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僕は僕を好きになる


"本番5秒前、4、3、2........"

MC男:はい! 今週も始まりました 『おしゃれアルバム』!"

MC女:今回のゲストは、国民的アイドルグループ〝Route46〟のメンバーで、最高の世代の一人、山下美月さんです!

美月:よろしくお願いしま〜す!

毎週日曜日の夜に放送される大人気番組。その収録が始まった。

今回の収録は、3年前から『最高の世代特集』という名前で特番として放送されていて、今年は私がゲストに呼ばれた。

ちなみに、今日はその特番用に4本撮りで私がラスト。

私の前には、グループの同期で親友の美波と今年の大河ドラマに出演している女優の史緒里。そして、人気俳優として活躍している元クラスメイト男子2人の収録が。

ふふっ....待ち時間に、久し振りにみんなと話して楽しかったなぁ〜

今回の番組内容としては、仕事とプライベートのこと。

そして、〝最高の世代〟と呼ばれるきっかけとなった高校時代のことだった。

MC女:山下さんは、高校生活の思い出はありますか?

美月:高校の思い出ですか.....。ん〜、色々ありすぎて選ぶの大変ですけど、強いて言うなら文化祭ですね...笑

MCの女優さんからの質問に、少し考えるフリをして無難な答えを言った。

ホントは素直に答えようと思ってたんだけど、「バカ正直に答えちゃダメ! 絶対問題になるから!」って、事前打ち合わせの時に、美波と史緒里に釘刺されたからなぁ.....

火野君は笑ってて、天乃河君は焦ってたけど...笑

まあ、たしかに、あの3年間は色んな意味で濃すぎたよね...笑

それもこれも全部、君のせいだよ.....







〝岩本○○〟

頭が良くてスポーツ万能。ホントになんでも出来るし、おまけにムカつくくらいイケメン

そりゃもう「化け物かっ!」って言いたいくらい

そいつは、私にとって

幼馴染みで

クラスメイトで

親友で

そして、この世で一番大好きな人

そんな彼が、8年前のある日、突然この世からいなくなった。


○○がいなくなったあの日

部活をしていた私達は、突然の校内放送で職員室に呼び出された。

そこで先生から聞かされたのは、○○が事故にあって病院に運ばれたということ。私は、○○の妹の蓮加と親友の美波と一緒にすぐに病院に向かった。

病院に着いて、看護師さんに案内された私達は〝霊安室〟と書かれた表示の部屋に入った。

そこで私が目にしたのは、白い布が顔にかけられて、ピクリとも動かず、眠っているかのように横たわる○○だった。

それを見た瞬間、横たわる○○に抱きついて泣きじゃくる蓮加。

そんな蓮加の背中を擦りながら、一緒に泣いているおじさんとおばさん。

私の隣で、声を殺しながら涙を流す美波。

そんな中、私はただその場に立ち尽くしていた。

美月:ま....○.....ま.....る.........?

私の体の細胞一つひとつが、目の前の事実を受け入れることに対して、全力で拒否反応を起こしている。私はそう感じた。

次の瞬間、目の前が真っ暗になって、私の意識はそこでプツリと途絶えた。

そして、次に私が目にした景色は真っ白な天井。

自分の状況を確認すると、私はベッドで横になっていて、左腕には点滴の管が繋がっていた。隣には、美波がいた。

美波が言うには、あの時、私は過呼吸になってその場に倒れてしまったらしく、一日中気を失っていたみたい。

そう教えてくれた美波の目は、真っ赤に腫れていた。

それを見て、昨日の出来事は夢じゃなかったという事実が、決して消えることなく私の頭にしっかりと刻まれた。

美波:美月......○○はーー

美波:分かってる。何も言わないで......

その先は聞きたくなかった。

だから、私は咄嗟に美波の言葉を遮った。

その後、私はすぐに退院して親と一緒に家に帰って、真っ先に自分の部屋に向かった。

今は、一人でいたかった。

誰にも邪魔されずに......

その日、私は一晩中泣いた。






○○が亡くなってから、どれくらい経ったのかな?

私は今、○○のお葬式のためにお寺に来ていた。

「やっほ、梅」

名前を呼ばれて振り返ると、マネージャーらしき女の人と一緒に来ていた一つ上の先輩ーー飛鳥さんがいた。

喪服を着ていても、めちゃくちゃオーラを放っている。流石はデビューして1ヶ月でセンターになった人だ。他の人とは比べ物にならない。

飛鳥:おい、何か失礼なこと思ってるだろ?

美波:まさか! トップアイドルの飛鳥さんに、そんなこと思う訳ないじゃないですか!

飛鳥:おい! それは馬鹿にしてるだろ!?

美波:いやいや、そんな事ないですよ。ちゃんと褒めてるんですよ?

飛鳥:ふんっ! 私の後輩だったら、堂々と説教できるのに

美波:芸能人が一般人に暴力はよくないですからね〜

飛鳥:あっ、だったらホントに後輩になる?

美波:いやいや、もう後輩じゃないですか...笑 ボケるには、まだ早いですよ!

飛鳥:そういうことじゃない! アイドルとして後輩にならないか、ってこと!

美波:えっ、それってスカウトですか!?

飛鳥:まあ、それでいいよ。ちょうど、秋にオーディションがあるから

美波:ふふっ、素直にスカウトって、認めてもいいじゃないですか...笑 でも、お断りしておきます。私はアイドルって柄じゃないので...笑

飛鳥:ふっ、たしかに。梅には似合わないか...笑

美波:なっ! そんなに言わなくてもいいじゃないですか!

そして、飛鳥さんと2人で軽く笑った後、少しの沈黙が流れる。

何とも言えない空気の中、最初に口を開いたのは飛鳥さんだった。

飛鳥:で、調子はどう?

美波:.....ぼちぼち、ですかね......

飛鳥:そっか......あっ、聞いたよ。この間の文化祭のこと

美波:あー、新内先生からですか?

飛鳥:うん。なんか、めちゃくちゃ大変だったらしいじゃん

美波:.....私達が当日休んだせいですね。クラスメイトには申し訳ないとは思いましたけど、こんな状況じゃ、やる気にはなれなかったので

飛鳥:たしかに....それもそっか

ついこの間、行われた乃木高の文化祭。

その文化祭に、私をはじめとした一部の子達は参加しなかった。

担任の新内先生から後で聞いた話だと、中々大変だったらしい。

まあ、参加しなかった生徒達がクラスの中心メンバーばかりだった事が原因なんだけど

「おっ、やっと飛鳥も来たね」

そんなことを2人で話していると、奈々未さんがやって来た。

飛鳥:やっほ〜、奈々未

奈々未:久し振りだね、飛鳥。2人で何の話してたの?

飛鳥:今年の文化祭

奈々未:あー、まいちゅんが言ってたやつか

美波:えっ、奈々未さんにも言ってたんですか?

奈々未:あっ、愚痴とかじゃないから安心して。でも、まいちゅんは結構大変みたいだよ。クラスが、これまでみたいにまとまらないって

飛鳥:いや、思いきり愚痴じゃん...笑

美波:ハハハ...笑 まあ、そうですね。何だかんだで○○が中心でしたから。見えないところで、まとめてたりしてましたし

そう、私達の中心はいつも○○だった。学校行事も休みの日でも、何かあれば○○ともう一人がいた。

奈々未:で、飛鳥は今日仕事休み?

飛鳥:うん。夏のツアーも終わって一段落ついたからね

奈々未:それはお疲れ様

飛鳥さんが少し暗い顔で口を開く。○○といつも一緒にいたもう一人の中心人物の名前を呟いた。

飛鳥:.....梅、山は?

美波:美月は......多分来ないですよ。いや、正確に言うと来れないですね

奈々未:やっぱ、まだ無理....か

美波:はい.....このところ、ずっと学校にも来てないです。何回か様子を見に行きましたけど、生気が抜けてるみたいでした。美月のお母さんの話だと、部屋から一歩も出て来ないみたいですし

ここだけの話、○○が亡くなってからの美月は見てられなかった。

日に日に衰弱していくのが目に見えて分かるし、私や親御さんを含めた誰とも、まともに口をきけない状態だった。

唯一喋ったとしても、私達が何か言ったことに対する軽い相槌くらい。

そして極めつけは、この間の自殺未遂。

携帯の充電器コードで首吊りをしようとしていたところを、偶然、様子を見に来ていた私と久保、与田、桃子、火野の5人が見つけて必死に止めた。

いつもの美月からは想像できないくらいの力で抵抗されたけど、何とか抑えることができた。

この件については、その場にいた私達5人だけの秘密にした。

こんな事、口が裂けても言えるはずがない。

飛鳥:そっか.....

奈々未:まあ、美月の気持ちも分かるよ

奈々未の言葉に、私と飛鳥さんは静かに頷いた。

美月にとって、○○は全てにおいての中心だった。

生まれた時からずっと一緒で、何をするにしても隣には○○がいた。

人生のほとんどを一緒に過ごしてきた存在。

いつだったか、美月が言ってたな.....

「○○は、生まれた時からずっと隣にいたからさ。○○がいないなんて考えられないし、私にとってかけがえのない存在なの」

それほど、○○の存在は美月の中で大きなものとなっていた。

卒業するまでには付き合って、そのまま絶対に結婚すると思ってたのに......

"おーい! そろそろ始まるよー!"

お寺の中から、私達を呼ぶ声が聞こえてきた。

奈々未:今行く!

美波:飛鳥さん、行きましょ?

飛鳥:先に行ってて。すぐ行くから

美波:は〜い!



奈々未と梅の後ろ姿を見送った後、私はここに一緒に来たマネージャーに話しかける。

飛鳥:何か言いたそうな顔してるじゃん。言ってみなよ?

"いや、みなみはともかく、他人に興味無い飛鳥がこういう所に来るのが意外だったから"

飛鳥:あのね、私を何だと思ってんの? 私だって、葬式くらい行くから

"そりゃあ、親族とかだったら誰でも行くでしょ。でも、あくまで高校の後輩でしょ? 飛鳥、付き合い悪いじゃん。何か理由でもあるの?"

飛鳥:.....アイツはね、他の人とは違う。私達にとって特別な存在なの

"へぇ....珍しいことも言うんだね...笑"

飛鳥:何? その顔

"飛鳥、その子のこと好きなの?"

飛鳥:は、はぁ!? 何言ってんの!? そんなわけないでしょ!

"ちょっ、動揺し過ぎでしょ...笑 そんなんじゃ、演技の仕事やってけないよ!"

飛鳥:チッ、あとで覚えとけよ?

"はいはい...笑 ほら、早く行きな。他の人達も中で待ってるよ"

私は、ムカつくマネージャーを置いてお寺の中へと向かった。

"飛鳥があそこまで言う男ねぇ.....ハハッ、会ってみたかったな"



○○のお葬式には、たくさんの人達が来た。

白石:うぅ.....○○........

白石さんや飛鳥さんといった、先輩のみなさん。

久保:○○君........

火野:拳銃で撃たれても死ななかったのに、事故で死ぬのかよ......

史緒里や与田、火野達の同級生のみんな。

賀喜:何で....何でですかっ! 美月さんを一人にしないって......ずっとそばにいるって、約束したじゃないですかっ!!!

真佑:かっきー......

かっきーやまゆたん達、後輩のみんな。

「あのバカ......」

そして、ある出来事がきっかけで仲良くなった姉妹校の人達も来てくれた。

そして、寺の外には、

「.............」

「てち......」

「......行くよ、ねる」

全身黒服の少女が2人。

ここにいる人達はみんな、○○が紡いで、繋いできた人の縁。

○○....アンタは、ホント凄いよ

でも.....

○○の最期には、やっぱりーー

美波:.....美月






○○が私の隣からーーいや、この世界からいなくなって、どれくらい経ったかな.....

あれから私は、空っぽになったみたいに何もできずにいた。

お腹が空いても、体が食べ物を受けつけずに戻してしまう。

眠くても、○○との思い出が次々と頭に浮かんで離れない。

そんな日常に耐えきれず、ある日、全てを終わらせようとした。

○○がいない世界で生きても意味が無い

そして、あの世でまた○○に会いたい

この2つが理由だった。

お父さんとお母さんの2人には、申し訳ないと思った。

でもそれ以上に、これからの未来に○○がいない事に耐えられなかった。

なるべく、みんなに迷惑のかからないようにしようと思った時、前に○○から借りた漫画に載ってた方法が頭に浮かんだ。

タイトルは思い出せなかったけど、どういう風にやるかは覚えていた。

色んな充電器コードを束にして、一つの縄にする。そして、端の一つに輪っかを作って、もう一方を天井と電球の繋ぎ目に通す。

真下に椅子を持ってきて、その上に乗る。

あとは輪っかに首を通して、椅子を退けるだけ。

だけどそこで、私の様子を見に来た美波達に止められちゃった。

必死に抵抗したけど、ダメだった。

だって、みんな力強いんだもん

特に美波が....笑

その後、みんなにめちゃくちゃ怒られた。みんな涙で顔がグシャグシャになってたを覚えてる。

○○のお葬式には、たくさんの人達が来たってことを美波からのメールで知った。

美月:○○......

私は、携帯のフォルダに保存していた、○○とのツーショット写真を眺めていた。

去年の修学旅行で行ったUSJで撮った写真。

ホグワーツ城の前で、グリフィンドールとスリザリンのローブ、杖を構えていて、私も○○も笑顔だった。

あの時は、みんなに無理言って○○と2人っきりで周ったなぁ.....

こんなことだったら、ちゃんと伝えておけば良かったよ

いや、いくら後悔しても遅いか

「大切なものは、失ってから気づく」

なんて、よく聞くけど

あれ、ホントだね

もう遅いって分かってるのに......

私は、あの日に借りたきりで、返せていない○○のジャージを抱き締める。

今になっては、これが唯一○○を感じられる物になっていた。

そんなことを思ったその時、私の携帯にメールの受信を知らせる音が鳴った。

送り主は、蓮加。

受信ボックスを開くと、そのメールには、

【お母さんが、美月に渡したい物があるみたいだから家に来てちょうだい】

と、書かれていた。

美月:私に渡したい物....?

初めは、行きたくなかった

○○がいなくなったことを実感することになるから

でも、「それじゃダメだ」って言う私もいて、最終的には○○の家に行くことにした。

美月:久しぶりに外に出たなぁ......

季節はすでに冬に足を踏み込んでいて、肌寒くなってきていた。

そんな中、私は18年間ずっと歩き続けてきた道を進んで、○○の家に向かった。


玄関の前で、深呼吸を一回。

そして、チャイムを鳴らす。

ピンポーンと無機質な機械音が鳴ると、すぐに玄関のドアが開いた。

「はーい。あっ、美月ちゃん!」

美月:お久しぶりです、おばさん

○母:そうね。さっ、中に入って!

○○のお母さんに迎えられて、家の中へと入る。

これまで多少の模様替えはあったけど、ほとんど変わることのなかった○○の家。

しかし、今は、異様な存在感を放つ物がリビングの隣の部屋に置いてあった。

私は、○○の仏壇に向かって手を合わせる。

散々泣いたせいか、不思議と涙は出てこなかった。

○母:急に呼び出しちゃって、ごめんね

美月:いえ.....私の方こそ、○○のお葬式に行かなくてごめんなさい

○母:大丈夫よ。美波ちゃんと奈々未ちゃんから事情は聞いてたから

美月:あの、私に渡したい物って何ですか?

○母:あっ、そうそう! ちょっと、待ってて

そう言って、おばさんはリビングにあった引き出しから何かを取り出した。

○母:はい。これが美月ちゃんに渡したかった物よ

おばさんが私に差し出したのは、見覚えの無い一冊のノートだった。

美月:このノートは?

○母:死ぬ前に、○○が使ってたノート。何を書いてあるかは見てのお楽しみだけどね

美月:○○が.....

○母:○○の部屋の机の上に置いてあってね。葬式の時に美波ちゃんに渡したら、「‎これは、美月に渡してください」って言われて

美月:そうなんですね。.....あの、中見てもいいですか?

○母:もちろんよ

おばさんに許可を貰って、目の前にあるノートを開く。

見開きのページには、これまで何度も見てきた癖のある字が目に飛び込んできた。

書かれてある文字を必死になって目で追う。

その間、おばさんは一言も発さずに見守ってくれていた。

数分後、

美月:あの....これって、歌詞....ですか?

おばさんに渡されたノートには、歌の歌詞が書かれてあった。

○母:うん、そうみたい

美月:歌詞.....あっ、もしかして、文化祭のためのやつ?

○母:かもね。美波ちゃんも同じこと言ってたわよ

美月:でも、何でこれを私に?

ふと頭に浮かんだ疑問をおばさんに投げかけてみた。

○母:最初は私も分からなかったけど、一番後ろのページを見て納得したわ

おばさんに言われた通りに最後のページを開いてみると、

○○の文字で、

〝センター 美月〟

と、書かれてあった。






それから、数日経ったある日

私はあることを決心をして、親友に電話をかけた。

夜の公園のベンチに一人で座っていると、

「久しぶりだね、美月」

中学からの親友、美波がやって来た。

美月:そうだね、美波。急に呼び出しちゃって、ごめんね...笑

美波:ううん、大丈夫だよ

美月:これさ、ちゃんと貰ったよ

私は、おばさんに貰った○○のノートを見せて、そう言った。

美波:そっか......

優しい笑みを浮かべながら、美波は短く返した。

美月:私ね、これを貰った時から考えてたことがあるの

美波:なにを?

美月:○○が、私のために作ってくれたこの曲をこのままにしたくない

美波:........

美月:○○の才能を、○○が生きていたってことを残したいの

美波:美月......

美月:だから、私......

覚悟を決めた眼を美波に向けて、宣言する。

美月:アイドルになるっ!!!

......


......

......

美波:はぁぁぁあああああ!!?

美月:うぅぅぅ、美波驚きすぎ。耳キーンってなったんだけど...笑

美波:いやいやいや、普通驚くでしょ! どうなったら、そうなるの!?

美月:えっ、おかしいかな?

美波:あのね、おかしいも何もーーあっ、いや、何でもない

美月:ねぇ、美波。力を貸してくれないかな?

美波:はぁ? 何で私!?

美月:ふふっ...笑

美波:いや、「ふふっ...笑」じゃなくて! ちゃんと説明してよ!

美月:あっ、そうだよね...笑

美波:うん。で、何で私なの?

美月:いくら私でも、一人でやっていけると思うほどバカじゃないよ。でも、美波と一緒ならやれる気がするの!

目を丸くして、私を見る美波。

美月:どう.....かな?



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

『なぁ、美波』

美波:ん? どうしたの?

『お前に、一つ頼みがあってな』

美波:何ぃ〜? あっ、お金貸してだったら無理だからね。明日のUSJのために残してあるんだから

『なわけねぇだろ。俺だって、まだ金は残ってるわ』

美波:じゃあ、何よ?

『もしさ.....今回みたいなことで俺に何かあったら、その時は美月のこと頼むぞ?』

美波:ちょっと、何それ? 遺言みたいじゃん...笑

『あのアホを任せられんのは、お前しかいねぇんだよ。ほら、アイツってさ、ああ見えて寂しがり屋だろ? それに人見知りだしさ。一人にさせておけないんだよ』

美波:まあ、そうだね...笑

『だからさ、頼めるか?』

美波:もちろん。美月は親友だからね。それに、あの時の恩は一生懸けて返すって決めてるし!

『フッ、そうか...笑 それなら安心だな』

美波:まあ、○○に何かあるなんて考えられないけどね

『いやいや、現に今こうなってるだろ?』

美波:でも、結局は無事じゃん

『そうだけどさ.....まあ、もしもの時の話だから、頭の隅にでも置いといてくれよ』

美波:うん、分かったよ

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



美波:(まさか、そんな事がホントに起こるなんてね。予知能力もあったのかな? なんてね...笑)

美月:み、美波....?

美波:(任せて、○○。約束は守るよ)

美月:お、おーい! 美波〜、聞こえますか〜?

美波:あっ、ごめんごめん。聞こえてるよ

美月:もう! なら反応してよね?

美波:ふふっ...笑 ねぇ、美月。一緒に頑張ろっか?

美月:えっ、それって.....

美波:私も、美月と一緒にアイドルになるよ

美月:み゙〜なぁ〜み゙ぃぃ〜〜〜〜!!!

私は思わず、泣きながら美波に抱きついた。

美波:ちょっ、やめてよ〜笑

美月:あ゙りがどう〜〜!!

美波:もう....泣くのやめなよ...笑

そう言って、美波は優しく頭を撫でながら涙を拭いてくれた。

美波:それで? アイドルになるにしても、オーディションとかあるけど、そこのところは考えてるの?

美月:もちろん! ちょうど、明後日まで新メンバーオーディションの応募できるみたいだし

美波:しっかり調べてはいるのね。そっか、締め切りが明後日までか。かなり急だけど......ん?

美月:どうかした?

美波:なんか、つい最近にそんなこと聞いた事あるような

何かに気づいたような顔になる美波。

美波:いや、まあ、うん。美月の考えは分かったけどさ。一応、どこのグループにしたか聞いてもいい?

美月:そりゃあ、もちろんーー








━━4年後 明治神宮野球場

「美月っ! そろそろアンコール行くよ!」

楽屋でアンコール用の衣装に着替えて、出番待ちをしていた私を美波が呼びに来てくれた。

美月:分かった。今行くっ!

私は、スマホの写真フォルダを閉じて楽屋を後にする。外で待っててくれた美波と一緒にステージの袖まで行くと、飛鳥さんとみなみさんが待機していた。

飛鳥:あっ、やっと来た。ホント、いつもギリギリだよね

美月:いや〜、すみませんねぇ...笑

飛鳥:どうせまた、誰かさんとの写真でも見てたんでしょ?

美月:ん? 何のことですか〜?

飛鳥:はぁ...隠さなくても、もう分かってるから

星野:○○君との写真だよね〜?

美月:ふふっ....さぁ、どうでしょうね?

飛鳥:週刊誌に撮られても知らないからね

美波:いやいや、それは大丈夫ですよ。ある意味、美月ほどスキャンダルと程遠い人はいませんよ...笑

星野:たしかに! ○○君以上に好きな人いないもんね!

美月:ちょっと! 褒めないでくださいよ〜

飛鳥:どこがよ。全然褒めてないし

なんて飛鳥さん達と話していると、スタッフさんから合図が入った。

美波:美月、ようやくここまで来たね.......

美月:うん。これで私の目標は達成かな?

美波:ちょっ! まさか、卒業発表とかしないよね!?

美月:当たり前じゃん! そんな無責任に辞めたりしないよ!

美波:ならいいけど.....私を置いて辞めたりしないでよ?

美月:ふふっ....大丈夫だって...笑 さっ、行こっか!



美月:みなさん、アンコールありがとうございます! そして、次の曲が最後の曲になります

今、私の目の前にはたくさんのサイリウムと応援してくれるファンの人達がいる。

美月:今から披露する曲は、初披露の新曲です。そして、私にとって、とても大切な曲です

あれから、私は本当にアイドルになった。

美月:この曲のおかげで、今の私がいます

美波とは、今でも親友だし、アイドルになってからはライバルにもなった。

そして、私の前には高校の先輩の飛鳥さんとみなみさんもいる。

2人とも、相変わらずだよ。高校生の時から変わってない...笑

まったく、頼もしい限りだよ

あの日からは、本当に怒涛の日々だった。

オーディションがあって、合格してからはほとんど学校には行けなくなった。あっ、サボりとかじゃなくて、仕事とかレッスンのせいでね!

そのせいで、クラスメイトのみんなとは、ろくに会うことすらできなくなった。けど、それでもたまにできた休みの日には一緒に遊んだり。

楽しい事よりも、辛い事や苦しい事の方が多かったかもしれない。

いや、絶対にそう...笑

それでも、必死に頑張ってきたおかげで、私はこの曲でセンターに立つことができた。


もう一回言うけど、

ありがとね、美波

私のワガママに、ここまで付き合ってくれて

これからも、ずっと親友だよ


そして、○○

ようやく、ここまで来れたよ

○○がいなくなったあの日から、私はたくさん泣いて、たくさん成長したんだよ

一人でも大丈夫! って、思いたくてさ

でもね、やっぱり無理だった...笑

それでそ、○○を傍に感じていたくて

何ができないかな?

って、考えたんだよ

それが、私のサイリウムカラーの青と黄色。

黄色は、私の名前から

青色はさ、小さい頃に○○が好きだって言ってた色なんだよ?

だからさ、しっかりと私のこと見ててよね



もしさ、もしもだよ?

漫画とかでよくある、パラレルワールドみたいなのがあって

そこでは○○が事故にあってなかったら

どうなってたのかな?

私達、付き合えたのかな?

結婚もできてたのかな?

ふふっ、なんてね...笑

でも、もしそういう世界があったら




羨ましいな.....




過去は変えられないし、この願いが叶わないのは分かってる

だからさ、これだけは言わせて

○○.....

大好きだよ

愛してる

これからも、ずっと......


美月:それでは聞いてください



𝐹𝑖𝑛.

and

「ハイスペックな兄、転生したら妹の子供だった件」に続く

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