子育ての"報い"とガーネット
真紅に煌めく、美しい色石の指輪を身に着けている女性に出会った。
聞けばその石は、「ガーネット」だという。枯れた紅葉のように落ち着いた色合いの石は少し古めかしくて、私が子供時代によく聖堂で見ていたステンドグラスの色を思い起こさせた。ガーネットと古っぽさを勝手にセットにしてきた私にとって、年齢もずっと若く流行にも敏感で、アクティブに働くその女性がガーネットを着けている姿は、新鮮に映ったのだ。
石の中でもガーネットは「実りの象徴」と言われ、努力に報いをもたらす石として信じられている。
報いをもたらす石。
ガーネットの古めかしい煌めきが、私を子供時代へ誘った。幼少期の私にとって、いちばんの報酬は"母に振り向いてもらうこと"だったと思う。兄と弟に挟まれた女の子の宿命なのだろう。母は私より、やんちゃな兄と歳の離れた弟の方によくかまっていた。子供ながらに「手のかからない子」を期待されていることを密かに察していた。机にドリルを開いては一人で勉強に取りかかり、「最後まで終わったよ」と母に報告する。そうすることで自分なりの報酬を得て、心を埋めていたのだった。
赤い煌めきの似合う素敵な女性に触発され、私もガーネットのジュエリーが欲しくなった。今の私が願う"報い”とは何だろう? 真っ先に思い浮かんだのは、"子育ての報い"だった。毎日の食事作り、勉強の見守り、お稽古の送迎に遊び相手と、1日の時間で大半を占めているのは今、息子との時間だ。妊娠中に思いがけず体調を崩しながらも、産むと決めた時から「いつか息子が手元から巣立つ日まで、時間を削ってでも子育てと向き合おう」と誓った。だがそんな私も、心の奥底では忙殺される育児に何らかの"報い"を求め始めていたのだ。
自分が望む"子育ての報い"は、東洋占星術で見る宿命にも"気質"として描かれていた。宿命によると私が母親として得たい報いとは、息子が「勝負強く」「頑張り屋」で「鋭敏」な子供であることだった。あぁ、思い当たる出来事が山ほどある。振り返れば私は息子に"急かす言葉"をよくかけていた。「もっと早く」と叫ぶ。「あと何分で終わらせるように」と時間を計る。宿命として持っている以上、星の気質は生かすべきと東洋占星術では考える。しかし自分の星を消化して、その見返りの果実を得ようとすればするほど、何だか空回りしているようにも思えた。
星の世界には、陽転と陰転がある。
東洋占星術では、陽転すれば星の良い面が発揮され、陰転すれば悪い面が露呈すると言われている。今の私は明らかに星を生かそうとしながら、むしろ陰転させているように思われた。この星が陰転すると「些細なことにケチをつける」などのネガティブな意味合いが顔を出す。私が息子にすべきだったのは、遅いことに文句を言って星を陰転させることではなく、どうしたら勝負強さ、鋭敏さを磨けるかを考え、星を陽転させていくことだったのだ。
赤い煌めきで持ち主に報いをもたらすというガーネットのリングは、まだ手に入れられてはいない。代わりに「イッタラ」のクランベリー色のガラスのコップを食器棚から取り出し、美しいガーネットに思いを馳せながらオートミールクッキーを焼いておやつの時間に息子と一緒に食べて話した。
「ねぇ、あなたにとって理想のお母さんって、どんなお母さん?」
「そうだねー。やさしいのと料理がおいしいのは今のままでいいけど、勉強してるときに早く早くって、言わないでほしいよ。
それからお母さんはきっと、自分から勉強する手のかからない子どもがいいなぁって、思ってるでしょ!」
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