誹謗中傷対策
某掲示板などで誹謗中傷(名誉毀損、侮辱、プライバシーの侵害)を受けた時の対処法をまとめてみます。
まず、誹謗中傷という言葉は法律用語ではありませんので、誹謗中傷になりうる法令を見ていきたいと思います。
削除方法はこちらにまとめました。
名誉毀損罪
書き込みにより、人格的利益を違法に侵害されたもの、インターネットでも出版されたものでも、公共電波でも、何なら、駅前など多くの者にさらすような形で、具体的な内容を伴って誹謗中傷をしたときにそれが虚偽であっても真実であっても成立します。
対象となる個人の範囲が広い場合など、特定できない場合には成立しません。
『摘示』というのは、示すことです。書き込み、口頭、イラスト、写真、動画、その他身振りなども含まれます。
『公然と』ですが、一対一や身内以外のすべてに該当すると言っても構いません。
『その事実の有無にかかわらず』ですが、事実と言う法律用語は『真実』ということではなく、具体的な事例を伴って示すことを指します。真実又は、虚偽の事例を伴って示すことを差します。
つまりは、デマやガセ、嘘でも特定の個人を指している場合は成立します。
名誉毀損でいうところの『名誉』とは、『社会的評価の低下』を意味します。本当かどうかは問題とされていません。
例えば、『○○は不倫をしている』ということは『不倫』という具体的な言葉で以て誹謗中傷しているので、名誉毀損に該当します。たとえ、それが真実であっても名誉毀損罪は成立します。
たとえ真実であっても、その情報が広められたことによって社会的評価が低下した事実があれば、名誉毀損罪に該当します。
ただ、警察や弁護士に依頼をする際には、真実か虚偽かは聞かれてくると思います。
公共の利害に関する場合のみ、真実でなければ成立しない
真実でなくては成立をしない場合もありますが、これは、『公共の利害に関する場合の特例』ですので、通常は成立します。
要するに、公人や公共の利害に反する場合のみです。
要するに、『本当のことなら誹謗中傷に当たらない』というのは法律上間違いでして、本当のことでも名誉毀損になります。
別の言い方をすれば、本当のことなら誹謗中傷に当たらないというのは、公共の利害に関する場合だけです。
全国的な有名人でもなく、公人でもない人に対する事柄は、名誉毀損になるということです。
民法上の責任
名誉毀損罪が成立すると、刑法だけではなく、民事的な責任も発生します。
710条では、慰謝料のことも規定されています。
『財産以外の損害』とは、慰謝料など、精神的損害のことを指します。
刑法と民法の違いですが、刑法は法律に定められたものに違反した場合の規定であり、民法と言うものは私人間の規律や契約を定めたものと言えるでしょう。
警察が動くか動かないかで大雑把に考えてもいいかもしれません。
名誉権の定義
名誉について最高裁は、『人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価である名誉』と定義しています(最大判昭61・6・11民集40巻4号872頁)。
『社会から受ける客観的評価』が名誉と言うことでで、名誉権は、それが守られるべき権利となります。
つまり、社会的観念に照らして、その人の『名誉権』を侵害したものと認められれば、『名誉権侵害』となります。
名誉毀損は『これが事実を摘示するものであるか、又は意見ないし論評を表明するものであるかを問わず、成立し得るもの』(最三小判平9・9・9民集51巻8号3804頁)と判例で示されており、意見論評(感想)であっても成立します。
名誉毀損においての真実性ですが、債務者(プロバイダなど)は『真実と信ずるに付相当な理由がある』から名誉毀損ではないと主張することがありますが、名誉権を侵害された事案における削除請求及び発信者情報開示請求においては、違法性阻却事由にはならず、問題となりません。
犯罪の成立要件
判例上、『真実と信じるにつき相当な理由』は責任阻却事由とされています。
プロバイダ責任制限法4条1項の「『権利が侵害されたことが明らかであるとき』という法文に照らしても、発信者の主観に関わる責任阻却事由が存在しないことまでは主張、立証する必要がないというべきである」として『真実と信じるにつき相当な理由』がなくても、発信者情報開示請求は可能との判断をしています(東京高判平25・10・17)。
違法性阻却事由と、責任阻却事由の違いですが、違法性を退ける、つまり、違法にならない理由が違法性阻却事由で、責任が退けられる。つまり、行為に対する責任がないとされるのが、責任阻却事由です。
犯罪が成立するには次の条件があります。
構成要件に該当する
違法である
有責である
これがすべて揃わないと、犯罪としては成立しません。
違法にならない場合は、正当防衛とか、緊急避難ですね。
また、責任がないとされるのは、責任能力がないとされること、故意過失が無いとか、心神喪失であるとか、期待可能性が無いことなどがあります。
期待可能性がないというのは、そうせざるを得なかった、そうしなければ職を失うそれがあったとされる場合ですが、これで減刑された判決はありますが、無罪になった判決はありません。
誹謗中傷の書き込みの場合、PCなりスマートフォンなりを操作しているわけですから、心神喪失や故意過失がないとは認められませんが、削除請求においては、そもそも故意や過失などの主観的要件は不要とされています。不法行為よりも緩やかになっています。
民法の名誉毀損
重大犯罪における情報など、すでに公共のものとなっているもの、それを公開しておいた方が、世間のためになるような情報を除き、また、有名人に対するものを除き、大抵の誹謗中傷は、ほとんどの人間が知らずとも問題なく、一般に公開するべき必要性もなく、公益性も認められません。
いくら主観で、『名誉毀損ではなく、ただの情報に過ぎない』と主張しても、現実に、世間一般でその情報において、社会的評価が下がるようなものであれば、名誉毀損になります。
刑法の名誉棄損罪において、3つの条件がありました。違法性阻却事由です。
公共の話題(すでに皆が知っていること)
公益目的(共同の利益になること)
内容が本当である(真実であること)
この三点のうち、一点でも欠ければ名誉毀損に該当します。
つまり、すべて揃わなければ、削除や開示請求の対象になります。
要するに、『示された情報が、嘘だろうと真実だろうと、名誉毀損罪は成り立つ』というのは、大抵は、そこに公共性もなければ、公益性もなく、ただの個人的な嫌がらせでしかないためです。
これは、刑事上の名誉棄損罪の要件ですが、民事上の名誉毀損には刑法230条の2の趣旨が当てはまると判断されました(最高裁昭和41年6月23日)。
要するに、個人攻撃に公共性も公益性も認められない場合は、真実であろうがなかろうが、名誉毀損をすれば、その責を負います。
つまり、先ほど示した損害賠償の対象となるわけです。
公開している検索エンジンは削除する義務が生じます。
検索結果削除請求では、違法性を判断する対象が『スニペット』(最高裁のいう『抜粋』)なのか、リンク先の書き込みそれ自体なのかという論点がありますが、ほとんどの判例では、裁判所はリンク先の書き込みに違法性があるかどうかで、判断しています。
最高裁決定で、検索結果の削除を求めた事案では、当該事実を公表されない法的利益と、当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較考慮した場合、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、削除を求めることができると判断が出ています。(Googleに対する、最決平成29年1月31日)
民法の名誉毀損においては、「事実適示型」と「意見論評型」の2つの類型があります。
事実適示型の名誉毀損での違法性阻却事由
公共の利害に関する事実に係ること(公共性)
専ら公益を図る目的に出たこと(公益目的)
摘示された事実が真実であると証明されること(真実性)
削除請求や発信者情報開示請求、損害賠償請求は民事法上の請求ですが、民法やプロバイダ責任制限法などには、刑法と違い違法性阻却事由の規定はありません。
内容が真実であるとの証明ですが、これは、書き込みをした投稿者が『確実な資料・根拠に基づいて』『真実と信ずるについて相当の理由がある』ときは、故意・過失がないとして開示請求などが棄却されてしまいます。刑事裁判でも無罪です。
要するに、真実と間違えても仕方なかったというレベルなら無罪となりますが、この場合の、『確実な資料・根拠』による『相当の理由』とは、検察や研究者レベルの調査・研究レベルが求めらますから、まず認められることはなく、『見た内容を信じた』とか、『書き込みを信じてリポストした』とか、『本人が認めていたと思った』とか、その程度で故意・過失が否定されることは、まずありえません。
侮辱罪
『事実を摘示しなくても』と言うところが名誉毀損との違いです。
簡単な罵詈雑言(ばりぞうごん)、悪口で成立します。
『間抜け』などのほか、人の身体的特徴を差して悪口として指摘した場合です。
具体的な事例を伴えば、それが虚偽であっても名誉毀損、抽象的な悪口の場合は侮辱に該当します。
プライバシー侵害
自分が隠しておきたい事実、公開していない情報を勝手に公開された場合は、プライバシーの侵害に当たります。
プライバシーの侵害については、法令に定められていません。
日本国憲法13条の条文による解釈で保障される権利が害されたという場合に成立します。
『私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利』
私生活にまつわる情報はすべてプライバシーとして保障されていますから、それを本人の知らないところで公開されれば、プライバシーの侵害と言うことになります。
個人情報はもちろんのこと、年収ですとか、経歴ですとか、過去ですとか、公開していない情報のことですね。
まとめると次のようになります。
その情報が公開されることによって、周囲から、それが事実として認知されてしまう可能性が高いこと。
通常の感覚からして、その情報が本人からして見れば、公開してほしくない場合。
本人は公開しておらず、一般にその情報を知られていない事柄である。
誰がどう見てもでたらめなものはプライバシーの侵害になりません。
ただし、プライバシーの侵害は刑法で規定されていませんので、犯罪にはなりません。
しかし、民法の不法行為には該当しますので、問題の投稿の差し止め請求や損害賠償請求は可能です。
根拠は、やはり先ほどの『民法第709条(不法行為による損害賠償)』にあります。
DMに関しては、『公然と』ではないために、名誉毀損などには該当しません。
ただし、公然性を要求されない『ストーカー行為』、『脅迫行為』、『業務妨害行為』などに該当する可能性があります。
面倒なDMに関しては、『今後DMには返信しません』と送ってしまえばいいのです。
それでも送ってくるようならば、『ストーカー規制法』違反になります。異性同性関係ありません。同性でも適用されます。
肖像権侵害
また、SNSでしか公開していない写真を本人の許可なく、勝手に掲示板などに張り付ける行為は、肖像権侵害に該当する可能性もあります。
肖像権は法令上明文化されている権利ではなく、判例で認められる権利となっています。
その他、何であれ、どれほど些細なことであれ、本人に義務もなく、望んでもいないことを要求してきたときは、次のようなものに該当する場合もあります。
この辺はもうすぐにでも警察に相談というか、被害届を出した方が良いと思います。
被害届を出す場合
警察は削除はしてくれませんが、誹謗中傷の書き込みを見つけたら、いきなり警察に被害届を出すのも手段の一つかと思われます。
被害届けというものは、何であれ、特定していなくても出せます。つまり、書き込みした者が誰だかわからなくても、被害があれば提出できます。
実際に被害届を出すのは管轄の警察署となります。交番は専門家がいない場合が多いので、警察署の方に相談した方がよろしいかと思います。
次のリンクで相談窓口一覧を調べることができます。
いきなり出向かずに、まずは、警察署に電話をして相談の予約をするというのが手順となります。被害内容と、訪問希望日時を伝え、届け出の際に持っていく物を確認します。
実際に被害届を提出する際には、身分証と印鑑が必要になります。
大抵は、自分で記入するのではなく、警察官が聞いて、記入する形となります。
実際に被害届を出す際に、書き込みをした者の処罰を求める意思表示を問われるかと思います。
その意思表示をすると、被害届に加えて、告訴と言うことになります。
被害届だけでは警察が捜査を開始する義務がないのですが、告訴となると、開始する義務が発生します。
また、名誉毀損については、親告罪と言いまして、告訴をしない限り裁判にならないという規定があります。
被害届だけでは捜査されない可能性もありますが、被害を受けたことを警察に知らせたという事実は大事かと思います。
また、警察が犯罪の存在を知るきっかけにもなる行為です。
告訴と似たようなものに、告発がありますが、こちらは告訴権者以外の第三者が行うものとなっています。
公的な相談窓口
被害届を出すのはためらう、又はその前に相談してみたいというような場合に、公的機関が市民のために用意されています。
違法・有害情報相談センター
インターネット上のトラブルに関する様々なアドバイスや手続きなどを教えてもらえます。
『誹謗中傷にあたると思われる書き込みをされた。』という場合の相談も受け付けています。
『当センターはインターネット上の書込みにおける誹謗中傷やプライバシー侵害、トラブル等について、相談者自身で行う削除の対応方法等をご案内しています。』と銘(めい)打っていますね。
ただ、こんなことも書いてありますね。
ネットで問題となる様な某掲示板は国外サイト扱いとなるでしょうから、どうなんでしょうか。
とりあえず落ち着くために、利用するのも手かとは思いますが、国内サイト、通常の日本国内の有名なプロバイダーが管理しているサイトなら苦労はしないのですが。
人権相談(法務省)
https://www.moj.go.jp/JINKEN/index_soudan.html
電話相談
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken03_00223.html
ネット相談
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken113.html
LINE相談
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken03_00034.html
アカウント名:「SNS人権相談」
検索ID:@snsjinkensoudan
相談後の実際の流れも書いてあります。
https://www.moj.go.jp/JINKEN/index_chousa.html
法務省のものは、名誉毀損に関しても書き込みの削除まで動いてくれるようですので、相談してみるのも手かと思われます。
誹謗中傷ホットライン
こちらは相談窓口ではなく、いきなり削除要請をしてくれるフォームサイトとなります。
国内外としっかり書いてありますね。
効果は期待できるものなのかはわかりませんが、利用してみるのも手かと思います。
参考
https://kandato.jp/rights/meiyo/
https://sakujo.izumi-legal.com/column/chishiki/meiyo-chigai
https://www.gladiator.jp/defamation/名誉感情侵害とは?判例上の要件・基準・具体例/
https://sakujo.izumi-legal.com/column/chishiki/ihousei-sokyaku-jiyu
https://sakujo.izumi-legal.com/column/chishiki/jijitsu-iken-chigai
https://sakujo.izumi-legal.com/column/chishiki/jijitsu-iken-chigai
https://sakujo.izumi-legal.com/column/chishiki/ihousei-truth
https://niben.jp/niben/books/frontier/backnumber/202005/post-191.html
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