『ゲーン』なる幻想の真実について。

知るほど、みみっちい商売だ。
企業秘密があり得ぬほどある。
これは公表したら俺の精神的な首が飛びそうだ。
それについては、勘弁被る。


ゲームセンター、略してゲーンとは、
いわばすることねえガキとすることねえ老人のヘヴンだ。託児所とも。
昔話をしよう。
かつてそのヘヴンは、カラオケに並ぶ本物のヘヴンだった。

今の古錆びた老いぼれた印象からはにわかには信じがたいが、ゲーンとは、ボディコンやダメージジーンズを纏ったイケイケの若者共がまどいをつくって、独特のコミューンを形成するのにうってつけの「めちゃチョベリグな空間」であった。アクアク嘘つかない!

それらイケイケバブルなティーンにあらゆる手段で宵越しの金全部吐かせてみることでガッポガッポと儲けまくっていたのも、もう20年は前の武勇伝。平成良かったね。しみじみよかった。

マメチだが、有識者によると、現30代の人生の殆どは平成時代らしい。
ここで精神の頓服を一包失礼。いくらなんでも俺達は死にた過ぎる。

(ラウンドワンのゲーンは今時風なので一味違う。
 僕たちのアフタースクールとはよくよくいったもので、
 ゲーンに残された最後の希望と呼んでいるが、またの機会に話したい。)

先も述べたように、ゲーンとは古代文明の一つである。

スマートフォンで無料で硬貨を投下できる時代だ。
ポリゴンやピクセルで形成された仮想通貨を仮想穴に挿入して、
仮想報酬を手に入れることで脳から仮想汁を出せる。下火。
スマートフォンで無料でプリント倶楽部を撮影できる時代だ。
脚や顎を好きなだけ伸ばしまくって、誰でも白い顔になれる。下火。
スマートフォンで占いや性格診断できる時代だ。下火。
アブノーマルなんとかってあったよね。何故か嫌いでした。
スマートフォンでUFOキャッチャーが出来る時代だ。
これについては非常にデリケートなコンプライアンスに触れてしまう。
やめてくださいよ!

まあ、聞け。俺の務めるゲーンはどぶだ。おわりだ。
日々摩耗して、誤魔化して、なんとかして生き延びている。
季節外れの桜に攫われそうなほど儚げな店長の毛髪も、
そうだそうだと言っている。

おわりの一例を挙げる。土日祝、白昼堂々アルコール飲料を持参した仮名という変な男が毎朝メダルのスロット(ほとんどルパン三世)で大変リーズナブルな射幸心をあおってニヤニヤしている。本物のニヤニヤした顔だ。

男は筐体のGスポット、ジャックポットを刺激する。筐体が潮を吹く。
仮名という男は筐体がイクのを本当に嬉しそうに見て、ボタンを押す。
oh五回死のう。それだけで、なんてはちゃめちゃに嫌な現場なんだ。
他にするべきことがあるんじゃないのか。
俺のこの先の人生を示唆しているようで憂鬱不快極まりない。

そもそもだ。タイタツしか音ゲーのないゲーンの寿命など分かりきっている。貴様は盛者必衰という言葉を聞いたことがあるはずだ。このゲーンにも例にもれず黄金時代があった。厳しいコロナ禍を生き延びた立地だけある。俺が一時期魂を捧げすぎて在庫が足りなくなってしまったポップンミュージックまでもがあった。チューンストリート。ネッ対不可。畜生!

今はない。何故?これもまたわかりきっている。
客層が合わなかったからだ。=儲からなかったからだ。
ポップンミュージックは大抵の場合ティーンのするリズムゲームだ。
というかリズムゲームとはティーンがするものだ。
ティーンが来ないゲーンは静かに終わりの時を待つ。

ティーンを吸い寄せるボルテもチュウニも、
DDRもギタドラもニデラもマイマイもこのへヴンにはない。
近くに私立高校あるのに何故なんだ。助けて!誰か!

しかもあろうことか最近、
近くにイオンモールという別のヘヴンができてしまった。
「あの」イオンモールだ。
住宅街の田舎には度が過ぎたヘヴンだ。サヨナラ。

この現象に俺は既視感を憶えた。
選挙に行かない若者の姿そのものだった。
俺はほとんどメロス状態なので政治がわからぬ。
安陰会で政治の知識が止まっている。老。

ああ。

こんなにくだらないものだったろうか、ゲーン。ああゲーン。
今や無料が当たり前のものたちに現金を吐く価値が、存在していた。
幼少期、休日にイク!といえばブックオフかゲーンだったのに。
握った100円玉が手汗でぬめるあの感じは、もう……。ああ。嘆。
ああ。ゲーンには、遊戯があった。

夢と経験と未知と、「ギラギラ」があった。

それが既知となり、「ふ~ん」となることの恐ろしさたるや。
追加の頓服を飲みたくなる。この薬効いてゐるのだろうか。
こんど医者に問う。応えによっては直ちに死罪に処す。

移ろう時代についていくことができない。
いつもおいてけぼりだ。時代不適合者だ。
不適合な時代のニーズに沿った不適合な空間がそれを証明していた。
ここだけ平成時代。VIPPERな俺。ブーン。内藤ホライゾン。助けて。

そうやって僕は鋼鉄になって。

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