ハイスペックな兄、転生したら妹の子供だった件 16話
ライブが終わって、俺達3人はアポ無しで楽屋へと向かっていた。
ステージ裏では、ライブ終わりだというのに黒いTシャツを着た大人達が慌ただしく駆け回っている。
背中に白い文字で〝STAFF〟と印字されてるから、ライブ関係者なんだろう。
○○:てか、奈々未。お前、楽屋の場所って分かってんのか?
奈々未:さぁ....?
深川:いや、「さぁ....」って....分かってる訳じゃなかったんだね
奈々未:まあ、歩いてればそのうち着くでしょ
なんて言いながら呑気に歩いている。
途中、スタッフの人達からは驚愕と警戒の視線が交互に投げかけられた。が、奈々未はまるで気にしていないのに対して、深川さんは苦笑いをしていた。
まあ、ハリウッド女優が子連れで歩いてるんだから当然か...笑
すると、前方から何やら笑い声や賑やかな声が聞こえてきた。声からして若い女性、しかも1人や2人じゃない。
その中の一人の少女がこっちを見て、パァと顔を輝かせた。どうやら、俺達に気づいたみたいだ。テクテクテクッとこっちに駆け寄って来る。
「あぁ〜! 蓮く〜ん!!!」
「お〜い」と言って、手を振りながらやって来たのはさっきまで堂々とライブをしていた、菅原の咲月だった。
○○:おっ、咲月じゃん
咲月:ん〜! また会えたね!
なんて言いながら、問答無用に抱っこしてきた。
○○:うっ....ライブ終わってすぐなのに、めちゃくみゃ元気......
咲月:アドレナリンだよ、アドレナリン!
深川:あっ、○○君を連れて来てくれた子だ!
咲月:ふぇっ!? 深川麻衣さん!? ま、また会えて嬉しいです! でも、どうしてここに?
と、咲月がハリウッド女優に驚いてるところに、
「さっちゃ〜ん! どうしたの?」
やって来たのは。井上の和。
○○:おっ、和だ
和:あっ、蓮くん! もしかして、会いに来てくれたの!?
○○:い、いや...笑
和:照れ隠し? もう〜! 可愛いなぁ〜!
咲月に抱っこされた状態で、和に頬を人差し指でムニムニされる。
ファンからしたら、めちゃくちゃ羨ましい光景だろうな.....
なんて呑気なことを思っていると、待ちきれなくなったのか、奈々未が口を開いた。
奈々未:あのさ、いつまでイチャイチャしてるつもり?
○○:おい、どう見たらイチャイチャしてるってーーいや、見えるな.....
奈々未に言われて、ようやく俺達がここまで来た目的を思い出した。
○○:ねぇ、2人とも。楽屋まで案内してくれないかな?
和:何で楽屋ーーって、そっか! 飛鳥さん達だね?
深川さんのことを見て、察した和。やっぱり、飛鳥さんと深川さんが同じ高校ってことは知ってるか。
深川:お願いできる?
咲月:任せてくださいっ!
ハッキリした声で言い切った咲月の案内のもと、メンバーの楽屋へと向かう。
咲月:さっ! ここです!
和と咲月に案内された東京ドーム内の一室。楽屋の中からは女性グループ特有(?)の賑やかな声が聞こえてくる。
「あっ、さっちゃんとにゃぎ! 遅いよ〜!」
咲月が楽屋のドアに手をかけるよりも先に、内側から開いて10代くらいのこれまた美少女が出てきた。
和:ごめんごめん。あっ、でも、頼まれてたアイスはしっかり持ってきたよ!
「あ〜、ありがとう!」
美少女が、パァと輝いた笑顔で和からアイスを受け取る。
○○:あっ、2人と一緒にライブしてた子だ
「ちょっと、さっちゃん! その子誰っ!? めっちゃ可愛い!!!」
そう言って顔を近づけてくる美少女。クリクリで輝く瞳が至近距離で俺を見てくる。
その勢いに圧されて、珍しくビビった。
咲月:ちょっと、美空! 蓮くんが怖がってるでしょ!
そう言って、咲月は〝美空〟と呼んだ美少女から距離をとってくれた。
美空:蓮くんって言うんだ! てか、そんな可愛い子をさっちゃんだけが抱っこするなんてズルいよ! 美空にも抱っこさせてよ!
咲月:美空には、彩ちゃんがいるでしょ!
美空:この子は、あーやとは別の可愛さがあるの!
なんて、よく分からない言い争いをしてる2人。そこに、新しい美少女が登場した。
「さっちゃんにくぅちゃん。2人とも、何喧嘩してるの?」
美空:あっ、さくたん〜! ねぇ、聞いてよ! さっちゃんがね、こんな可愛い子を独り占めしてるの!
川崎:なんだ、そんなことか
美空:そんなことって、これは由々しき問題だよ!
川崎:はぁ...それより、さっちゃん。そこにいる後ろの人はーーって、えっ!? ふ、深川麻衣さん!!?
〝さくたん〟と呼ばれた美少女が深川さんを見て、大きな声を上げて驚く。
やっぱり、深川さんは有名だなぁ.....
和:飛鳥さん達に挨拶したいんだって
川崎:えっ、深川さん達もですか?
深川:ん? 私達以外にも来てる子いるの?
川崎:あっ、はい。飛鳥さん達の後輩さん達が少し前から来てますよ
○○:後輩? なぁ、奈々未。俺達以外に今日のライブ来る奴いたのか?
奈々未:いや、私は何も知らないよ。てか、後輩って言ったらアンタの方が詳しいでしょ
○○:んー、与田とか久保あたりか?
なんて、予想しながら楽屋の中へと入ると、
「美月さん! 今日のライブ、とっっっっっても素敵でした!!!」
美月:アハハハ....ありがとね
「特に梅澤さんとの2人のユニット曲はヤバすぎでした! あれは綺麗とカッコいいの融合ですよ!!!」
すっごい見たことある一人の美女が、ライブ終わりの美月に詰め寄っていた。
「高校の時も素敵でしたが、今はもっと素敵です! 神です! まさしく神っ!!!」
美月:もう、大袈裟だなぁ....笑
「いえっ! 大袈裟なんてものじゃありません!!! 」
あと数センチという距離まで顔を近づけて、美月に訴えている美女。
そんな言動に若干ヒキ気味の美月。それを見た別の美女が抑えに入る。
「はいはい。そこまでだよ、かっきー。美月さんが困ってるでしょ?」
「ちょっ、まゆたん待って! 」
「待たないよ〜」
「そ、そんなぁ〜! あぁ〜〜〜、み〜づ〜き〜さぁあああああん〜っ!!!」
美女が美女を引き摺っている。
「ホンマ、かっきーは変わらんなぁ〜」
「ライブ中もずっとあの調子だったしね...笑」
その光景を見慣れたような目で見ている、これまた別の2人の美女。
てか、コイツら全員、めっちゃ見覚えある。最後に見た時よりも明らかに大人になっているが、間違いない。
コイツらは、俺や美月の一つ下の後輩の田村、早川、柴田。
そして、あの賀喜遥香。
後輩って、よりによってコイツらか.......
なんて思っていると、
美月:あっ、○○〜!!!
賀喜の狂信的な絡みから解放された美月が俺に気づいて、こっちにやって来た。
咲月:ん? ○○?
俺を抱っこしている咲月が不思議そうに首を傾げる。
○○:おい、美月! 呼び方!
美月:あっ、ごめんごめん...笑
ったく、しっかりしてくれよ......
美月:まあ、そんなことよりも.....何で咲月ちゃんに抱っこされてるの?
おっと、何で睨む? 何で声がワントーン下がった?
和:蓮くんですよね? 美月さんがいつも言ってた子って
美月:そうそう。あっ、もしかして連れて来てくれたの?
咲月:そ、そうです!
美月:ありがとね! じゃあ、あとは私が面倒見るから!
そう言って、ニコッと笑みを浮かべる美月。
が、そこ笑顔には妙に圧が篭っている。そのせいで、咲月と和はビビっちまってる。
咲月:あっ、はい。どうぞ
完全にビビった咲月が素直に俺を差し出した。
美月:それじゃあ、蓮くん。あっちでお話しようね?
おい、怖ぇよ.....
俺は抵抗する余地もなく美月に抱っこされて、楽屋の隅へと連れて行かれた。
そんな俺達を余所に、楽屋のドアが開いた。
「ふぅ.....やっと、帰って寝れますよぉ.....」
「梅は一人で仕事し過ぎなんだよ」
「仕方ないじゃないですか。キャプテンなんですから」
「もっと、周りに頼って気楽に行こうよ〜!」
やって来たのは、このグループの絶対的エースである飛鳥さん、その相棒のみなみさん。そして、キャプテンの美波の3人だった。
奈々未:おっ、3人ともお疲れ様さま〜
飛鳥:あっ、奈々未にまいまい。2人とも、今日は来てくれてありがとね
深川:3人とも、スゴく可愛かったし、カッコよかったよ!
星野:ありがとう! まいまい!
美波:あれ? 奈々未さんと深川さんのお2人だけですか? ○○も一緒のはずですよね?
奈々未:あ〜、○○なら.....ほら、あそこ
そう言って、奈々未が指さした先には、楽屋で自分の荷物が置かれている席に座っている美月とその膝の上に座らされている俺がいた。
星野:あれは、何してるの?
奈々未:さあね
飛鳥:○○が何かやらかしたんでしょ
美波:まあ、大体そんなところですね。でも、あの光景は何だか懐かしいです......
なんか感慨深い雰囲気を醸し出してる美波達を余所に、俺はーー
○○:俺は無実だっ! 何もやってない!
美月:そんなの嘘だね!
○○:何でだよ!?
美月:咲月ちゃんに抱っこされてて、無実な訳ないでしょ!
○○:それは、俺が頼んだことじゃねぇよ!
美月:ふんっ! どうだかね!
彼女に浮気がバレて必死に弁解してる、みたいになっていた。
美波:まあまあ、美月。○○を信じてあげなよ...笑
おぉ....美波、救いの女神よ.....
美月:で、でもぉ......
美波:じゃあ、今度の休みの日にでも○○と出掛けたら?
おい待て、何が「じゃあ」だよ
美月:むむっ....仕方ないなぁ。優しい美月ちゃんだから、それで許してあげるか〜
なんか勝手に出掛けることが決まったが、美月の機嫌が直ったなら、まあ、うん.....いいか
その後、機嫌が直った美月の膝の上に強制的に座らされて、今日のライブの感想を求められた。
美月:ねぇねぇ、今日のライブどうだった!?
○○:あー、よかったんじゃね?
美月:ちょっと! 真面目に答えてよ!
○○:真面目だって
なんて話していると、
「美月さん! あなたの賀喜が戻りましたっ!!!」
面倒臭い奴が戻ってきた。
賀喜:ちょっ、美月さん! 何ですか、その子供!? ていうか、いつ子供できたんですか!?
まあ、分かってはいたけど、予想通りの反応だな...笑
賀喜:誰との子供ですか!?
美月:ちょっと、待って! この子は私の子供じゃないよ! 第一、結婚自体してないしっ!!! それに.....
両手で俺の顔を挟んで、賀喜に向けてグッと動かす。
美月:どう見ても私に似てないでしょ!
賀喜:た、たしかにそうですね.....
そう言って顔を近づけて、俺の顔をまじまじと見る賀喜。
賀喜:ていうか、この子。なぁ〜んか誰かに似てるような......
お、おい、近ぇな......
賀喜:しかも、この目は......どっかの憎たらしい先輩を思い出します
う、嘘だろコイツ......
美月:えっ、よく分かったね。かっきー
○○:おい、馬鹿っ!
美月:あっ......
俺の焦りようを見て、美月はすぐに自分の失態に気づいたようだ。すぐに誤魔化しに入る美月。しかし、賀喜には通じなかった。
賀喜:美月さん! どういう事ですか!?
美月:ど、どうって言われも.....あっ、そう! かっきー、蓮加って覚えてる?
賀喜:えっ、蓮加ちゃんって、先輩の妹ちゃんですよね?
美月:そうそう! で、この子がその蓮加の子供なの!
賀喜:な、なるほど。蓮加ちゃんが結婚したって事は聞いてましたし、そういう事ですか......
ふぅ....何とか納得してもらえーー
星野:あっ、○○く〜ん!
賀喜:ま、○○君んんんんんんっ!!?
やってくれたな、みなみさん
賀喜:み、美月さん! どういう事ですか!?
美月:え、えっとねぇ.....ちょっと、待っててね...笑
そう言って、美月は俺の耳元でコソコソと話しかけてきた。
美月:ま、○○。どうすればいい?
○○:こうなったら、もう誤魔化せねぇだろ。しょうがねぇから言うしかねぇよ
コイツに言うのは不本意だけどな
美月:分かった
お互いにそう決めた俺達。そして、賀喜に全てを打ち明けた。
・・・
・・・
・・・
賀喜:え、え、えぇえええええええええっ!!!!?
今まで打ち明けてきた人達の中で、多分だけど一番の驚き方をした賀喜。楽屋にいた人達が一斉に視線をこっちに向けてきた。
美月:ちょっ、かっきー! しーっ! しーっだよ!
賀喜:あっ、ごめんなさい......
美月に注意されて、すぐに謝った賀喜。しかし、賀喜と一緒に来ていた田村達が食い付いた。
早川:かっきー、どないしたん?
賀喜:えっ、いや、何でもないよ!
田村:あんなにおっきな声出てたのに、何でもない訳ないでしょ
早川や田村が詰め寄り、賀喜が俺に助けを求めてきた。
賀喜:せ、先輩.....どうしますか? 特にまゆたんは結構しつこいですよ
○○:はぁ....仕方ねぇな。コイツらにも言うか
賀喜:わ、分かりました
・・・
・・・
・・・
「「「え、えぇええええええええええっ!!!!?」」」
田村達にも同じ説明をすると、これまた賀喜と同じようなリアクションを見せた。
田村:ちょっ、ちょっと待ってください! えっと、今の話を整理すると.....高3の時に亡くなった○○先輩が転生して、その転生先が妹の蓮加ちゃんの子供だったってことですか!?
うん、説明ありがと
美月:まっ、そういう事だね
柴田:てことは、この子が○○先輩ってこと?
早川:みたいやな
柴田:........
ジッと俺を見てくる柴田。そして、
柴田:か、可愛いぃいいいいいっ!!!
両手で俺の頬をギュッと挟んでそんなこと言う柴田。そんな彼女の奇行に対して、美月に抱っこされてるせいで俺は抵抗できなかった。
早川:美月さん。この事って、他の人達も知ってはるんですか?
美月:うん。いつも一緒にいた人達は、基本全員知ってるよ
田村:あっ、ていうことは、もしかして、今年の同窓会に先輩達みなさんが来るのって......
美月:○○が来るのを知ってるからだね
田村:あー、なるほど
抱えていた疑問の答えに辿り着いた田村だった。
同窓会の出席確認用で作られ、年に一回のみ動き出すLINEグループ。
そのグループが、つい先日動き出して、出席か欠席かを確認する投票結果に白石をはじめとした〝最高の世代〟を代表する面々の名前が並んでいたのだ。
それを受け、今年の同窓会は例年よりも参加人数がめちゃくちゃ多いらしい。
○○:しょ、しょういえば、みぢゅき。あれ、どういう事だよ?
美月:ん? あれって?
○○:さっきのライブで、お前らが歌ってた曲だよ。あれって、文化祭のやつだよな?
美月:おっ、よく気付いたね
○○:当たり前だろ。俺が全部作ったんだから
美月:いや〜、実はねーー
美月の説明はこうだ。
昔々あるところに、いつも〝Route46〟に楽曲を提供してくれるプロデューサーが楽曲作成に困っていました。
するとそこに、昔から仲の良い一人のとある作詞家から久し振りの連絡がありました。
その作詞家の人と色々と話し合い、とある高校生が作った曲を正体不明の謎の作詞家〝unknown〟が作ったものとして提供しましたとさ。
めでたしめでたし。
○○:いや、めでたくねぇわ。てか、そのとある作詞家って、母さんだろ?
美月:ピンポーン! だいせいか〜い!
○○:いや、盗作
美月:大丈夫なんじゃない? その曲で稼いだお金は○○の口座に入れてるって、前に言ってたし
○○:えっ、マジで?
美月:うん
よし、帰ったら母さんから、その口座の通帳とカード貰うか
美月:○○、この後どうするの?
○○:一応、母さんと一緒に来たから、帰りも一緒に帰るけど。あっ、そうだ! お前サインーー
俺はドルオタと化した死神少女のことを思い出して、「サインでも貰ったら?」と、言おうとして振り返るが
そこで気づいた。
ん? 待てよ......
てか、あれ?
今まで気づかなかったけど、今日さくらいたっけ....?
……To be continued
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