっしゃる「モダンな建物の白い壁に飾るなら、どういう絵がいいか?」
「そこはダヴィンチじゃないよね。やっぱり、モダンな絵だよね?」という場合に使われる「モダン」ですね。どちらがよりモダンか?
新しいデザインの家に飾る絵として、どっちが合ってるか?
結果、絵の表現としては、そこを当てはまる絵を目指していたんだろうな、と後の時代の我々にはわかります。では、そうしたモダンな建物がなかった時代に、彼らは何を目指して創作していたんでしょうか?

その答えを探す時間になりました。

※今回、撮影OKの作品が多く、個人利用はOKということです。

ピカソとブラックの実験

セザンヌの『レスタックの海』に魅せられて、ブラックが絵が描かれた街に行って、描いた作品。この絵の展示を見て、「cubeで構成された」と評された「キュビスム」はじまりの作品です。

ジョルジュ・ブラック『レスタックの高架橋(1908)』

ジョルジュ・ブラック『レスタックの高架橋(1908)』

(『アヴィニョンの娘たち』のほうが制作年は古いけど、当時まだ未公開。ブラックは、公開前に『アヴィニョンの娘たち』を見て、刺激を受けたらしい)

パブロ・ピカソ『女性の胸像(1907)』

パブロ・ピカソ『女性の胸像(1907)』

陰影も三角。髪の黒さを青で、影の黄色で、全体的に暗い印象だけれども力強さがあります。胸も大きく描かれて、女性らしさが強調されている感。最初に長居した絵。これまでの絵に比べて、新しさはあるものの、今っぽさは感じません。

分析的キュビスムから総合的キュビスム

モチーフにギター、ヴァイオリンがよく出てきますが、この絵が実際の物体とどのくらい乖離があるのか、見る人にわからせるものさし的な役割をさせたかったのでしょうか。この辺の時代になると、もう性別の区別もできませんし、人の形かどうかもわからないものがあります。よく知る楽器の形がこうだから、人はこう見える、という比較対象にしているのかもしれません。

パブロ・ピカソ『肘掛け椅子に座る女性(1910)』
パブロ・ピカソ『ギター奏者(1910)』
ジョルジュ・ブラック『ヴァイオリンのある静物(1911)』

この時代、色が少ないですね。色を廃することで何がわかるんでしょうか? まずは形の追求という模索の仕方だったのか、新たな技法を獲得して作り上げたい世界に、色は重要ではなかったんでしょうか?

ジョルジュ・ブラック『ギターを持つ女性(1913)』
ジョルジュ・ブラック『ギターを持つ男性(1914)』
パブロ・ピカソ『ヴァイオリン(1914)』

この時代、ピカソのほうが、何かを現わそう、別の世界を構築しようという意思の強さを感じました。でもモダンだと感じるのは、ブラックですね。四角や三角といったもの(未来っぽさ)の構成度合を強く感じるせいでしょう… でしょうか?

ピカソ・ブラック以外の同時代の作家

ギャラリー・キュビスト

フェルナン・レジェ『縫い物をする女性(1910)』
ファン・グリス『本(1911)』
ファン・グリス『ギター(1913)』

この辺の展示から、よりモダンで、ポップな感じになっています。ブラックとピカソの実験と並行して、他の作家も、形をどう組み合わせたか見てとれます。

サロン・キュビストたち

ポスター画像にもなっている『パリ市』です。
これは大きさといい、今、現代の渋谷駅内にあっても変じゃないですね。

ロベール・ドローネー『パリ市(1910-1912)』
アルベール・グレーズ『収穫物の脱穀(1912)』

オルフィスム(詩的キュビスム)

ブラックとピカソの実験で途中失われていた色がたくさん見られます。でも、くすんだ色が多くて、モダンという感じはあまりしません。

ロベール・ドローネー『窓(1912)』
ロベール・ドローネー『円形、太陽 no.2(1912-1913)』
ソニア・ドローネー『バル・ビュリエ(1913)』
ロジェ・ド・ラ・フレネー『腰かける男性(1913-1914)』

色の多さではないとすると、何に「今っぽさ」を感じるんでしょうか?
ドローネーの色を使った抽象画より、『パリ市』のほうがモダンだと感じます(パステルカラーに近いせい?)。山田五郎さんがおっしゃったモダンな建物にどちらをかけたほうが似合うか? という話ですが、この頃にそんなモダンな建物は存在しません。でも、彼らは、立体で目の前の事物をキャンバスに再構成しながら、その世界を脳内に広げたのでしょう。脳内世界の中で、よりこっちのほうがイケてない? という想像の積み重ねが、彼らの頭の中にモダンな世界が作られ、そこによりフィットするような絵ができていったように感じます。

デュシャン兄弟とピュトー・グループ

デュシャン兄弟

音声ガイドの解説では、写真というものが現れた影響ということでしたが、対象物の構成要素を立体に表現するだけでなく、運動の部分部分を再構成することも行われます。時間の断面を一枚に収める試みですね。

マルセル・デュシャン『チェスをする人たち(1911)』
ジャック・ヴィヨン『行進する兵士たち(1913)』

そして、画家それぞれの頭の中にだけあった世界が現実世界に形として現れます。

レイモン・デュシャン=ヴィヨン「メゾン・キュビスト建築正面(模型)(1912)」
レイモン・デュシャン=ヴィヨン『メゾン・キュビスト入り口/サロン(1912)』

キュビスムの影響を受けた人たち

マルク・シャガール

マルク・シャガール『ロシアとロバとその他のものに(1911)』
マルク・シャガール『白い襟のベラ(1917)』
マルク・シャガール『キュビスムの風景(1919-1920)』

『キュビスムの風景(1919-1920)』はとても好きになりました。シャガールの絵といえば『ロシアとロバとその他のものに(1911)』の印象で、これは、「夢」「記憶(脳内イメージ)」を再構築したものという解釈はできるものの、あまり好みの作品ではありませんでした。でも、一通りキュビスムって何だろう? と考えながら歩いたあと、一息入れた時にこの絵を見て、あぁ、どっぷりキュビスムの人たちとも違う、キュビスムへの客観性も感じられて、そして、少しモダンな色使いで、好きな作品の一つになりました。

ロシアの立体未来主義

「立体未来主義」のコーナー、とてもエキサイティングでした!

ロシアの伝統と新たな造形表現が結びついた絵がとても、素敵。

ナターリヤ・ゴンチャローワ『電気ランプ(1913)』
ミハイル・ラリオーノフ『散歩:大通りのヴィーナス(1912-13)』
ナターリヤ・ゴンチャローワ『帽子の布陣(1913)』

第一次世界大戦からキュビスム以後

こちらは何を再構成したかというと、音、曲、ですね。

アルベール・グレーズ『戦争の歌(1915)』
パブロ・ピカソ『若い女性の肖像(1914)』
ジャンヌ・リジ=ルソー『1キロの砂糖のある静物(1915)』

そして、キュビスムを通じて、ようやくたどり着いた感のあるモダンな静物画。静物画の中ではこれが一番好きになりました。

フアン・グリス『朝の食卓(1915)』
マリア・ブランシャール『輪を持つ子供(1917)』
パブロ・ピカソ『輪を持つ少女(1919)』
フアン・グリス『ギターを持つピエロ(1919)』

まとめ

キュビスムは、既存の絵画表現から離れる時代、手法としては特にセザンヌの刺激を受けた画家たちが、これまでの事物をキャンバスに再構成する大ムーブメントでした。そして、再構成するものは、静物、風景、人物に留まらず、時間、運動、音楽、記憶とどんどん広がりを見せました。東洋やロシアの伝統と結びつくことで、刺激ある作品もできあがりました。再構成した世界は、画家たちの脳内を飛び出し、建築という現実世界にも影響を及ぼしました。

あと、好みの問題ですが、ピカソがとてもいいですね。ピカソよりもモダンさを感じる作家は多かったですが、ピカソの絵に特に惹かれるものがありました。そして、抽象に走り切らない感じもいいです。キュビスムの実験をしている時は、対象が何かもわからなくなっても、モチーフや絵の表現に、とっかかりを残している。でも、誰にも想像できなかった世界を構築しようとしている。モダンさは他の作家よりなくても、色や形にポップさを感じます。ピカソの感性と創造性がすごい。

そういえば、去年、2023年の年初までやってたんですよね、「ピカソとその時代」展。今さらながら行きたかったな…。でも、キュビスムのことに触れずに見ても、今のような見え方はしなかったでしょう。次のピカソに出会う機会を待ちたいと思います。

※キュビスム展を離れて常設展にいたピカソ

で、好きになったピカソの作品が常設展にありました。

パブロ・ピカソ『小さな丸帽子を被って座る女性(1942)』
パブロ・ピカソ『横たわる女(1960)』
パブロ・ピカソ『男と女(1969)』

ピカソいいなぁ。

いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。