この場所があってよかった
私は、1、2ヶ月に一度、実家に帰省していた。
実家から一人暮らしの部屋に帰った時に、よく思っていたことがある。
そして、この日は特に、強くそう思った日だった。
ある日の帰省した時のこと。
母の調子がよくなくて、症状が強く出ている時だった。
私が実家から帰る時に、母が、
「もう向こうに帰らなくていい!ここに居たらいい!」と怒り始めたことがあった。
症状が強く、妄想的になっているから、特に強い言葉で感情をぶつけてくる。或いは本当に寂しかったから、症状の強さを借りて本来の感情を吐き出したのかもしれない。
今ならこうして冷静に捉えられたのだけれど、
当時の私には、この言葉が重くて仕方なかった。
昔から、父や近所のおばさんたちから、
「あんたが帰ってきたらお母ちゃん、喜んでるで」「あんたが帰ってくるって嬉しそうやったわ」
という報告を何度も聞いていて、それがどこか、
「だからあんたが側にいたらなあかん」「だからあんたが世話したらなあかん」という呪縛のように感じていて、とても重苦しかった。
何か、ベッタリと張り付いて頼られているような、あんたしかいないみたいな、娘だからわかってくれるよねみたいな、こういうのは子供の時から感じていたことで、母の鬱々した表情を見ると、どこかでこう思われているような気がして、気持ちが重かった。
しかし、その日の私は、そんな母に根負けしたのか、疲れたのか、自分の家には帰らず、実家で過ごした。翌日の仕事も休んだ。
そして翌日の帰り際も、母は昨日と同じようなことを言ってきた。私は流石に疲れ切ってしまって、なんだか気が狂いそうになっていた。
そして、心がワーっとなって、訳もわからず大声で叫んでいた。
意識とは別に、口が勝手に大声を出しているような感じ。
叫びたくないけど、勝手に声が出る。
あ、おかしいな、と思いながらも叫ぶのをしばらく止められなかった。
不思議な感覚だったけど、結局、心がいっぱいになってしまって、それをどこにぶつけたらいいのかわからなくなってしまって、そんな行動になってしまったのかと思う。
結局、父が心配して、その日は自分の家に帰ることになった。
その日は特に、自分の一人暮らしの部屋に帰ってくると、ものすごい安堵感に包まれた。
そして、1人でブツブツと呟く。
「この場所があってよかった、この場所があってよかった…」
「この場所があってよかった、この場所があってよかった…」
心から、心の底から何度も、ほんとうにそう思ったから何度も、何度も呟く。
頭おかしいみたいだけど、1人だし、心からの本当の気持ちを口に出しただけのこと。
この安堵感、安心感、自分だけの居場所。
この場所があってよかった。
病気の親を置いてきて何を言ってる?
親不孝、最低の子供、甘えてる、育ててもらった恩はないのか?
でも、何を言われても、自分が正しくなくても、世界中を敵に回しても、磔で火炙りにされたとしても、
この、ものすごい安堵感に嘘はなかった。
それくらい自分だけの居場所というのが、私には必要だった。
このことに関しては、全ての方が私と同じように感じるのかは、人それぞれかと思っています。
私は他の人に比べて、1人になる時間がほしい方なので、特にこのように強く感じたのかと思います。
私は、病気の親と同居できなかった、耐性のない弱い人だったと思います。
でもだからこそ書いています。
人それぞれ、強いとか弱いとかいろんな人がいろんなことを感じて、強いからエライとか弱いからダメとかじゃなく、1人の人間が経験して感じたことを正直に書きたいと思っています。
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