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ハイスペックな兄、転生したら妹の子供だった件 高校生編 〜委員会決め〜



○○:(........めっちゃ気まずい)

現在、乃木高は放課後。

部活やら何やらで校庭や体育館が賑わっている分、校舎の中は比較的静かだった。時折、3階の音楽室から吹奏楽部の演奏が聞こえてくるくらい。

そんな中、○○は図書室にいた。

別に本を読むために来た訳じゃない。○○の愛読書はジャンプをはじめとした漫画であり、小説はからっきし。そのため、○○がここに来る理由は一つもない。

そして、今の図書室には、本を借りに来る人も読みに来る人も皆無。○○ただ一人だけの図書室。

一時間前までは。

今は、この静かな空間に○○と一人の小顔美少女の2人きり。

彼女の名前は、齋藤飛鳥。

2年生であり、先日、奈々未の口から告げられたとある事件の中心人物である。

そんな彼女と何故こうなったかと言うと、それは昨日にまで遡る。






━━前日

新内:は〜い! この時間は委員会を決めるよ! みんな、やりたい委員会に手を挙げてね〜!

昼休みが終わって午後の授業一発目の時間。チャイムと同時に教室にやって来た担任の新内の第一声がそれだった。

○○達が入学して3日目。オリエンテーションなどがひと通り終わって、ようやく委員会や係決めなどが始まった。

新内:まずは、やっぱり学級委員からだよね。よしっ、やりたい人いるかな?

と、教室中を見渡しながら聞く新内だったが、予想通りと言うべきか、誰一人として手を挙げる者はいなかった。

何しろ、学級委員長なんて、あらゆる雑用を押し付けられる役職と言っても過言ではない。一部の高校生の間では、〝クラスの奴隷〟や〝学校の犬〟なんて呼ばれるくらいである。やりたい人が誰もいないのは、容易に想像できる。

新内:困ったわねぇ.....学級委員が決まんないと、先に進めないわよ

なんて、グルッと教室中を見渡して、明らかに芝居と分かるような口調で言う新内。そして、最後に○○と目が合うと意味ありげにウインクをした。

○○の背筋がゾワッとなる。

そして、何か口をパクパク動かしている。

○○:(あ? あの人、何か言ってんのか?)

少し前にとある漫画に影響されて独学で読唇術を習得(?)した○○は、面倒くさがりながらも、解読にかかる。

○○:(えっと......は・や・く・き・め・て・じゃ・な・い・と・き・み・に・す・る・よ..........はぁあああああ!!?)

担任からのまさかの脅迫。要するに、さっさと決めないと○○を学級委員にする、ということらしい。

○○:(おいおい、あの教師正気かよ.....)

新内:誰もいないの〜? もう、仕方ないわね。それじゃあーー

このままでは、問答無用で学級委員になってしまう。ありとあらゆる面倒事を押し付けられてしまう。

なので、

○○:はい! はい! はーいっ!!! 美波を、梅澤美波を推薦しますっ!!! いや、やりたいって言ってました!

友に擦り付けた。

美波:は、はぁあああああっ!!!?

新内:えっ、ホントに!? ありがとう、梅澤さん! それじゃあ、よろしくね!!!

美波:えっ、ちょっ....!

僅か数秒、まるで嵐のような勢いで美波が学級委員に決まった瞬間であった。あまりの決定までの早さに、美波は反論する機会もなかった。

無事決まったことで一安心する○○。

しかし、

新内:あっ、そういえば、もう一人決めなきゃいけないんだった。男子でやってくれる人はいないかな?

まだ終わってはいなかった。

美波が学級委員になった今、もう一人は男子じゃなきゃダメらしい。こうなってしまっては、もう打つ手はない。

新内:誰もいないみたいね。それじゃあ.....

最早、万事休す。抵抗することを諦めて、自分の運命を受け入れようとした、その時ーー

「新内先生! 男子の学級委員は僕がやります!」

ビシッと手を挙げて、立候補する救世主ーー勇者が現れた。

それは、入学式の自己紹介で○○が〝勇者〟というアダ名を(勝手に)付けた、出席番号一番の天乃河勇輝君だった。

新内:え、えっと.....天乃河君、だっけ? ホントにやってくれるの?

突然の立候補に戸惑う新内。めっちゃ目が泳いでいる。

天乃河:もちろんです!

新内:で、でもねぇ.......

そう言って、○○に目線を向ける新内。やはり、新内は○○を学級委員にしたいようだ。

しかし、そこに現れた第三者。いくら○○を学級委員にしたいからと言っても、立候補を無視する訳にはいかない。

新内:よしっ、分かった! このクラスの学級委員は天乃河君と梅澤さんにお願いするね!

少しばかり考えた末、新内は天乃河の立候補を認めた。それを受け、○○はホッと息をついた。

その後、他の委員会も何の問題もなく決まっていき、○○と美月は図書委員になった。ちなみに、理由としては、○○は「楽そうだから」美月は「○○と一緒がいいから」である。

こうして、委員会決めは無事にーー

「おいこら、○○」

終わらなかった。

○○:ビクッ....!

○○の後ろの席から声をかけられた。声の主は、分かりきっている。

「何してんの? 呼んでるんだけど」

催促の声に、○○はゆっくり振り返る。そこには、笑みを浮かべている美波。しかし、笑っているのは口元だけ。目は一切笑っていない。

○○:な、何でしょうか....?

美波:何でしょうか? へぇ....自分が何したか覚えてないんだぁ.....

明らかに怒ってーーいや、静かにブチギレている美波。あまりの圧に、○○の首筋をツゥーと冷や汗が流れる。

なので、

○○:申し訳ございませんでしたっ!!!

速攻、土下座。

言い訳や弁明などは一切しない。綺麗なフォルムの土下座で即謝罪。日本の謝罪は土下座と相場は決まっている。

美波:ちょっ、○○! 分かったから! 土下座はやめて!

これには、流石の美波も慌てた。

別に許したからだとか、そういう訳では無い。ただ、自分達へ向けられているクラスメイトの視線が痛いからだ。

入学して一週間も経っていない中で、イケメンが美少女に土下座をしているのだ。これに注目するなと言う方が無理な話である。

このままでは、変な噂が立ってしまう。

そう考えた美波は、○○を無理やり立たせて教室を出て行った。もちろん、美月もその後をつける。




美波:ふぅ....で、何で私が怒ってるから分かってるよね?

人の目が少なくなった所で、再び問いかける美波。その言葉には、先程と同じように怒りが込められていた。

○○:もちろんでこざいます

美波:君は、何で私を学級委員にしたのかな? かな?

○○:い、いや〜.....美波なら適任かなぁ、って思ったから。ハハハハ....笑

美月:○○、今は真面目にした方がいいよ

○○:だよな。すみませんでした

美波:それで、何で私を売ったの?

○○:まいちゅんが早く決めないと俺にやらせる、って言うから.......

美波:はぁ? 何それ.....

美月:そうだよ! 何で「まいちゅん」って、そんな親しげに呼んでるのよ!?

「いや、そこじゃない」と、心の中で思った美波。しかし、美月にとっては見逃せない大問題だったらしい。

美月:○○! 早く説明しなさいよ! 何で、そんなに仲良いのよ〜!?

○○の両肩をガシッと掴んで、力に任せて前後に揺らす美月。無抵抗の○○は頭がグワングワンと揺れる。

○○:んなもん、どうでもいいだろ!

美月:よくないっ!

美波:はぁ....もういいや。○○、後でこの分の償いはしてもらうからね?

○○:あの〜、具体的には、どのような....?

美波:とりあえず、3ヶ月は荷物持ちね

○○:う、嘘だろ......

美波:何? 嫌なの?

○○:いえっ! 謹んでお受け致します!!!


という訳で、なんだかんだありながら図書委員となった○○。その後、残りの授業も消化していき、その日の放課後に委員会の集会が開かれた。

その集会には、もちろん○○と美月は参加。これから始まる仕事の割り当てやシフトが決められたのだった。

そして、一日経った今日に割り当てられた○○は帰りのHRが終わった後、図書室へと向かった。

着いた頃は、人が誰一人おらずもぬけの殻。それを良しとした○○は、本の貸し借りを手続きを行うカウンターの席に座り、持参した漫画を読み始めた。

○○:(くそっ.....3ヶ月も美波の荷物持ちか。アイツ、一回の買い物でエグいほど買うからなぁ.....)

美波は土日のどちらかに必ずショッピングに出掛ける。○○に課せられた罰とは、その時の荷物持ちだった。

○○:(まあ、しゃーないな。それで、一年間の楽が手に入るなら安いもんか)

なんて事を考えながら、読書に励むこと約一時間。隣の物音が気になり、漫画から視線を外すと飛鳥が帰りの支度をしていた。

○○:あれ? 帰るんですか?

飛鳥:うん。もう時間だから

短くそう言うと、まるで逃げるように図書室から出て行った。その後ろ姿を見送って数秒。○○も帰り支度を始めた。

漫画をバッグにしまって椅子から立ち上がったその時、図書室のドアが開いて、

「飛鳥〜! 一緒に帰ろ〜!!!」

可愛らしく元気な声と一緒に一人の女子生徒がやって来た。胸元にある制服のリボンから、彼女が2年生であるということを瞬時に理解した。

美少女は、図書室の中をキョロキョロと見渡して、その過程で見つけた○○へと駆け寄る。

「ねぇ、君! 飛鳥知らない? あっ、これくらい顔の小さい子なんだけど」

両手で丸を作って、顔の大きさを表しながらそう言う美少女。

○○:あー、あの人なら、ちょっと前に帰りましたよ

「えぇ〜! また先に帰っちゃったの〜?」

探していた相手が既にいないと知って、分かりやすくガッカリする美少女。が、それも一瞬のこと。次には、○○の顔をジッと見つめる。

○○:え、えっと......なんか用っすか?

「君、かっこいいね! ねぇ、名前は?」

○○:い、岩本○○.....です

「岩本○○.....んんっ〜、どこかで聞いたことあるような.....あっ、まいやん達が言ってた!」

どうやらこの美少女、白石達と面識があるようだ。

○○:えっと、誰?

「あっ、ごめんごめん...笑 星野みなみだよ! よろしくね!」

○○:あっ、どうも.....

初対面だというのにグイグイくる星野に、若干圧倒される○○。

星野:もう、一緒に帰ろうって言ったのにぃ......

○○:あの人とは、友達なんすか?

星野:うん! 中学から一緒なの! あっ、そうだ! ○○君、みなみと一緒に帰ろうよ!

会って一分も経っていない相手から「一緒に帰ろう」とのお誘い。

これに○○は、

○○:.....何でだよ?

思わず、素で返してしまった。



……To be continued

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