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この世界を君と 〜from to ZAMBI〜 2話


○○:ん....んん......今何時だ....?

自然と目が覚めた○○は、左目を擦りながら右手を動かしてスマホを探す。

○○:スマホ....スマホ......あっ、あった

寝る前に投げたせいでベッドの足元に落ちていたスマホを拾い上げて、親指に力を入れて電源ボタンを押す。

明かりが無い暗闇の中、顔を照らすスマホ画面の光に目を顰めながらFaceIDでスマホのロックを解除する。

眩しさのあまり、画面の明かりを下げた○○は、その流れで、通知が三桁になっているLINEのアイコンをタッチしてトーク画面を開く。

そこには、○○が寝ている間に来た、いくつものメッセージが表示され、○○は一番上になっていた真佑とのトーク画面を開く。

真佑から送られていた催促のメッセージと「罰としてアイス買ってきて!」というメッセージとその後に十件以上の着信履歴が続く。

他のトーク画面を開くと、遥香や聖来からも真佑と同様に大量の着信履歴が届いていており、○○は申し訳なさそうな声を出す。

○○:うわぁ、やべぇ.....完全に寝過ごしてんじゃん

○○が窓の外を見ると、太陽はすでに沈み、外は黒一色に支配されている。

カーテンが開いている○○の部屋の窓からは、一筋の月明かりが差し込んで辛うじて○○の視界を確保していた。

○○:絶対あの二人怒ってるよ。はぁ....行くのやめようかなぁ

体を起こして、ベッドの上で胡座をかきながら呟く○○だっだが、その直後、次の日の学校で真佑と聖来に怒られる未来が頭に浮かんだ。

○○:いや、ここは行った方が賢明だな

少し憂鬱な気分でベッドから降りた○○は、枕元に置いてあったリモコンで部屋の電気を付けようとするが、

○○:あれ? 電気付かねぇじゃん

その後も何回かボタンを押し続けるが、部屋のLEDは一向に付く気配が無い。

○○:はぁ...あとで直してもらお

部屋の電気を諦めた○○は、スマホのライトで明かりを代用し、勉強机に近付く。

今日の宿題として出された数学のテキストと筆箱を鞄に放り込んでいると、何かに気づいたのか、ふっと顔をドアの方に向ける。

○○:なんか、やけに静かだな

顔を訝しめながらそう呟く○○。

普段なら、この時間帯は部活終わりの生徒達が続々と食堂に向かうため騒がしくなるはずだが、今はその騒がしさが一切無く、静寂が支配していた。

何か嫌な予感がした○○は、スマホを手に取って通話履歴の一番上にあった「賀喜遥香」の表示をタップして、電話をかける。

しかし、コール音が鳴る事なく、電話が繋がらないことを知らせる無機質な女性の音声が耳に入る。

今度は、真佑や聖来達にも電話をかけるが遥香と同様にコール音がなること無く、電話繋がらなかった。

○○:おいおい、マジかよ.....

遥香だけではなく、真佑や聖来にも一切繋がらない状況にただ事ではないと思う○○。

ただスマホのバッテリーが切れているだけだと考える事もできるが、三人同時ということと、騒がしい筈の寮内から一切の音が聞こえない状況も相まってその考えを頭から取り払う。

○○:とりあえず、外出てみるか....

スマホを制服のズボンの後ろポケットに入れた○○は、ゆっくりと部屋のドアを開ける。

開けたドアの隙間から顔を出した○○の目に映ったのは、暗闇に染った廊下とパチパチと点滅している天井の蛍光灯の光だった。

○○:何だよこれ....バイオの洋館かよ...笑

恐る恐る部屋から出た○○の口から、廊下の状態が、昨日徹夜でプレイしていたゲームの光景にそっくりで、そんな感想が漏れる。

そんなホラーゲームに出てきそうな寮の廊下を不気味に点滅する蛍光灯の明かりに照らされながら進んで行くと、


「きゃぁあああああー!!」


自分の部屋から数メートル進んだあたりで甲高い女性の悲鳴が聞こえてきた。

○○:今のは、悲鳴か....?

悲鳴を聞きつけた○○は、反射的に悲鳴が聞こえた方向へと走り出す。

階段に差し掛かったところで、さっきと同じ悲鳴がもう一度聞こえてきた。

○○:くそっ....下の階か!

急いで向かう○○は、持ち前の身体能力を駆使して階段を勢いよく飛び降りる。

膝を上手く使って衝撃を吸収して着地した○○はそのまま走り出し、悲鳴の元へと向かった。

○○:なっ....!?

目的の場所まで辿り着いた○○が見たのは、覆い被さって襲っている男子生徒とそれに必死で抵抗する女子生徒だった。

傍から見れば強姦現場の真っ只中だが、ただ一つ異常な点が見られた。

○○の声に反応して振り返った男子生徒の顔がそれだった。

目は血走ったように赤くなって瞳孔は収縮し、顔には血管が浮き上がり、獣のような形相を浮かべていた。

○○:チッ....

掴みかかって来た男子生徒を横に飛び退いて躱した○○は、反射的に男子生徒の顔面に蹴りを入れて吹き飛ばす。

その隙に襲われていた女子生徒のもとに駆け寄って声をかける。

○○:おい、大丈夫かーーって、さくら!?

襲われていた女子生徒がクラスメイトの遠藤さくらだったことを知り、思わず大きな声で驚く○○。

さくらも○○の顔を見て、驚きの色を浮かべていた。

○○:お前、こんなとこで何してんだよ?

さくら:そう言う○○君こそ、ここで何してるの!?

○○:俺は今から真佑達の所に行く途中だったんだけど、お前の悲鳴が聞こえてきたからーーって、どうした?

○○の言葉を聞いていたさくらがキョトンとした顔、まるで「こいつ、何言ってんの?」みたいな顔になる。

さくら:○○君、もしかして知らないの?

○○:知らないって、何を?

さくら:それはーー...っ!! ○○君、後ろ!!

さくらの声のおかけで反応できた○○は、さくらの体を引っ張って一緒にその場から飛び退く。

○○:おいおい、綺麗なのが顎に一発入っただろ。何で動けんだよ...?

確実に、顎に蹴りを入れて脳が揺れて動けない筈の男子生徒が何事も無かったかのように立ち上がった様子を見て、僅かながら○○は動揺を見せる。

男子生徒:グ、グギャ....グギャァアアアア!!

動揺を見せた○○は反応が一瞬遅れて回避することができず、さくらを突き飛ばすのが精一杯だった。

避けられなかった○○は男子生徒に首を捕まれそのまま壁まで押し付けられる。

○○:くっ....こ、こいつ.....力強すぎ...だろ......

首を掴む手を取り払おうと必死に抵抗する○○だったが、自分よりも体格が小さい高校生とは思えないほどの力によって着実に首が締められていった。

○○:(くそっ....このままじゃ首締められて終わりだ)

○○の顔から血の気が引いていき、呼吸が荒くなっていくところにバンッという音と共に男子生徒に何かが叩きつけられた。

○○が視線を向けると、そこには消火器を両手で持ったさくらが肩で息をしながら立っていた。

○○:(ナイス、さくら!)

さくらが消火器で叩いたことによって生まれた一瞬の隙を見逃さなかった○○は、男子生徒の腕に足を絡ませる。

そして、そのまま○○が体を捻ると、男子生徒の腕からボキッという音が鳴り、首を掴む力が一気に緩んで開放される。

さくら:○○君! 大丈夫!?

○○:ゲホッ...ゲホッ.....ああ、大丈夫だ。助かったぞ、さくら

心配の表情をしたさくらが消火器を置き、○○のもとに駆け寄って声をかける。

○○は、咳き込みながらもさくらの言葉に答えて立ち上がる。

○○:おい、こっから逃げるぞ

さくら:逃げるって、どこに?

○○:お前の部屋、こっから近いか?

さくら:ううん。私の部屋は六階だから、それなりに離れてるかな

○○:だったら俺の方が近いな.....よし、とりあえず俺の部屋でもいいか?

さくら:えっ、うん。いいよ

○○:決まりだ

立ち上がった男子生徒に○○はもう一発蹴りを食らわせて、さくらと一緒にその場を離れて自分の部屋へと向かった。






○○:ふぅ....とりあえず、安心かな

さくら:うん、そうだね

部屋のドアの鍵を締めながら安心したような声音で呟く○○に、さくらもホッと息をついて同調する。

○○はキャスター付きの椅子に乱暴に座って、額に滲んだ汗を拭いながら背もたれに寄りかかり身を預ける。

○○:あっ、悪い。適当に座ってくれ

気まずそうにドアの近くに立っていたさくらに気づいた○○が優しい口調で声をかけると、さくらは壁に寄りかかるように腰を下ろした。

○○:ったく、何なんだ彼奴。てか、さくらは何で襲われてたんだ?

ふんぞり返るように椅子に座っていた○○が上体を起こして壁に寄りかかって座っているさくらに問いかける。

さくら:ホントに何も知らないの?

○○:さっきもそう言ってたけど、何だよ? 何かあったのか?

さくら:その口調からしてホントに何も知らないんだね。だったら、教えてあげるよ。何が起きたのかを

恐怖や悲しみなどのマイナスの感情を浮かべながら、さくらは口を開いた。

さくら:あれは、今から数時間前....部活の時間だった。私は委員会の仕事で図書室にいたんだけど、その時、急に悲鳴が聞こえてきたの

○○:その悲鳴って、彼奴みたいなのに襲われてる?

さくら:うん。その後、数学の落水先生が図書室に入ってきて「お前ら逃げろ!」って叫んでたの。周りの人達はドッキリか何かだと思って笑ってたし、私も正直そう思ってた。私達の目の前で、落水先生が襲われるまでは.....

そう言うさくらの手は震えており、思い出した恐怖に耐えるかのように唇も噛み締めていた。

それに気づいた○○は、「落ち着け」と声をかけるとさくらは小さく頷き、ふぅと息を吐いて心を落ち着かせる。

さくら:その後の事はあまり覚えてないんだけど、とにかく逃げようと思って、寮の自分の部屋に走ってたの

○○:そこで彼奴に襲われて、俺が助けたってわけか

さくらの話を聞いた○○が確認するように口を開くと、さくらは黙って首を縦に振った。

○○:マジかぁ.....俺が寝てる間にヤベェことになってるじゃん

さくら:えっ、○○君寝てたの?

○○:ああ、さっきまでぐっすりな

そう言うと、ぐぅ〜と空腹を知らせる音が○○の腹から聞こえてきた。

○○:あっ、悪ぃ。腹減っちまった...笑

さくら:フフッ、気にしないで。本当なら今は夜ご飯の時間なんだから

さっきまで恐怖で震えていたさくらだったが、○○の腹の音を聞いて思わず笑みがこぼれていた。

○○:何かあったかなぁ.....

空腹な○○は、机に備え付けられている引き出しを漁り、さくらはそれを不思議そうに見つめている。

○○:おっ、あった。ほら、カップスター!

○○は引き出しから取り出した某有名アイドルがプリントされた二つのカップラーメンをさくらに見せる。

○○:さくらも腹減ってるだろ?

さくら:うん....

○○の問いかけに恥ずかしそうに頷く。

それを見た○○は、ニコッと笑うと冷蔵庫から未開封の水のペットボトルを取りだし、電気ポットに注ぐ。

○○:あっ、てか、お湯沸かせんのか?

そんな疑問を持ちながらも、とりあえずポットのスイッチを入れると正常に動いていることを示すオレンジ色のランプがついた。

○○:おっ、電気自体はまだ生きてんのか。部屋の電気は付かないのにコンセントからは電気が流れてるってどういうことだよ.....

ブツブツと独り言口にする○○を見てクスクスと笑うさくら。

○○:さくら、醤油と塩どっちがいい?

お湯を注いで蓋をした二種類のカップラーメンを手に持った○○はさくらの前に差し出す。

さくら:えっと....じゃあ、塩で

○○:ほい

カップラーメンと箸をさくらに手渡して、○○は椅子に座り直す。

それから三分経ち、○○とさくらほぼ同時に食べ始めた。

○○:さてと....これからどうするかな

食べ終わった○○が、汁まで飲み干して文字通り空になった容器を机に置きながら口を開く。

まだ食べていたさくらは、箸を止めて○○に顔を向ける。

さくら:どうするって?

○○:ずっとここにいるって案もあるけど、そうもいかないんだよ

さくら:というと?

○○:食料が無いんだ。今食べてるこいつで最後

空になったカップラーメンの容器を軽く振りながら、答える。

さくら:それじゃあ、少なくとも一回はこの部屋から出ないといけないってことだね

○○:ああ、その通り。物分りが良くて助かるよ

さくら:それでどうしようか?

○○:それについては、俺が考えておく。さくら、お前は少し休んだ方がいい

さくら:.....うん。それじゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらおうかな

食べ終えたカップラーメンの容器を○○に渡して、そう言うさくら。

○○:あっ、寝るならベッド使ってもいいぞ。嫌なら床で寝てもいいけど

さくら:私はどっちでもいいよ。てか、そう優しくしておいて、どさくさに紛れて私を襲うとか考えてない.....?

急に疑いの目で睨むように自分を見てくるさくらに、○○は溜め息をつく。

○○:悪いけど、貧乳はタイプじゃないんだ。だから安心しろ、俺は襲わない

さくら:ふんっ! 悪かったね、巨乳じゃなくて! この変態! おっぱい大好き星人!

斬新な捨て台詞と共に○○に綺麗な平手打ちをお見舞したさくらは、吸い込まれるようにベッドに身を預け、そのまま秒で眠りに落ちた。

痛みが残る頬を手で抑えながら茫然とその場に立ち尽くす○○。

○○:痛ってぇな....冗談なのにマジで叩きやがって....まあ、少しでも元気があって良かったかな

口が半開きで気持ち良さそうに眠っているさくらの顔を見て、微笑みながらそう言う○○だった。



……To be continued


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