ハイスペックな兄、転生したら妹の子供だった件 18話
ライブから帰ってきたら、一つの些細な出来事があった。
それは、死神のさくらが実家(?)に帰ったということ。
ライブから帰ってきて寝ようとしたところ、枕元に一枚の紙が置いてあった。その紙には、
〝実家に帰ります〟
という、まるで別居を宣言した妻のような書き置きを残していったのだ。
実家って、尸魂界か?
なんて一瞬思ったけど、まあ、それは置いておこう
時は、さくらが帰省?してから数日経ったある日。
○○:ふわぁ〜、眠っ.....
目覚まし時計で強制的に目が覚めた俺。
眠い目を擦りながらベッドを下りると、ちょうどあやめも起きたところだった。
あやめ:おはよ、蓮
○○:んぅ、おはよ.....
あやめ:ふふっ、まだ眠そうだね...笑
そんなあやめと一緒に一階に降りると、リビングでは蓮加が用意した朝飯を魁人が食べていた。
魁人:おっ、蓮、あやめ、おはよう!
蓮加:おはよう〜!
○○:ん、おはよ
あやめ:........おはよう、蓮加ちゃん
2人に挨拶をして、自分の席に座る。
相変わらず、あやめは魁人のことはフル無視。
やっぱり、あやめは魁人のことが嫌いなんだな
何でかわかんないけど
○○:あやめ。そこのジャム取って
あやめ:はい
○○:ありがとう
トーストにジャムを塗り、それを食べる。
その後、みんな支度を終えて魁人は仕事、あやめは親友のレイと一緒に学校へ。
そして、俺は蓮加に送られて幼稚園に。
真夏:おはよう、蓮君!
○○:おはよ、真夏さん
いつも通り正面入口で迎えてくれてる真夏さんに挨拶をして、自分のクラスの教室へと向かう。
教室には、すでにたくさんの園児達がいて楽しそうにお喋りをしていた。
○○:ふぅ....よっこらせっと
全く友達がいない俺は、教室の隅っこに座る。
ひと回り歳が離れてるせいで話が通じないから、当然と言えば当然だけど.....
○○:今日は、呪術廻戦っと.....
教室の隅っこ、なるべく注目されない場所に座って、ワイヤレスイヤホンを装着。そして、持ってきたスマホで前日に放送されたアニメを観る。
これが、ここ最近の俺の朝の過ごし方だ。
この体になって、母親になった蓮加の〝早く寝なさい精神〟と自分自身の体力のせいで、夜更かしをすることが出来なくなった。
そのため、リアルタイムでアニメは観れない。
そこで、俺が考え抜いたのが〝朝に幼稚園で観ればいいじゃん!〟だった。
一人の時間を邪魔されない
「おはよごじゃいましゅ、れんくん」
はずだった
スマホの画面から視線を外して顔を上げると、そこにいたのは幼稚園特有の黄色い帽子を被った少女。
○○:ん、おはよ。小川ちゃん
彩:むぅ....あやってよんでくだしゃい
ぷくぅと頬を膨らませて抗議してきたのは、同じ組の小川彩。
俺と違ってこの子は正真正銘、生粋の5歳児。
何でか知らないけど、幼稚園で俺に話しかけてくる唯一の相手。
彩:れんくんは、なにちてるんでしゅか?
○○:彩ちゃんには関係ないよ
一人のこの時間を邪魔されないように軽くあしらったが、そんなのはお構い無しというように、彩は俺の隣にちょこんと座った。
足を抱きかかえて、小さくまとまって座る姿は、可愛い座敷わらしを連想させる。
こんな感じで、毎回あしらってるに、何故か懐かれた。
俺はスマホの操作を続ける。そして、アプリを起動。見たいアニメを探していると、隣に座っていた彩がひょこっと顔を覗かせる。
彩:あっ、くぅちゃんでしゅ
そう言って、スマホの画面を指さす彩。
彩が指さしたのは、とあるアイドル番組のティザー画像。
そこに映っていたのは、この前のライブで偶然知り合った井上和や菅原咲月をはじめとした10人のメンバー。そして、お笑いコンビらしい2人のおっさんだった。
このメンツって、たしか去年とかに入ったメンバーだっけ?
この前のライブで深川さんに教えてもらった情報を思い出す。
○○:この人のこと知ってるの?
彩:あやのおねえちゃんでしゅ
○○:えっ、マジ?
彩:うん
お前、アイドルの妹だったんかい!
サラッとカミングアウトした彩。これだから、子供は恐ろしい。
彩:れんくん。きょう、くぅちゃんがくるんでしゅよ
○○:どういうこと?
彩:あさにママがいってまちた。くぅちゃんがくるって
突然なに言ってんだ?
○○:あのな、こんなとこにアイドルが来るわけないだろ
俺は呆れたようにそう言う。
彩:ママはうそつきまちぇん!
小川がそう反論した時、ガラガラと教室のドアが開いて真夏さんがやって来た。
真夏:みんな、おはよう!
"""""""おはようございまーす!"""""""
真夏さんが挨拶すると、園児達も元気よく挨拶を返す。
真夏:は〜い! 今日は、みんなと遊んでくれる高校生のお兄さん、お姉さん達が来てくれてます!
"""""わぁーい!!!""'""
無邪気な歓声をあげる園児達。彩も目を輝かしているが、俺は大して興味がない。
なんて言ったって、この朝の会的なやつが終われば、職員室に入り浸って漫画アニメ三昧の時間だからな
真夏:それじゃあ、入って来て〜!
真夏さんが合図を出すと高校の制服を着た男女が10人ほどやって来て、園児達に対面する形で横一列に並ぶ。
○○:.....は?
俺はそれを見て、めちゃくちゃ驚いた。
何故かって?
それはーー
真夏:はいっ、それじゃあ、お姉さん達に自己紹介してもらいましょう!
咲月:乃木坂高校から来ました。菅原咲月です!
和:同じく、井上和です!
なんで?
何でここにアイドル様がいるの?
真夏さんの隣に並んでいるのは、この間のライブで見たアイドル達。
高校の制服を着ているから、一瞬見間違いかな? って思ったけど、こんな顔面偏差値が限界突破してる人達はいない。
しかも高校の名前、その制服、超〜〜〜〜〜〜〜〜っ聞いたことあるし、見たことあるんだけど!
「彩ぁ〜〜〜!!!」
俺がそんなことを考えていると、一つの人影が小川を包み込む。
「彩〜、久し振りだね〜!」
彩:んにゅ.....くぅちゃん、くるしいでしゅ
小川を抱きしめて、頬っぺたをスリスリしているJK。さっきの彩の反応的に、コイツがくぅちゃんだな。
一ノ瀬:ん〜! いつ会っても可愛いねぇ〜!!! 髪はサラサラ、頬っぺプニプニ、お目めクリクリ! 彩がいっっっっっちばん可愛いよ!!!
あっ、こいつヤバい奴だ
てか、彩も引いちゃってんじゃん
和:ちょっと、美空! 今は授業中だからダメだって!
小川に迫るくぅちゃんこと一ノ瀬美空を止めに来たのは、和だった。
和:ビックリさせてごめんね。怖かったよね?
一ノ瀬の首根っこを掴みながら、優しく声をかけてきた和。
何となくバレたくなかった俺は、軽くペコッと頭を下げて別の場所に移動しようとした。
が、ここでやらかした。
今の俺が片手で持つには、スマホはデカ過ぎた。
それなりにしっかりとした音を立てて、床に落ちたスマホ。
○○:あっ、やべっ.....
落ちたスマホは軽く床の上を滑って、和の足にコツッと当たって止まった。
和:はい。スマホ、落としーーえっ?
拾った俺のスマホの画面を見て、表情が固まる和。
あっ、これヤバいかも
いや、まだバレたとはーー
和:もしかして、蓮くん?
はい、完全にバレた.....
だがしかし、ここは否定を!
○○:? れんくん?
和:この前のライブで会ったよね?
○○:僕違うよ。蓮くんって、誰?
どうだ! 何も知らない無垢な5歳児は!
彩:れんくん、うちょはだめでしゅよ。うちょちゅくとえんまちゃまにおこられるってママがいってまちた!
おい、余計なこと言うな!
和:へぇ〜、嘘ついたんだ〜
○○:う、嘘じゃないよ......
和:それじゃあ、これは何かな?
そう言って、和は俺のスマホのロック画面を見せてきた。
○○:あっ.....
そこに映っていたのは、俺と美月、美波のスリーショット。この前、3人で俺の実家に泊まった時に撮った写真だった。
和:これ、蓮くんだよね? 美月さん、梅澤さんと一緒にいるし
真顔で聞いてくる和。
○○:はい、そうです
一回り年上からの圧に俺は屈するしかなかった。
その後、朝の会的なやつが終わって、遊びの時間。外に出たり、中でおままごとしたりなど、園児たちは自分が思うがままの遊びを始めた。
和たち高校生は園児たちから引っ張りだこで、一緒になって遊んでいた。
そんな中、俺は真夏さんと一緒に教室の隅でその光景を見ていた。
○○:真夏さんや、何でこんな幼稚園に天下のアイドル様達がいんですか?
真夏:いや〜、なんかね。お仕事のせいで学校の単位が足りないんだって。それで、学校側がとった措置がこれってわけ
○○:その学校って......
真夏:うん、乃木高だよ。まあ、あの制服見れば分かると思うけど、私達の後輩だね
○○:でも、こうもアイドルが一気に集まりますかね?
真夏:私達の時も同じ感じじゃない? まあ、みんなが有名になったのは、卒業してからだけど...笑
○○:いや、俺達のは完全なレアケースでしょ
パリコレモデルやら、ハリウッド女優やら、大河に朝ドラに連ドラ女優やら、トップアイドルやら.....etc
その他にも色んな方面で、才能を発揮して有名になった人がたくさんいる。
そんな世代が何回も来てたまるかって
真夏:たしかにね...笑 それでね、実は何年か前に芸能科ができたんだって
○○:.....げいのうか? えっ、乃木高に?
真夏:うん。ちょうど、蓮加ちゃんが卒業した頃だったかな? ほら、私達からかっきー達までの代で、色んなジャンルの有名人出たじゃん?
なるほど、その恩恵に便乗したってことだな
さすが金持ち私立だぜ
○○:で、その芸能科の生徒があのアイドル様達だと
真夏:うん、そういうこと
真夏さん曰く、つまりはこういうことらしい。
乃木高の芸能科に在籍している生徒達の一部が、仕事の関係で単位が足りないとか。
そのせいで、進級ができず、留年しちゃう生徒達が出てしまう。
事務所側としては、所属タレントに留年はして欲しくないらしく、学校側と協議した結果、この幼稚園での一日実習が救済措置となった。
一応、家庭科の授業という名目らしい。
○○:でも、よりによって何でここなんですか?
真夏:何でって、この幼稚園が乃木高の系列だからだよ
○○:えっ、マジすか?
真夏:あれ? 言ってなかったっけ?
○○:初耳なんですけど
乃木高は、とある金持ち理事長が運営している高校。
まさか、系列で幼稚園までやってるとは
と、そこで一つの疑問が浮かんだ。
○○:もしかして、真夏さん。......コネっすか?
まあ、ありえないと思うけど一応聞いてみた。
真夏さんに限ってないとは思うけど、一応聞いてみた。
何せ、母校の系列幼稚園だ。
可能性がゼロとは言いきれない。
真夏:ちょっと! そんな訳ないでしょ! しっかりとした胸を張れる就職ですっ!!!
なんかちょっとムキになって反論する真夏さん。
てか、胸を張れない就職って基本ないだろ
そして、昼休みにお昼寝の時間を経て、
真夏:は〜い! これから、工作の時間です!
午後の時間が始まった。
真夏:幼稚園にある物だったら、好きに使っていいからね〜!
園児達:は〜い!!!
元気よく返事をした園児達は、早速動き始めた。
ダンボールやら色紙やらを取りに行って、数人でグループを作って工作を始める。そこに高校生達も加わる。
そんなみんなとは別に、俺はそっと教室を出る。
廊下を少し歩いて、向かったのは職員室の隣にある部屋ーー用具室。
鍵がかかっていないドアを開けて、中に入る。
電気のスイッチは身長の関係でギリギリ届かなったから、スマホのライトで明かりを確保。
お目当ての物を見つけるために、部屋中を物色して
○○:おっ、あったあった
ついに見つけた。
一度でいいから作ってみたかった物
それを作るのに欠かせない材料ーー最新機種のプロジェクターが目の前にあった。
しかし、ここで一つの問題にぶち当たる。
○○:やべぇ....どうやって持ってくか考えてなかった.......
重すぎて教室まで運べない。
何せ、このプロジェクターの重さは大体15キロくらい
俺の体重とそんなに変わんないのだ
万事休す、ここまでか
と、思ったその時!
用具室の電気がついた。
そして、
「あれ? こんなとこで何してるの?」
一人の女性の声が聞こえた。
俺は、この人を見たことがあった。
黒髪ショートカットで、和や咲月と同じRoute46のメンバー。
この前観に行ったライブで、とある曲のラスサビ前に「Wow....!!」って叫んでた人。
たしか、めずらしい名前だったはず
「あっ、美月さんのお気に入りの子だ」
おっと、ここまで認知されてるとは
○○:えっと、誰?
「えぇ、午前中に自己紹介したんだけど.....まっ、いっか。おっほんっ、私の名前は中西アルノ。よろしく」
○○:あっ、僕はーー
アルノ:あー、大丈夫。君のことはもう知ってるから。蓮くんでしょ? 苗字は忘れたけど
○○:うん、そうだよ
アルノ:やっぱりね。で、ここで何してるの? いろんな物あって危ないよ
○○:これを工作で使いたいんだけど、僕だけじゃ運べなくて
アルノ:えっ、これで何作るの?
○○:えっとね.....
協力者を確保するために、一か八かでひと通りのことを説明した。
その結果は、
アルノ:何それ! すごい面白そうじゃん!
成功した。
その後、目的のものを作るために作戦会議。
そこで、お互いの呼び方とかが決まった。
俺はアルノのことを〝アル〟、向こうは俺のことを〝蓮〟と呼ぶことに。
そして、軽く話してみてわかったことだけど、どうやらアルには厨二病気質があるみたい
いろいろと気が合いそうだ
アルという協力者を得た俺は、早速工作に取り掛かった。
教室は人が多いからという理由で、そのまま用具室で作業を行う。
○○:んぅ〜、ほんとはビスで留めなきゃダメだけど、まあいっか。ビニールテープで
アルノ:ねぇ、念の為にもう一回聞くけど、ほんとに大丈夫なんだよね?
○○:もちろん。コンセントは基本100ワットまでだから、どう頑張ってもこれは使えないよ
アルノ:はぁ....いまさらだけど、君は何者なのかね?
○○:ただの5歳児!
アルノ:ただの5歳児がこんな物作ろうとすらしないと思うけど。まあ、でも、流石は美月さん達のお気に入りってこと?
そして、時間は過ぎていって、
真夏:それじゃあ、作ったものをみんなの前で発表していきましょう!
園児たち:はーい!!!
始まった工作発表会。
紹介されていくのは、ダンボールで作った特撮ヒーローの変身アイテムと武器や、色のついたビニールとかで作ったドレスなど、如何にも5歳児といった作品。
彩:あやがつくったのは、だいしゅきなとまとでしゅ
一ノ瀬:もう! 彩かわいいすぎっ!!!
自慢げに色紙を丸めて作ったトマトを見せる彩と、そんな彩を愛でる一ノ瀬。
そして、俺の番が回ってきた。
アルに完成品を運んでもらって、みんなの前に。
○○:ぼくがアルノお姉ちゃんと一緒に作ったのは、これです
展示台の上に乗せて、そう紹介する。
高校生達はポカーンとしていて、園児たちはどんな物かはわかっていないけど見た目がかっこいいからか、目をキラキラさせている。
俺とアルの2人で一緒に作った、その名も〝手作りレーザー砲〟
幅と奥行きが50cm前後、高さは20cm以上。
レンズの直径は約15cmで、重さは15キロ。
用意する物は、半田ごて、銅線、ペンチ、ビニールテープ。そして、コンデンサーを10数個。
そして、一番大事なのはSONYの4Kプロジェクター。これは、プロジェクターの中でも最新機種だから、光源は従来の電球じゃなくてレーザーダイオード。
これなら、2万時間以上の上映に耐えられる性能を持っている。
そして、このプロジェクターの光出力は3200ルーメン、消費電力は420ワット。
ごく普通のレーザーポインターは0.005ワットだから、すでに約8万4000倍。だけど、少し中身に手を加えれば大幅に増幅可能。
最終的には、これを動かすには1500ワット必要となる。
この工作で一番重要だったのは、内部の回路とそこを迂回するバイパスの製作。
そこを半田ごてと銅線で作っていくんだけど、危ないからと言われてその工程はアルがやってくれた。
俺は隣で指示出しにまわった。
真夏:えぇっと、つまり、これは.......
○○:だから、さっきから言ってるじゃないですか。レーザー砲だって
真夏:れーざーほう?
○○:初めて作ったんですけど、まあ、多分上手くいきました。ただ、使うために必要な電力がないのと、使い捨てなのが残念ですね。あっ、でも威力は保証しますよ
........
........
........
真夏:えいっ....!!
そんな可愛らしい声と一緒に、近くにあった玩具で思いっきりプロジェクターを殴りつけた。
ボディの一部がベコッと凹んだ。
○○:ちょっ、真夏さん!?
俺とアルが必死に止めるが、真夏さんの手は止まらない。
何度も何度も無慈悲な鉄槌が下され、レンズが割れて破片が飛び散り、内部の回路も手当り次第にぶっ壊していく。
そして、丹精込めて作った作品が見るも無惨な姿になってしまった。
項垂れる俺とアル。
そんな俺たちに向かって、真夏さんが一言。
真夏:こんな危ない物、作っちゃダメでしょ!!!!
高校生たちは「その通り」というように、コクッと頷いた。
……To be continued
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