Ryohei

介護職7年目/東京 介護の仕事や読書で考えたことを言葉にしたい。

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介護職7年目/東京 介護の仕事や読書で考えたことを言葉にしたい。

記事一覧

「問題のある人たち」――村瀨孝生『シンクロと自由』を読んで

「家に帰りたい」  このたった一言を、仕事に疲れた社会人が呟くのは問題にならないが、介護施設の入居者が呟けば問題になる。この違いは一体どこからくるのだろうか? …

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1年前
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敗北感とともに生きてゆく――小川公代『ケアの倫理とエンパワメント』を読んで

 「勉強好き?」  こう聞かれると返答に悩む。第一に、それは内容による。興味のあることは時間を忘れて取り組めるから好きと言えるが、必要に駆られてそれこそ「強」い…

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2年前
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介護の現場の「平和」な1日?――國分功一郎『中動態の世界』を読んで➁

 ゴールデンウィークなので、実家に帰っている人も多いだろう。社会人になっても、両親や祖父母、年上の親戚の前では、いつまでたっても「子ども」扱いで、自分が「ケアさ…

Ryohei
2年前
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映画批評にみる分断――稲田豊史『映画を早送りで観る人たち』を読んで

 映画が好きだ。学生の頃は、よくレンタルビデオ店に通っていた。たしか毎週水曜は旧作5本で1000円とかで、自分なりにどんな作品を組み合わせるか考えるのも楽しかった。…

Ryohei
2年前
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読書における中動態――國分功一郎『中動態の世界』を読んで➀

 「本の読み方」がわからない。なので「本の読み方」が書いてある本を読む。その「本の読み方」通りにやってみるものの、どこかしっくりこない。なので別の「本の読み方」…

Ryohei
2年前
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「助けてもらう」と「してあげる」――西加奈子『夜が明ける』を読んで

 最近になって、小説の「読み方」というか、「向き合い方」にも色々あることを知った。文学研究者や批評家は、自分の研究分野に引きつけて論じたり、独自の解釈を見せたり…

Ryohei
2年前
2

「ケアとは何か」を考えたい。――永井玲衣『水中の哲学者たち』を読んで

 グループホームで介護職員として働き始めて7年目になる。その間、介護福祉士の資格を取ったり、より良い介助や支援方法を会議等で話し合ったりして、人に「介護をしてい…

Ryohei
2年前
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アンラーンするべき介護業界

 2022年3月5日付けの朝日新聞朝刊の書評で気になっていた、柳川範之・為末大著『Unlearn 人生100年時代の新しい「学び」』。個人が成長するためにも、「アンラーン」とい…

Ryohei
2年前
「問題のある人たち」――村瀨孝生『シンクロと自由』を読んで

「問題のある人たち」――村瀨孝生『シンクロと自由』を読んで

「家に帰りたい」

 このたった一言を、仕事に疲れた社会人が呟くのは問題にならないが、介護施設の入居者が呟けば問題になる。この違いは一体どこからくるのだろうか?

 その人の「家」にいるのに「家に帰りたい」と言うから? ではその人の「家に帰りたい」という気持ちは、おかしなことで、あってはならないことで、解決しなければならない問題なのだろうか? それは介護施設だけの問題なのだろうか?

 医学書院の

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敗北感とともに生きてゆく――小川公代『ケアの倫理とエンパワメント』を読んで

敗北感とともに生きてゆく――小川公代『ケアの倫理とエンパワメント』を読んで

 「勉強好き?」

 こう聞かれると返答に悩む。第一に、それは内容による。興味のあることは時間を忘れて取り組めるから好きと言えるが、必要に駆られてそれこそ「強」いられるものは、楽しくないから嫌いだ。第二に、その問いには、勉強が好き=真面目/自分とは違う、勉強が嫌い=自分と同じ、という意味が暗に含まれており、相手が期待している返答を想像せざるを得ず、またその後の無益な会話を想像するだけで面倒に感じて

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介護の現場の「平和」な1日?――國分功一郎『中動態の世界』を読んで➁

介護の現場の「平和」な1日?――國分功一郎『中動態の世界』を読んで➁

 ゴールデンウィークなので、実家に帰っている人も多いだろう。社会人になっても、両親や祖父母、年上の親戚の前では、いつまでたっても「子ども」扱いで、自分が「ケアされる」存在であることを実感する。そして面目を保つためなのか、申し訳程度に「ケアする」存在であろうと、ささやかなお土産を買って帰る(……考えすぎか)。

 学生時代で言えば、中学3年生から高校1年生、高校3年生から大学1年生、のような自分が「

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映画批評にみる分断――稲田豊史『映画を早送りで観る人たち』を読んで

映画批評にみる分断――稲田豊史『映画を早送りで観る人たち』を読んで

 映画が好きだ。学生の頃は、よくレンタルビデオ店に通っていた。たしか毎週水曜は旧作5本で1000円とかで、自分なりにどんな作品を組み合わせるか考えるのも楽しかった。
 映画の話も好きだ。映画館で誰かと一緒に観なくても、後日「あのシーンがよかった」「あの俳優の演技がよかった」と話すのは楽しい。だから『シネマこんぷれっくす!』や『木根さんの1人でキネマ』のような映画の話をする漫画も面白い。

 映画が

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読書における中動態――國分功一郎『中動態の世界』を読んで➀

読書における中動態――國分功一郎『中動態の世界』を読んで➀

 「本の読み方」がわからない。なので「本の読み方」が書いてある本を読む。その「本の読み方」通りにやってみるものの、どこかしっくりこない。なので別の「本の読み方」の本を探すか、その「本の読み方」の本を読み直す。その「本の読み方」を人に説明できるくらい理解するまで……

 こんな堂々巡り、悪循環をここ数年繰り返してきた。読書術の新刊を書店で見つけると、どうしても期待してしまうのだ。この本こそが、「本の

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「助けてもらう」と「してあげる」――西加奈子『夜が明ける』を読んで

 最近になって、小説の「読み方」というか、「向き合い方」にも色々あることを知った。文学研究者や批評家は、自分の研究分野に引きつけて論じたり、独自の解釈を見せたりと、小説と仕事が強く結びついている。一方、僕も含めておそらく多くの読者は、むしろ仕事とは対極に位置するプライベートの時間として、小説を享受しているのではないかと思う。

 読書中も仕事が脳裏から離れないというのは、いくら文学が好きとはいえ大

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「ケアとは何か」を考えたい。――永井玲衣『水中の哲学者たち』を読んで

「ケアとは何か」を考えたい。――永井玲衣『水中の哲学者たち』を読んで

 グループホームで介護職員として働き始めて7年目になる。その間、介護福祉士の資格を取ったり、より良い介助や支援方法を会議等で話し合ったりして、人に「介護をしています」と言えるほどの知識と経験はある程度身につけてきたつもりだ。ただ、介護に関する知識が増えていくにつれて、別種の問いが生まれ、ついには無視できないほど大きくなってしまった。その問いとは、「ケアとは何か」といういうことだ。

 介護保険制度

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アンラーンするべき介護業界

アンラーンするべき介護業界

 2022年3月5日付けの朝日新聞朝刊の書評で気になっていた、柳川範之・為末大著『Unlearn 人生100年時代の新しい「学び」』。個人が成長するためにも、「アンラーン」という内省的思考が欠かせないことを改めて認識する一方で、高齢者介護・認知症ケアの現場にも必要な概念であると考えた。

 僕は、主にグループホーム(認知症対応型共同生活介護)を全国展開している企業の一つの事業所に勤めているが、それ

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