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敗北感とともに生きてゆく――小川公代『ケアの倫理とエンパワメント』を読んで
「勉強好き?」
こう聞かれると返答に悩む。第一に、それは内容による。興味のあることは時間を忘れて取り組めるから好きと言えるが、必要に駆られてそれこそ「強」いられるものは、楽しくないから嫌いだ。第二に、その問いには、勉強が好き=真面目/自分とは違う、勉強が嫌い=自分と同じ、という意味が暗に含まれており、相手が期待している返答を想像せざるを得ず、またその後の無益な会話を想像するだけで面倒に感じて
映画批評にみる分断――稲田豊史『映画を早送りで観る人たち』を読んで
映画が好きだ。学生の頃は、よくレンタルビデオ店に通っていた。たしか毎週水曜は旧作5本で1000円とかで、自分なりにどんな作品を組み合わせるか考えるのも楽しかった。
映画の話も好きだ。映画館で誰かと一緒に観なくても、後日「あのシーンがよかった」「あの俳優の演技がよかった」と話すのは楽しい。だから『シネマこんぷれっくす!』や『木根さんの1人でキネマ』のような映画の話をする漫画も面白い。
映画が
読書における中動態――國分功一郎『中動態の世界』を読んで➀
「本の読み方」がわからない。なので「本の読み方」が書いてある本を読む。その「本の読み方」通りにやってみるものの、どこかしっくりこない。なので別の「本の読み方」の本を探すか、その「本の読み方」の本を読み直す。その「本の読み方」を人に説明できるくらい理解するまで……
こんな堂々巡り、悪循環をここ数年繰り返してきた。読書術の新刊を書店で見つけると、どうしても期待してしまうのだ。この本こそが、「本の
「助けてもらう」と「してあげる」――西加奈子『夜が明ける』を読んで
最近になって、小説の「読み方」というか、「向き合い方」にも色々あることを知った。文学研究者や批評家は、自分の研究分野に引きつけて論じたり、独自の解釈を見せたりと、小説と仕事が強く結びついている。一方、僕も含めておそらく多くの読者は、むしろ仕事とは対極に位置するプライベートの時間として、小説を享受しているのではないかと思う。
読書中も仕事が脳裏から離れないというのは、いくら文学が好きとはいえ大
「ケアとは何か」を考えたい。――永井玲衣『水中の哲学者たち』を読んで
グループホームで介護職員として働き始めて7年目になる。その間、介護福祉士の資格を取ったり、より良い介助や支援方法を会議等で話し合ったりして、人に「介護をしています」と言えるほどの知識と経験はある程度身につけてきたつもりだ。ただ、介護に関する知識が増えていくにつれて、別種の問いが生まれ、ついには無視できないほど大きくなってしまった。その問いとは、「ケアとは何か」といういうことだ。
介護保険制度