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コンクリートは硬くなり続ける?-混合セメントと水酸化物イオン

わたしたちの身の回りにあるコンクリートは、はじめから硬かったわけではありません。もともとは石と砂とセメントと水などを混ぜたドロドロの生コンクリートでした。
それが徐々に硬化して1カ月もたてば家や橋梁に使えるほどにカチカチなコンクリートができるのです。

そんなコンクリートですが、実はカチカチになったあともますます硬くなり続けるのです。

コンクリートは長期にわたって強度を増進します。

45年間水中養生された各種高炉セメント及びFAを含む結合材を使用したコンクリートの物性を調査した結果,以下のことが分かった。
1)(中略)材齢91日を基準とした圧縮強度比は,材齢45年時でN(筆者注:普通ポルトランドセメント)は約120%,LBB(筆者注:低熱高炉セメント)は約140%,BC(筆者注:高炉セメントC種)は約160%程度であり,(以下略)

45年経過した混合セメントコンクリートの長期強度発現性について
コンクリート工学論文集,2012 年 23 巻 2 号 p. 71-79,植木 他

高炉セメントというのは混合セメントの一種でポルトランドセメントの原料に銑鉄を製造する際に排出される副産物である高炉スラグを砕いて混ぜ合わせ加熱したものです。

元画像:File:Slag,Inujima,Okayama 犬島精錬所スラグ DSCF0631.JPG(松岡明芳, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons)


混合セメントには他にもフライアッシュセメントシリカヒュームセメントなどがあります。これらは主に硬化時の熱を抑えたり長期強度を上げたりする目的で使用されます。

また、現代のコンクリートだけでなく古代ローマ時代に火山灰を主成分として作られたローマン・コンクリートでも強度の増進が確認されています。

古代ローマ時代のコンクリートは、火山灰、石灰、火山岩、海水を混ぜ合わせて作られている。このうち、重要な役割を果たしているのが、最後の材料である海水だ。この珍しい材料の組み合わせのおかげで、1,000年以上の時間をかけてコンクリート内で新しい鉱物が形成され、ますます強度を増しているらしい。

古代ローマ時代のコンクリートは、今も強度を増していた──その驚くべき理由が解明される | WIRED.jp
元画像:File:Rome-Pantheon-Interieur1.jpg,I, Jean-Christophe BENOIST, CC BY-SA 3.0 <http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/>, via Wikimedia Commons

現代でも古代でもコンクリートの強度は増進します。ただし、適切な温度・湿度が整い、有害な材料や劣化因子の影響がなければの話ですが。
これは鉄筋コンクリートであっても同じことがいえます。

どうしてそんな長期間硬くなり続けるの?

疑問なのは具体的に何が起きて硬化し続けているのか、ということです。
この機序は現代のコンクリートと古代のローマン・コンクリートでは若干の違いがあります。
ローマン・コンクリートについてはいずれ書くこととして、今回は現代のコンクリートについて考えます。

水和反応

そもそもコンクリートはどのようにして固まるのでしょう。
簡単にいうと、コンクリートの材料であるセメント(結合材)と水の混合物であるドロドロなモルタルが水和反応という変化を起こします。そして、結晶が生成されることを繰り返してカチカチになっていきます。
このとき生成された結晶の中にはさらに水を加えることで別の反応を起こしてより結晶を大きくするものがあります。
例:アルミン酸三石灰(C3A)+水+石こう→エトリンガイト
  アルミン酸三石灰(C3A)+エトリンガイト+水→モノサルフェート

こうした水和反応を繰り返すことでコンクリート中の流動的なモルタル部分が水和生成物の結晶で密になります。そして、結晶同士のかみ合わせによりモルタル部分が固まり、石や砂などの骨材同士が結合されることで硬化していきます。

どれほど結晶が密に詰まっているかが強度に影響する

硬化したコンクリートは主に骨材と水和生成物の結晶でできています。他にも未結合の結合材や水、空気に混和材なども含まれますがここでは骨材と水和生成物に絞って考えます。
コンクリートは骨材と結晶が単位体積あたりに密に詰まっていればいるほど強度が向上します。
おせんべいに例えてみましょう。
同じ米を使っているのに空気を含んでサクサクふわふわしているものもあれば、空気の入っていないとても硬いものもまたあることを考えると想像しやすいと思います。

高炉スラグとフライアッシュ、シリカヒューム

さて、セメントの成分であるエーライトビーライトと水が合わさり水和反応を起こすと、水和生成物のひとつとして水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を生成します。水酸化カルシウム自体も結晶になりますが、水酸化カルシウムがコンクリート中の水に溶けるとカルシウムイオンと水酸化物イオン(OH−)が電離します。

水酸化物イオンはコンクリートの材料の一種である高炉セメントの高炉スラグという素材と反応することで新たな結晶を生成します。この反応は91日でほぼ反応し終わるポルトランドセメントに比べてゆっくりとした速度で進行するため何年、何十年にわたってコンクリートを硬化させ続けるのです。この特性を潜性水硬性といいます。

似たような現象は火力発電所の灰であるフライアッシュやシリコン製品を製造する際の副産物であるシリカヒュームを使用しても起こります。この場合はポゾラン反応といいます。

なぜこんな現象が起きるの?

高炉スラグは二酸化ケイ素の鎖状結合にカルシウム、マグネシウム、アルミニウムの酸化物が合わさってできたガラス質の物質です。これは安定しているため水と合わせても成分はあまり溶けません。しかしpH12を超えるほどの高アルカリ性で水酸化物イオンの多い水に入れるとケイ素酸化物の鎖状の結合が壊されて成分が溶脱します。
溶脱した成分が水中のカルシウムイオンや塩化物イオン、水酸化物イオンと合わさることでC-S-HC-A-Hなどの化合物が生成され新たな結晶ができるのです。
これを潜性水硬性といいます。

フライアッシュは二酸化ケイ素と酸化アルミニウムが主成分で、シリカヒュームは二酸化ケイ素が主成分です。いずれも微細な粒子です。
これらは高炉スラグと同様に水酸化物イオンやカルシウムイオンなどと反応することでC-S-Hなどを生成し新たな結晶を生成します。
これをポゾラン反応といいます。

参考:高炉スラグがコンクリートに及ぼす影響(コンクリート工学,1981 年 19 巻 11 号 p. 75-79,笠井)
フライアッシュのガラス組成がポゾラン反応性に及ぼす影響(コンクリート工学,2017 年 71 巻 1 号 p. 24-31,目黒 他)
シリカフュームを用いたセメント硬化体の水和におけるケイ酸構造の影響(セメント・コンクリート論文集,2010 年 64 巻 1 号 p. 9-15,小泉 他)

水酸化カルシウムがある限り硬化し続ける

こうした潜性水硬性やポゾラン反応はコンクリート中の水酸化物イオンを消費し尽くすまで続きます。
実際に建設後50年経過したダム(坂本ダム,池原ダム)のフライアッシュを使用したコンクリートの研究結果によると、材齢50年まで強度は漸増する傾向があり、採取したコンクリート中の水酸化カルシウムはポゾラン反応によってすべて消費されていました。一方でフライアッシュは未反応のものが含まれていたため硬化は水酸化カルシウムがあればもっと続くと考えることができます。

まとめ

  • コンクリートは長期にわたって硬化する。

  • コンクリートの強度は骨材と水和生成物の結晶が単位体積あたりで密になればなるほど強くなる。

  • 特に混合セメントは水和反応で生成された水酸化カルシウムから電離した水酸化物イオンによって数十年にわたって硬化しつづける。

今回はコンクリートが長期にわたって強度を増進し続ける仕組みについて簡単にまとめました。
より詳細な仕組みについて知りたい方は、ネットで調べれば多数の記事や論文を読むことができます。調べてみると面白いですよ!

おまけ

サムネイル画像の出典はこちら(池原ダム)

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