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大袈裟で不器用な僕達は

目が覚める

違和感がして

スマホを手に取った。

"9:12"

眠気は一瞬で吹っ飛ぶ

しかし、ここで慌てたら元も子もない

学校に遅刻するなんて滅多に出来ることじゃないし

ここは前向きに考えて

もう一度布団を頭からかぶった。



「社長出勤とは随分と偉くなったね」

「なんでこんな所にいるんだよ…」

遅刻したことを煽ってくる同級生の賀喜。わざわざそれを言うためだけに職員室の前で待機していたと思うと腹立たしい

「寝坊?」

「いや…睡眠の前借り」

「なにそれ」って冗談も笑われる

こんな所を他の男子に見られたら、なんて言われるかわからない

面倒事は避けたいから、ささっとこの場を去ろうとしたとき

「…ちょっと待って」

制服の袖を掴まれて、どこか不機嫌な様子

「…何か言うことないの?」

今度は不貞腐れた表情を見せているが、全く何を言ってるのかわからない

「…あっそ。もういい」

背中を向けられ、賀喜が離れていく

僕は咄嗟に…手を掴んだ。

「…なに」

「わからないけど、なんとなく」

「じゃあ、離して」

「いや、賀喜が教えてくれるまで、離さない」

まるで子供の喧嘩のように、買っては売っての繰り返し

そして、気づけば周りの生徒が「え、なにあれ」と騒ぎ始める

それに気づいた僕は賀喜の手を掴んだまんま

「とりあえず、こっちいくぞ」と強引に人気の少ない方へと連れていった



初めはなんとなくだった

「あなたが〇〇君?」

声をかけたら、睨まれてもう一度机に突っ伏したのを覚えている

最初の印象は最悪だったけど、逆にそこが良かった。

次の日も

その次の日も

事あるごとに声をかけ続けたら

「…ちょっとこい」

昼休みのとき、教室の外に連れ出された

「…頼むから周りに人がいる時に声を掛けるな」

「人が居なければいいの?」

この時、〇〇の表情は歪んでいた

言いたいことが違ったのだろう

「…もうそれでいいから、あまり話しかけるなよ」と念を押された

その日以降、最初こそ嫌がっていたものの、徐々に距離を縮め、今に至るが

おそらくあの時からだろう

私の心を掴んでいたのは



「落ち着いた?」

「…うん。ごめんなさい」

結局走っていたら、第二棟の体育館まで来てしまった

ここなら授業がない限り、人は来ないし

今の僕達にはうってつけの場所

息を落ち着かせ、顔を上げると、賀喜は泣いていた

「…〇〇ごめんね」

「困らせるつもりはなかったの」

「ただ、寂しくて…」

情緒が不安定になったのはそのせいかと

気づくには遅くて、泣かせてしまった事実が心に残る

そして、気づけば賀喜を自分の胸のなかへと抱き寄せていた

「遅れてごめんね」

「…うん」

「もうちょいこのままでもいい?」

返事はない

でも、抱きしめる強さがいいねの合図

チャイムが鳴るまで、離れることはなかった


帰り道、朝の二人とはうってかわって、いつもの様子に戻っていた

「ってか遅刻していないぐらいで、泣くなよな」

「うるさい!別にいいでしょ…寂しかったんだから」

周りに人が居ようが関係ない

もう僕は気にしない

足を止め、賀喜を呼び止めた

「どうした?」

「…夕日が綺麗だな」

「ふふっ。下手だね」

「はぁ!?雰囲気台無しだろ…」

「そんなことないよ」

「これからもよろしくね」

紅に染まった空の下

固く結ばれた手

微笑む彼女が僕の瞳に映る。




   

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