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坂道神楽戦争 1話
「いい? これから何があっても、ーー達は家族やで?」
桜が咲き誇るとある日。
満開に咲く一本の桜の木の下に、2人の少女がいた。
「もちろん! 切っても切れない縁だね!」
関西弁で話す少女に、ちびっこ少女が満面の笑みで答える。
「そういうこと。って、○○、聞いてる?」
関西弁の少女が呆れたような表情をしながら、桜の木の上で横になっているーー○○と呼ばれた少年に問いかける。
○○:ん....もち。聞いてるよ〜
「もうっ....その返事は聞いてへんかったね。せっかく、ーーがええこと言うたのに〜」
「ふふっ、○○は適当だからね...笑」
○○:離れ離れになっても俺達は家族。だろ?
「なんや、ちゃんと聞いとったやん」
「流石○○! そういうとこも好き!」
○○:はいはい、ありがと
「むぅぅ、また、そうやって言ぅ......」
○○:その話は、また会えたらな
「もう! そんな悲しいこと言わないでよ!」
「ふふっ...笑 じゃあこれ。また会えるように、って願いを込めて」
そう言って、関西弁の黒髪少女は3つのペンダントをポケットから取り出した。
ペンダントといっても、指輪にシルバーのチェーンが通されただけのもの。
「○○はこれで、ーーーはこれ。で、これがーーの」
○○:何だ、これ?
「指輪のペンダント? 可愛いじゃん」
「これが、ーー達が家族だって証。無くさんとってよ?」
○○:おっけー!
「もちろん!」
○○:ん....ふわぁ〜、よく寝た......
何も物がない、殺風景な部屋にポツンと置かれたベッドの上で○○は目を覚ました。
カーテンの無い窓からは、太陽の暖かい陽射しが差し込んでいる。
ベッドから降り、寝巻きのままリビングに向かうと、テーブルにはすでに朝食が用意されており、一人の男性が先に食べ始めていた。
○○:おはよ、じいちゃん
じいちゃん:おはようさん、○○。ようやく起きたか
○○:うん。懐かしい夢見れたよ
じいちゃん:それはよかった。けどな、○○。時間が無いぞ。さっさと飯食って支度しろ
その言葉を聞いて、○○の顔に嫌悪の表情が浮かぶ。
○○:なぁ、じいちゃん。ほんとに行かなきゃダメ?
じいちゃん:もちろんだ。お前も今年で16。そろそろ外の世界を知らなきゃいかん
○○:はぁ....やだなぁ.....
小さい頃からずっと、この地にて育った○○。
周囲に他の民家はない。民家が無いから、ここにいる2人以外の人間はもちろんいない。
じいちゃん:そう言うな。○○なら、絶対に楽しめると思うぞ
○○:へぇへぇ.....
未だに納得がいかない○○は、半ばやけくそ気味に白飯を頬張った。
その後、朝食を食べ終えた○○は、事前に用意されていた制服に袖を通し、じいちゃんに別れの挨拶を済ませて十数年暮らしてきた家をあとにした。
○○:あ〜あ、何で俺が学校なんかに......。えっ、きっと楽しいことがあるって? それさ〜、じいちゃんも言ってたけどさ、そんなの分かんないじゃんかよ
学校まで続く道を歩いている○○。
まるで誰かと会話しているかのように、ブツブツと文句などを言いながら学校へと向かっていた。
道中、すれ違う人達からは怪訝な目で見られていたが、○○は一切気にしてない様子だった。
○○:そういえば、入学式だっけ? 何時からか分かる?...........あっ、10時からね。で、今何時?.........9時50分.....そっか。あーもう! そんな執拗く言わなくても遅刻だって分かってるよ!!
もうすぐで学校に到着するといったところで、○○の大声が響き渡った。
行き交う人々が怪しい奴を見る目を向けてくる。子供連れの母親が、子供の手を引いて○○から距離をとる。
○○:ねぇ、もう一層のこと行かないってのはどう?..........あぁ、はい。それはダメなのね。はいはい、しっかり行きますよ〜
そう言った○○は、渋々残りの道を歩き始めた。
数分後、ようやく到着した○○は校門前で呆気にとられていた。
○○:おぉ....でっけぇ........
広大な敷地に豪華で大きな校舎。
ここが、これから○○が入学する、とある生徒しか入学することを許されない特殊な学校ーー『フリージア学園』であった。
○○:さてと、これからどうするかな? ............えっ、入学式に出ろって? でもさ、今から行ってもしょうがなくない?
校門のそばで胡座をかいて腰をおろした○○は、そんな疑問を持っていた。
○○:ん? どうした?........おっ、学校の探検か! それいいな! 探検しようか! ..........えっ、ダメ? じゃあさ、多数決で決めよ!
そして、一拍おいて元気よく声を上げる。
○○:このまま入学式に出た方がいい人! ............じゃあ、学校探検の方がいい人!.............ふむふむ。それでは、結果を発表します。入学式派5票、学校探検派9票、無投票1票。よって、今から学校探検に決定ですっ!!
そうと決まった○○は、ルンルン気分でスキップしながら学校の中に入って行った。
○○:ふぅ.....図書室に音楽室も回ったし、あと行ってないのは........
2階と3階を繋ぐ階段を上りながら、両手に持った学内マップを見て、そう呟いた。
入学式中ということもあってか、校舎には教師も生徒もおらず、スムーズに探検をすることができていた。
○○:えっと、ここはまだ見てないな
そう言って、何の躊躇いもなく無駄に豪華な両開き扉を開けた。
○○:うおぉ.....すっげぇ〜
素直な感想が○○の口から漏れた。
探検中に見てきた教室とは、全く違っていた。
広々としていて豪華な内装。明らかに、他の教室とは印象が違う。
○○:ここ、何の部屋だ?
好奇心にそそられて教室内を見て回ろうとした、その時、
「あなた、そこで何してるの!?」
女性と思われる声が、背後から聞こえてきた。
反射的に振り返る○○。そこには、ロングヘアーに口元のホクロが特徴的な女性が立っていた。
身長は○○と同じかちょっと低いくらいで、制服を着ていることからここの生徒であることが分かる。
○○:あっ、いや、これは.......
「私のことは知ってるでしょ? 生徒会の梅澤美波です。早く答えて。ここで何しているの?」
女子生徒は警戒心MAXの目で睨みつけながら、問いかける。
○○:いや、「知ってるでしょ?」って言われても。全然知らないんですけど
正直に答えた○○。
しかし、それが女子生徒ーー改め、梅澤の堪に触れてしまったのか?
どこに隠していたのか、日本刀のような剣を手に持ち、
梅澤:そう。なら、捕らえるだけ!
○○に向かって飛び出した。
○○:は? えっ、ちょっ!?
突然のことに状況が呑み込めない○○。生存本能的なものに突き動かされて、咄嗟に後ろに飛んだ。
振り下ろされた刃は空を切り、○○が立っていた場所の床を破壊した。
梅澤:くっ、避けられたか......
一撃で仕留める筈だった攻撃を避けられたことに悔しさを滲ませる梅澤。
捕らえると言った割には、剣で一刀両断とか思っきし殺しにかかってる。
○○:ちょっと待って! 一旦、話をーー
梅澤:侵入者の話なんか、聞く必要はないっ!
キッパリと言い切り、再び斬りかかって来た女子生徒。
○○:おいっ、マジかよ....!?
綺麗な見た目からは想像できない、バリバリ殺意を向けてくる梅澤に、先程までの余裕さが無くなっていた。
○○:た、助けて! 〝ヴィト〟ちゃん!!
左手を前に突き出して、○○がそう叫ぶ。
次の瞬間、左手から光が放たれ巨大な盾が出現。そして、その盾は女子生徒の刃を間一髪のところで防いだ。
○○:危っっっぶねぇ.....
一歩遅ければ真っ二つになっていた。そんな可能性の未来を想像すると、冷や汗が噴き出してくる。
梅澤:盾を創り出した.....。やっぱり、あなたも〝化身〟か
ボソッと呟いた梅澤。しかし、盾越しの○○には、その言葉は聞こえなかった。
○○:あぁ、くそっ!
このままでは埒が明かない。
そう思った○○は、次の手に移る。
○○:姐さんっ! 頼みますよ!!
もう一度、どこか、誰かに向かって叫ぶ○○。
身体が一瞬だけ発光した後、筋肉によって身体全体が一回り肥大。さらに、全身に血管のような赤い光のラインが浮かび上がった。
そして、
○○:先に攻撃してきたのは、そっちだからな!
弾丸のような速度で拳が放たれ、梅澤を吹き飛ばした。
かなり強烈な一撃だったようで、パンチによって発生した風圧で周囲の物が飛び散り、梅澤は部屋の壁にメリ込んだ。
○○:ふぅ....これ正当防衛だから
いや、普通なら過剰防衛である。
ともあれ、自分への危機は去った。そう思って安心した○○だったが、
梅澤:くっ....よくもやったな.....っ!
その思いは、メリ込んだ壁から這い出てきた、梅澤によって打ち砕かれた。
制服の汚れを手で払う彼女の顔には、怒りが滲み出していた。
○○:マジか....っ! あれくらって動けんの!? 結構強く殴ったのに!!
びっくり仰天、驚く○○。
咄嗟に剣で防いだことで、梅澤はダメージを減らしたらしく、行動不能にはならなかった。
梅澤:大人しく捕まって欲しかったけど、仕方ない。これからは、多少手荒にいかせてもらうっ!!
力強く宣言した梅澤。
「いや、最初から手荒くなかった?」なんてツッコミをグッと抑える○○。
梅澤:はぁああああっ!!!
剣を構え、再び○○に飛びかかる。
しかも今度は、刀身に紫色の不気味なオーラみたいなのが纏ってあるオマケ付き。
しかし、○○は怯むことなく梅澤に向かって走り出す。
○○:うぉおりゃぁああああっ!!
振り下ろされる剣をギリギリで躱し、梅澤のボディに回し蹴りをお見舞い。物凄っごい勢いで横に飛ばされた。
○○:今だっ!!
これ以上は埒が明かないと思った○○は、一目散にその場から逃げ出した。
○○:いきなり斬りかかって来るとか、頭おかしいだろっ!!
そんな愚痴を吐きながら、廊下を一直線で走り抜ける。
梅澤:待てっ! 逃げるなァ!!!
剣をしっかりと持ちながら、鬼の様な形相で逃げる○○を追ってくる梅澤。
○○:嘘ぉおおおおおおお〜〜〜っ!!!??
かなり自信のある攻撃を2回も喰らわせたのに、ピンピンしている。しかも、ダメージなど受けていないかのような動きだ。
そりゃあ、もう○○にとっては驚愕以外の何者でもない。
○○:何なんだよ、マジで...っ!!!
後ろから迫り来る恐怖に、必死に逃げまくる○○。逃げに逃げた○○は階段を駆け上がり、最上階に辿り着いた。
下からは、勢いよく廊下を走っている足音が聞こえてくる。
○○は目の前のドアをバンッ! と開けて外に出る。
そこには、青空が広がっていて春風が頬を吹き抜ける。
自分が屋上に出たということを理解するのに、さほど時間はかからなかった。
○○:はぁ....はぁ....はぁ....取り敢えず、ここに隠れておくか
一先ず安心した○○は、肩で息をしながら落下防止用に立てられたフェンスに寄りかかって腰を下ろす。
○○:てか、何だあの人。マジでヤバすぎだろ。俺が何したってんだよ......
制服の上着を脱ぎ捨てて、少しでも暑さを逃がそうとする○○。
先程まで自身に降り掛かっていた理不尽な運命を呪っていると、
「うるさい.....」
如何にも不機嫌そうな声が耳に届いた。
○○:えっ、誰?
突然聞こえてきた声。○○は周囲を見回して声の主を探すが、それらしき人影は見られない。
「それはこっちの台詞。突然来て騒がないでくれる?」
また聞こえてきた同じ声。
すると、日陰にあるソファーから一人の少女が体を起こして、○○の方に視線を向けていた。
○○:うわ、顔ちっちゃ
少女を見て、真っ先に思ったことがポロリと口から漏れた。
「.....は?」
○○:あっ、いや、何でもないっす!
怪訝そうな顔をされたので、咄嗟に弁解する○○。
○○:あの、ここの生徒....すか?
「.....そうだけど」
○○:あの、名前聞いても?
「何で見ず知らずの人に教えなきゃいけないの?」
○○:あっ、そうっすよね! 天羽○○です! おたくの名前は?
「.......齋藤飛鳥」
少女ーーもとい飛鳥は、聞こえるかどうかのギリギリな小さな声でそう答えた。
○○:飛鳥さんすね! よろしくです!
元気よく挨拶する○○を無視して、飛鳥は話を進める。
飛鳥:で、こんなとこで何してんの?
その質問で、○○は先程までの事を思い出した。
○○:そうだ! 助けてください、飛鳥さん! さっきまでヤバい人に追いかけられてたんスよ!
飛鳥:会って五秒で名前呼びって......てか、ヤバい人って何?
○○:急に剣で襲ってきてーー
「見つけた! 侵入者っ!!」
○○の言葉を遮るように、屋上の扉が開かれて襲撃侍女子生徒ーーもとい梅澤美波が再び現れた。
飛鳥:.....梅?
○○:あぁ! あの人っスよ! あの人!
梅澤を指さしながら、○○は飛鳥のもとに身を寄せる。
梅澤:あ、飛鳥さん....!? しまった、ここは冥界派のテリトリーだったか......
飛鳥:ヤバい人って、梅のことだったのね
○○:えっ、飛鳥さん知り合いですか?
飛鳥:梅澤美波。ここの三年生で天下の生徒会様
どこか面白がるように飛鳥がそう紹介すると、梅澤は「天下の生徒会様」という言葉に顔を顰めた。
○○:よく分かんないけど! 飛鳥さん! どうにかして下さいよ!
飛鳥:却下
○○:えっ、即答!?
飛鳥:当たり前でしょ。何で初対面の私が、そんなことしなきゃいけないの?
○○:いやいや、あの人と知り合いなんでしょ!? 助けてくださいよ!
必死になって嘆願する○○だったが、
飛鳥:やだ、無理、却下
ズバッと一刀両断に切り捨てられたのだった。
○○:そんなぁ......
梅澤:飛鳥さん。大人しくその侵入者を渡してください。このままだと、あなた達の立場がさらに悪くなりますよ?
飛鳥:あのさ、さっきまでの話聞いてた? こいつは私達とは無関係。てか、見た感じ新入生じゃないの?
○○に視線を向けながら、そう言う飛鳥。
梅澤:新入生....? それなら、何故ここにいるの? 新入生は全員入学式中でしょ?
○○:あっ、いや、遅刻したから出なくていいかなって思って......
梅澤:遅刻って.....。それなら、生徒手帳を見せなさい
○○:えっ? 何ですか、生徒手帳って?
その返答に、梅澤の警戒心がさらに吊り上がる。
梅澤:生徒手帳を持ってない。ますます怪しい....。まあ、本当に新入生かどうかは、捕らえた後に全て吐かせれば済む話なので
三度刀を構え、鋒を○○へと向ける。
梅澤:それに、さっきやられた分もお返ししたいし
どうやら、殴られ蹴られ、2回も壁にメリ込んだことを相当根に持っているらしい。
これには、○○も抵抗しない訳にはいかない。
○○:あぁ! くそっ....! 何でこうなるかな!?
悪態をつきながら、飛鳥の陰から出てきて梅澤の対峙する。
○○:〝ヘズ〟ちゃん! お願いっ!
三度、誰かに向かってそう叫んだ○○。
すると、またもや○○の手元が光を放つ。そして、今度はその手に一振の槍が握られていた。
梅澤:盾の次は槍.....。なるほど、武器を創り出す。それが、あなたの〝後見星〟の力か
○○:何言ってるか分かんないけど。そっちがやる気なら、俺も手加減なしでいくから
それぞれ自身が握る武器を相手に向け、睨み合う。
校舎の屋上を舞台に、一つの戦いの火蓋が切って落とされーー
飛鳥:あのさ、何勝手にここで戦おうとしてんの?
なかった。
心底不快そうな顔をしていた飛鳥が、口を開いた。
○○:ちょっ、飛鳥さん! 今いい感じの展開だったじゃないですか!?
飛鳥:そんなの私には関係ないでしょ。そんなに戦いたいなら......
そこで一度言葉を切り、右手を○○と梅澤の方へと向ける。
飛鳥:.....〝他所でやれ〟
ただ一言、そう言い放った。
次の瞬間、正体不明の強力な力が2人に襲いかかり、屋上の外へと吹き飛ばした。
○○:えっ、ちょっ!!? 嘘でしょ!? 飛鳥さぁぁぁぁあああああんっ!!!??
梅澤:.....っ!!?
為す術なく、ただ叫ぶことしかできない○○と完全なる不意打ちに呆気に取られる梅澤。
飛鳥:ふぅ....これで静かになった
そして、吹き飛んだ2人を一瞥した後、何事もなかったかのようにソファーに横になる飛鳥だった。
○○:うわぁあああああああ!!!?
吹き飛ばされた2人は、弾丸のような速度で一直線に、学園の敷地内で一際豪華な見た目をしている建物へと衝突したのだった。
……To be continued
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