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生まれは新潟です(後編)

【マンガ情報誌「ぱふ」で1986年にスタートした連載を原文のまま掲載】

生まれは新潟です(後編)

 僕の友だちのオポというニックネームの男[28才・音楽事務所勤務]も限りなく変人です。
 まずメカに決定的に弱い。これは高校の時の話ですが、ある時オポが兄貴からカメラを借りたといって二人で写真の撮りっこをしていたのであります。ここまではどこにでもあるようなほほえましい話ですが、何枚も撮った後で、突然彼は何を思ったか、
「うつってるかなーあ?」
とカメラのフタを白昼堂々とあけてしまったのでした。
 大学の時には、彼は杉並の四畳の下宿に住んでいたのですが、その部屋の自慢は姉夫婦からもらったカラーテレビでした。しかしある時そのテレビの映りが急に悪くなったものだから彼はあわててテレビの裏をあけ、のぞきこんだのです。
「うん、思った通りだ。真空管が加熱している。冷やさなければいけない!」
 彼が洗面器にくんで来た水を真空管にかけると「バリン!」みごとに真空管は割れ、二度とテレビはうつらなくなってしまったのであります。
 彼に関する事では他に「お山の野グソ事件」というのがありました。
 今どき野グソの経験を持つ人は珍しいのでしょうが、こういった事態はいつ身にふりかかるかわからないのでよく覚えておいた方がいいでしょう。
 事件の発端はあの麻丘めぐみでありました。そうです。最近離婚して芸能界復帰したあの人です。僕が高校生の頃は天地真理に続くアイドルなのでした。
 僕の友だちに熱狂的な麻丘めぐみのファンがいて、彼女のコンサートが近くの月岡ヘルスセンター[うっ、すごい名前でしょ]という所で行われるという話を聞いて、オポを誘って2人で出かけたのであります。
 月岡ヘルスセンターというのは早い話温泉地で山の方にあるのです。
 コンサートが始まろうとする時に突然の腹痛がオポをおそったのでありました。「前の晩に友だちの家でカップヌードルを3個も食ったのがいけなかったのかな」と思いつつ、彼はトイレを探したのであります。しかし野外特設ステージであったために、あたりにトイレは見当たらなかったのでした。まあ普通の人ならどうやってもトイレを見つけるんでしょうが、あっさりとあきらめて山の斜面を降りてゆくのが彼の彼たるゆえんでありましょう。

山の斜面における野グソのしかた

 これがその時の彼のテーマでありました。
 だいたい野グソというのはハイキングでもない限りする必要というか機会がないのです。[もちろんそれが趣味という人は除いての話ですが]
 それとも急にもよおす場合がほとんどであろうと推理できます。とすればそのウ○コはたぶん柔らかめであると思われるのです。ここがかんじんな所であります。
 すなわち気をつけなければいけないのは、斜面に顔を向けて用を足すこと、である。まちがっても斜面を背にしてはいけない。柔らかいウ○コが斜面にそって足もとにまで流れてくる恐れがあるからです。
 彼はこのことを自慢げに話してくれたのでした。

みんなアホや

その時はまだそういった簡単な事に気がつかないウブなボクだったのです。
 なにしろボクはその野グソのオボと二人でマンガの描きっこをしていたのであります。二人がマンガ家になっていたとしたら、ボクは彼にかなわなかっただろうなあ、と思います。彼の存在はギャグそのものでおます!ほんと。
 いちおう今ボクはミュージシャンなんですが、マンガ家志望だったボクがこうなってしまったのはどこかに人生の岐路があったんじゃないかと思われます。
 しいて考えるとしたら、高校入学の時だったのじゃないでせうか。高1のクラス分けは美術・音楽・書道という選択科目によって分けられておりました。ボクは美術を第一希望にしたにもかかわらず、人数の都合で音楽クラスにまわされてしまったのです。
 それからというもの、なんとなく苦手だった音楽の方に興味が向いてしまって、今に至るわけです。

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