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さく、メイドになるってよ 10話


「いきなり、斬ると言われましてもね。とりあえず私の話を聞いてもらいましょうか」

対面してわずか5秒での斬殺宣言。しかし、そんな美波の言葉にも余裕の笑みを崩さずに返答するインテリ眼鏡な男。

美波:話、とは?

「そうです。私達はーーへぶしっ!!?」

何やら話し始めたインテリ眼鏡だったが、それ以上話すことなく姿を消した。代わりにインテリ眼鏡がいた場所には拳を突き出した与田の姿が。

美波:与田、何してるの?

祐希:なんかムカついたから殴った

拳を握った状態で「えっ、何か問題でも?」みたいな顔をしている祐希。

祐希:あっ、大丈夫! 死なない程度で優しくしたから!

美波:そういう事じゃないんだけど.....

美波は手をおでこに当てて、やれやれと呆れる。

「くっ、何なんだ! 何故、いきなり殴られたんだ!? 意味が分からない!」

土埃などの汚れを手で払いながら、立ち上がるインテリ眼鏡。さっきまでの冷静さと余裕は無くなり、怒りと困惑に支配されている。

「ガッハッハッ! 簡単に吹っ飛ばされてんじゃねぇよ、クルルド」

そこに現れた新たなる刺客。2メートル越えの巨体にこれでもかと鍛え上げられた筋肉を全面に出した男。

クルルド:あの小さい娘、高い知能が感じられない。お前と同じ単細胞だ、バングロ

クルルドと呼ばれたインテリ眼鏡は、そう言いながら、右レンズが割れた眼鏡ををクイッと上げる。

美波:言われてるよ、与田。単細胞だって

祐希:むぅぅ....やっぱり、あの眼鏡ボコる。泣くまでボコる。いや、泣いてもボコる

より一層、祐希の拳を握る力が強まる。

バングロ:なぁ、そこの女ァ。あー、剣持ってる方だ。俺と勝負しようぜェ!

ニィと口を吊り上げながら言う変態っぽいバングロ。会っていきなり戦いを挑むあたり、戦闘狂は間違いではないだろう。

美波:なぜ、私があなたと戦わないといけないのですか?

美波の綺麗な顔にバングロに対する不快さが滲む。が、そんな事などお構い無しにバングロは美波に近づいていく。

バングロ:知ってるぜェ。お前、ガキのお守りしてんだってな。そんなくだらねぇ事しないで、俺と戦え!

バングロの言葉を聞いて、美波の目尻がピクピクッと動く。与田がギョッとした目で美波を見る!

バングロ:な? しょうもねぇガキのお守りなんか辞めて、血湧き肉躍る戦いの方が楽しいだろォ!

今度は、美波の額にピキピキッと青筋が浮かぶ。

祐希の顔から血の気が引いていく! おまけに、手や脚が小刻みに震え始めた!

しかし、そんなことにはもちろん気づかず、バングロはさらに、美波との距離を詰める。その距離は互いに手を伸ばせば触れられる程。

バングロ:なんだったら、俺がそのガキを殺してやるか? あァ? その方がおーー

それ以上、バングロの言葉が続くことはなかった。

何故なら、バングロが宙を舞っていたから。

ただし、頭だけ。

美波の目の前には、首から上が綺麗に無くなっているバングロの体が静かに立っていた。

その場にいた全員が一斉に息を呑む。

祐希だけは、「あちゃ〜」という声を漏らしていた。

反撃のために美波達に奇襲を仕掛けようとしていた者達も動きを止めて、その場から動けなくなっている。

その理由は、明々白々。

彼らにとって圧倒的強者のはずだったバングロが一撃で殺されたから。それに加えて、バングロを殺した張本人である美波の表情。

さっきまで、額に青筋を浮かべて怒りの感情を露わにしていたのに、今はなんの感情も見て取れない。

その表情はまさしく、〝無〟そのものだった。

ただ、眼だけは異様に冷めていて、それだけで殺されそうと錯覚するほど。

そして、なんと言っても美波から溢れ出るものすごい殺気。周りの目には、ドス黒いオーラとして見えてるに違いない。

そんな静寂が支配する空間にボトッと短い音が木霊する。

バングロの頭が地面に落ちた音だ。

偶然、自分の足下に落ちたバングロの頭を見て、呆気に取られていたクルルドは「ヒィッ....!」と情けない声を上げる。

少し前までのインテリ的な雰囲気は失われていた。

そんな中、祐希はいつも通りな感じで美波に話しかける。

祐希:ねぇねぇ、なんで斬っちゃったの?

美波:○○様を侮辱した者に生きる価値は無い。それと、口が臭かったから

血を拭き取った剣を鞘に戻しながら、感情の込もっていない無機質な声音で言う美波。

祐希:梅も祐希のこと言えないじゃん!

少し前に美波に非難されたことを根に持っていた祐希。頬をプクゥと膨らませながら、抗議の声を上げる。

美波はそれを受け流し、腰を抜かして座り込んでいるクルルドのもとに歩み寄る。

クルルド:ヒィッ....! く、来るな! いや、頼む! こ、殺さないでくれ! この通りだっ!!!

必死に命乞いをするクルルドに内心呆れながらも、美波は口を開く。

美波:あなた達がこの軍のリーダー? それとも、他にいるの?

クルルド:そ、それは......

祐希:早く言えっ!

クルルド:へぶしっ....!?

言い淀んでいるクルルドに躊躇なくビンタは食らわせる祐希。クルルドの眼鏡が吹き飛び、本人は涙目だった。

クルルド:わかりました! 言うから、殴らないでください!

祐希:なら、早く言うけん!

クルルド:今回の件の黒幕はーー

「余計ナコトヲ言ウナ」

クルルド:ヒィッ....! な、なんで.....?

美波:ん?

祐希:うぇぇ.....

クルルドの言葉を遮るように1つの新たな声が美波達の耳に入ってくる。声のした方向に視線を向けると、そこには人ならざるものがいた。

黒いモヤないしベールのようなものを纏っていて、禍々しい闇色のオーラを噴き出している、いかにも怪しい存在。

しかも、その顔は骸骨ときた。

美波:あれは.....

祐希:うぇぇ....何あれ、気持ち悪い

クルルド:そ、そんな.....何で、アークリッチ様が.....

祐希:あーくりっち?

頭に「???」を浮かべて、首を傾げる祐希。

美波:アークリッチ。別名、〝死なざる者〟。冒険者にとって〝会いたくない魔物ランキング〟上位だね

リッチ:ホウ。貴様、我ヲ知ッテイルノカ

美波:まあ、一応、元冒険者だから

アークリッチの問いかけに冷静な声音で答える美波。

リッチ:フンッ、人間ニシテは中々面白イガ......

そう言いながら、禍々しく、膨大な魔力を放出させるアークリッチ。

クルルド:ヒィッ....!

リッチ:貴様ラニハ、死ンデモラウ!



……To be continued

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