医者になって少し学んだことー接待というもの④-最終章

駆け出しのころは、降圧剤、抗生剤の点滴等で、うちの会社の製品をどうぞよろしくお願いします!程度の依頼でしたが、臨床経験と共に、新薬の新規採用申請、医療機器の選定等、要求・売り込みが少しずつレベルアップしていきます。そうした要求の中では、例えば同様の機序で、すでに採用されている競合他社製品が存在している薬剤採用依頼なんてのは、特に困ります。是非、うちのものを!と言われましても、無駄な院内在庫を増やすのは、経営面において褒められた行為ではありませんし、自分自身、どうしても採用したいわけでもないため、当然気がすすみません。ある時、上司と二人で美味しい🐡のコースを頂いた直後にそうした依頼があり、非常に断りづらかったのですが、強く推す理由が見出せず、丁重にお断りしました。で、MRさんとは、その後少し気まずくなってしまったので、それからは一切合切病院外での飲食を伴う説明会は断るようにしました。

接待の無い穏やかな日々を過ごしているうちに、とある新規点滴注射治療薬(二週間使用、なかなかのお値段)の担当者から、その薬剤が実際に臨床でどのように役立っているか、社内向けにレクチャーして頂きたいという依頼がありました。丁度数年前に大学でその薬剤の臨床試験の治験担当をしていたのと、似たような薬剤での論文もかつて発表済みであったので、快く引き受けました。統計データ以外に臨床例の動画や画像も準備して、午後7時から1時間強、その会社の会議室で30人位の前でお話をさせて頂きました(今思うと営業の方でも扱う商品が皆さん異なるので、全く為にならないというか、関心が無かった方も強制参加させられていたでしょうし、何なら事務系の方も人数調整で参加していたかもしれません)。終了後の会食は予めお断りして、ただちに帰宅というか、病院に戻りました。恰好をつけるわけではないのですが、講義の報酬は本当に考えていなかったのですが、その後振り込まれた金額を見て驚きました。実際の金額は示しませんが、当時大学病院で医学生相手の講義1コマあたりの報酬の7倍位でした。内容と比較してあまりにも貰い過ぎです。さらに二か月後、同じ担当者から「テーマは何でもよいので、是非近いうちにまた講義をお願いします!」と依頼があり「いやあ、あとは手術道具のこだわりとか、手術でのちょっとした工夫とか、そんなのしか得意な話は無いですよ?」とお答えしたのですが「それでも良いので是非!」と言われ「それって皆さんの役に立たないのでは?」と違和感が強かったので、丁重にお断りました。他社の仲の良い(ビリヤード、釣り仲間)MRさんに、こういう事が有ったのですが、これってやっぱり接待の一環ですか?とお尋ねしたところ「そうですよ。典型的なやつです(笑)。でもその額は結構ランクが上だと思います。」とのことで、とても残念に思ったことが有りました。

今はMRさんの訪問自体を禁じたり、曜日制限、事前予約のみ、とか形態が変わり、実際にお会いする機会は格段に減っています。薬剤の説明も動画で配信されたり、面会せずに情報を得ることが出来ます。昔、とても傲慢な上司の担当者に「あの先生の担当、ほんと大変ですね?」と労いの言葉をかけたときに「いえ、あの先生はわかりやすいというか、接待した分、成績が計算できるので、とても助かるんです!」と回答され、仕事となると、相手の好き嫌いよりも成績第一なんだなと納得しました。それでも少なくない横柄な医者どもの相手は本当に大変そうだなと思っていたので、精神的負担から言うと今のMRさん達の方がかなり楽なのではないかと思います。

ただ、昔は接待交際費が潤沢で、チェックも甘く、私的な食事会や自宅の家具を購入したり、それなりに特典?があったそうです。

薬剤の開発費以外に営業関連全体のコストも薬価に(微々たるものかも知れませんが)影響するでしょうから、医療費全体、そして患者さん個人の負担にかかわるという事を医師も常にしっかりと意識しないといけないと思います。自戒の念を込めて。

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