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あにの 文化センターの話

 年に何度もあちこちでとんでもない雨が降ったり、毎日のように40度に迫ろうかという暑さだったり、なんだか異常気象がすっかり異常じゃなくなってきている今日この頃、みなさまいかがお過ごしでしょうか。一日中エアコンが切れなくて電気代の請求が怖いあにです。通勤が過酷すぎて仕事に行きたくない。通勤が過酷じゃなくても仕事にはいきたくない。イヤなことをお天道様のせいにするのは良くないですね。

 さて、今回はそんな天気の話とは全然関係ない、文化センターの話。

 兄弟が昔府中市に住んでいた頃、徒歩5分のところに文化センターがありました。
 正面には小さな運動場。
 裏にはささやかな遊具が置いてある小さな公園。
 1階には受付と小さなホールに給湯室。それに1980年代にはめずらしい(であろう)貸しパソコンルーム。学童クラブも設置されていました。
 2階は貸し会議室。
 3階は図書館。
 幼稚園に入園前から、母に連れられて小ホールで開催されていた幼児体操教室のようなものに通ったり、3階の図書館で紙芝居を借りてもらったり、幼少期のあに少年の世界の半分を担っていると言っても過言ではない大変重要な施設でした。

 そんなこんなで小学校に入学したあに少年。それを期に母が働き始めました。そして、小学一年生が家に帰ってきた時に誰もいないのは危険ではないかと言い出す両親。
 別に家に帰っても誰もいなくても、大人しく本を読んでいたり、ビデオを見ていたり、友達のところに遊びに行ったり、近所の公園で延々と蟻の巣に水を流し込んだり、いくらでもやることはあるじゃないですか。あに少年はそういうことが出来る子だよ? 1人でも大丈夫な子だよ?
 しかし日頃の評価というものは冷酷なものです。必死のプレゼンも虚しく、あに少年、文化センター1階の学童クラブに通うことになりました。

 おかげさまで小1から小3までの放課後と夏冬の休みの思い出は学童クラブと共にあります。
 みなさまご案内の通り、集団生活の苦手なあに少年。学童クラブが本当に嫌いでした。ドッヂボールが嫌いでした。宝トリが嫌いでした。キックベースが嫌いでした。ハンドベースボールが嫌いでした。
みんなで何かをしようという全てが嫌いだったインドアぼっち少年あにのオアシスが、毎週水曜日に開催されるビデオ上映会でした。
 学童とは関係なく文化センターが企画していた上映会で、暗幕を張って暗くした1階の倉庫に椅子を並べ、ちょっと大きめのスクリーンに映写機でビデオを流すというこの企画。
 「ウルトラマン」「ウルトラマンA」「仮面ライダーV3」「ルパン三世」「銀河鉄道999」などの過去の名作から「恐怖のバイオ人間 最終教師」のような、誰がどういった基準で選んだんだという謎OVAまで、多岐にわたるラインナップで、学童が終わる午後5時まで文化センターの敷地から出ることが許されず、テレビもビデオもなし、漫画は図書館にある手塚治虫全集と中沢哲治全集のみという極めて閉塞的な空間に閉じ込められているあに少年にとって何にも変え難い避難所でした。
 ちょっとえっちなシーンで女の子ときゃーきゃー言ったりするのも楽しかったよね。


 あに少年が3年生の夏休みのとある日。
 夏休み中の学童クラブは、朝9時くらいまでに出勤。午前中はみんなで宿題に取り組み、お昼はみんなでお弁当の後みんなで少々のお昼寝。午後はみんなで自由時間。みんなでおやつタイムを挟んでから再びみんなで自由時間。5時帰宅というスケジュール。常にみんなというだれかがいる一日。夏休みなのに全然休めねーよというあに少年の提言虚しく、両親が仕事の日(ほぼ毎日)は学童クラブに通わされ、自由時間はコソコソ3階の図書館にこもり、ジャングル大帝やガムガムパンチを読む。そんな夏休み。

 しかしそんなあに少年もくさってばかりではありません! 普段は週1のビデオ上映会ですが、夏休みはなんと週に3回も開催してくれるのです! これはうれしい!
 月水金は上映会。火木は図書館にしけ込み夏休みを満喫するあに少年でした。

 そんなとある日。その日の演目は、ルパン三世カリオストロの城でした。ご存じ宮崎駿の、ジブリ前の名作長編アニメです。もちろんあに少年、夢中になって見ていました。

 しかし少々気になることがあります。

 なんか…長くない?

 普段はTVサイズで30分の話を2話程度で終わる上映会。終わったタイミングで切り上げると、ちょうど学童クラブのおやつタイムです。
 ところがカリオストロの城は、上映時間100分の長編アニメ。いつまで経っても終わりません。
 はたしてこのまま、のほほんと映画を見続けていていいものか……おやつタイムに戻らないと大変なことになりはしないか……
 不安になって周りを見回すあに少年。
 しかしよく見ると、真っ暗な上映室の左前方に、同じ学童クラブの1学年下、工藤くんが座っているではないですか。

 なら安心だな

 3年生で学童クラブでは最上級生のあに少年。年下の児童に自分の運命を委ねることに決めました。

 スクリーンの中では物語が佳境に。
 カリオストロ伯爵がルパン三世と決闘をしています。
 あに少年はもう夢中です。工藤くんもそのようです。
 カリオストロ伯爵がクラリスを人質にルパンを追い詰める。
 絶対絶命のその時……!


 ガラッ


 無遠慮に開けられる上映室の入り口。 


「工藤くんいたー!」


 学童クラブの同級生の声のでかい女の子です。どうやらおやつタイムになっても姿が見えない工藤くんをみんなで探し回っていた模様。時まさにクライマックスだと言うのに、映画の時間は終了のようです。残念でなりませんが、これも学童クラブに囚われるものの定め。残念そうに、そしてバツが悪そうにして退出する工藤くんに続いて、あに少年も上映室をでます。
 すると同級生の声のでかい女の子がこっちを見て言いました。

「え、あにちゃん、いなかったの!?」


 なんということでしょう。まさかおやつタイムの集合にあに少年がいなかったことに、誰も気がついていなかったとは……

 その後、おやつをおあづけされている学童メンバーの前で、時間通りに集合しなかったことをガッツリ怒られる工藤くんとあに少年。頭の中では「誰もボクがいないことに気づいていなかったくせに……だったらルパン最後まで見ればよかった……」と思っていたので、さぞ不貞腐れ顔をしていたことでしょう。

 あに少年の、とある夏休みの話でした。


追伸
 今回のタイトルに使われている写真がまさに当該文化センターでびっくりしているあにです。
 これまでのふたりののはなしから、兄弟の住んでた場所をぴったり当てたのはなしファンの先着1名様、おとおとのおごりで一緒に飲みに行きましょうw

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