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インターハイ中止が進路に与える影響

※この記事はバドミントンのことしかか書いていません。バドミントンをしない人にはなんのこっちゃわからない記事です。

今週の体育会系ビッグニュースと言えば、全中とインターハイが中止になった事だ。

特に最終学年の生徒さんやその親御さんは筆舌に尽くしがたい哀しみに襲われていると思うが、どうか前を向いて頂きたい。

僕が中学・高校生だった頃も最大の目標は夏の全国大会だった。もし頂点に立てたのならきっと素晴らしい未来への切符を手にできるだろうと、本気で信じていた。

しかし今になって言えるのは、そんなプラチナ切符などない。たとえ全国大会の頂点に立とうが地区大会1回戦で負けようが、マイナー競技のバドミントンではその先の人生はなんら代わり映えしないどころか、なまじ上位に食い込む事でその後の人生を大きく狂わせる人が多い、と言うのが今日のお話である。


勝利への最短アプローチ

僕が競技に本気で打ち込んでいた頃は勝利至上主義の指導者がそこら中に沢山いた。彼らのいい点は、目標へ最短でアプローチするメソッドが満載なことだ。長時間練習・遠征・過度の筋トレ・叱咤・暴力など、とにかく短期間で結果が出る一番手っ取り早い方法を随所に採用していた。

バドミントンという競技は、自分より上手沢山の人試合をする、この3つの組み合わせで短期間で急激に上達する。自分が把握できる球の予想バリエーションが増えることで、レベルが上がっても色々な球に対応できるようになるという理屈だ。

多くの指導者はこの事を体感的に知っているので、長時間、格上の選手と打てる練習環境を整える事を優先する。


24時間戦えますか?

すると何が起こるのか?

まず練習時間が恐ろしく長くなり、休みがなくなる。

普通の運動部の学生さんは週に3~5日練習して休日は勉強したり友達と遊びに出かけたり家族で旅行に行ったりするが、競技の世界にどっぷりハマると365日朝から晩まで練習をすることになる。僕は中学3年生から高校3年生の4年間で休みが3日しかなかった。

そうなると競技以外の友達と一緒に遊べなくなるから、普通の進路の決め方や勉強の情報が一切入ってこなくなる。家族との時間も減るから両親からの仕事観や進路へのアドバイスよりも、クラブや部活の指導者のマインドがダイレクトに脳みそに入ってくる。(もっとも親が競技にのめり込んでる場合は親子で洗脳されていくのだが)
つまり情報取得源がバドミントン関係者しかいなくなるのだ。


理想のキャリアパス

バドミントンを本気でやると進路はパターン化してくる。

Jr.クラブ → 強豪高校 → (強豪大学) → 実業団チームがある会社へ就職

当然各ステップでふるいに掛けられるので、最後までたどり着ける人は全国大会に出られる人でも全体の2%くらいだ。
実業団に入ったらゲームクリア、全日本総合で上位に入ったら大成功、オリンピックに出れたらグレイトでメダルを取ったらレジェンドになれる。

で、実業団に行った後どうなんの?

ここがこの競技の狂っているところなのだ。

高みを目指す事は大いに素晴らしいが、ゲームをクリアした後もしばらく人生が続いていくことに、勝利至上主義の指導者は何の関心も払わない。

近年はセカンドキャリアという言葉が流行っているが、現役を引退する1~2年前からセカンドキャリアを意識したところで学生時代からしっかり勉強して頭を鍛えてきた「普通の人」に敵うはずがない。

僕は日本の大学受験制度や文科省の教育システムがすべていいとは決して思わないが、バドミントン選手が歩む進路についてはそれ以前の話なのだ。この競技は教育システムの議題に乗せる前の段階で躓いている。

誤解を恐れずに言えば、今のバドミントンの競技体制は強くなればなるほど社会に適合できないタイプの人間を産んでしまう教育&進路システムなのだ。

早く競技バドミントンの世界から足を洗った人ほど経済的にまともな人生を歩んでいる事は、隠す余地もない。

さらに言うと、現在バドミントンを通してIT分野やメディア分野で新しい仕事を生み出している人たちは、青春時代に競技世界へどっぷり浸かっていなかった普通の人が大多数だ。ビジネスを通して社会に貢献しようとしている人は、青春期にしっかりと運動以外の研鑽を積んできた人なのだ。


指導者の思惑と見ている世界

勝利至上主義の指導者たちは自分の教え子を強豪校や実業団へ導き、育てた選手の競技実績を自分の指導実績として誇ることになる。
しかし教え子が選手としての旬を過ぎた後の人生に関しては一切の関心を払わない。

ここがこの育成システムの一番危険なところなのだ。

セカンドキャリアと言うのは1~2年でなんとかなるもんではない。幼い頃から「あなたにはバドミントン以外の可能性もある」「競技だけが人生じゃない」「自分の能力を開花させるためには勉強や旅行、課外活動も同じくらい大切なんだ」と、目の前の試合に勝つには一見回り道のような事をさせてなければ、選手引退後にいきなり思った通りのキャリアなど形成できるわけがない。
エクセルの使い方を知らない28歳元アスリートが突然社会に放り出されることを想像して欲しい。


努力のポートフォリオ形成

僕は狂気の勝利至上主義教育に高校までどっぷり浸かったが、(運良く)バドミントンの才能がなかったので大学3年生で競技活動から足を洗うことができた。
あと一年遅ければ社会人としてのスタートが切れなかったし、あと3年早ければもっと別の可能性を発見できたかもしれない。

確かに一瞬でも突き抜けた才能を持つ人と同じ時空を共にしたこと、そして何かを本気で目指した経験は僕の人生にとって大きな財産だ。だけどもっと広い視野、広い選択肢の情報を知りながら同じ経験を積むことが出来たかもしれない。
少なくともバドミントン一本で小学生から労力と資産を全振りしてきた数多くの仲間たちは、努力する才能をもっと他のことに使えばフリーターにはなっていないはずだ。

これは努力のポートフォリオの問題なのだ。

バドミントン一筋で頑張ると言うのは、投資に置き換えると全財産を過去何度もデフォルトしているアルゼンチン国債に全部突っ込んでいるのと全く一緒だ。

普通は貯金30%、先進国インデックス債30%、外貨建て貯金20%、新興国高利子債20%などとリスクを分散させるのだ。よく知らないけど。


指導の新しい風

僕の同級生でバドミントンコーチをしている中尾祐介君は現役時代からこれに気付いて、今はオンライン大学で学び直しながらバドミントン競技を利用したデュアルキャリア育成教育に励んでいる。

なぜ私はバドミントンをやっているのか、私にはどんな可能性があるのか、それを達成する為には何を学ぶべきなのか、それを中高生に徹底的に考えさせるそうだ。

バドミントンの練習は週に3回だけ、他の日は勉強や課題へ取り組む時間に充て、とにかく自ら論理的に考える力を育む訓練をしている。いわば塾だ。

それでいて全国大会優勝者をはじめ全国上位に食い込む教え子を何人も育て、さらに競技的に強い子にも本人とキャリアパスを一緒に考え進学校への一般受験を勧める事があると言う。

狂気じみた勝利至上主義の指導者に変わり、自分の頭でより良いキャリアを掴み取ることができる選手を生み出す指導者が、今回の全国大会中止で一気に主流にのし上がる可能性がある。


そんな内容の下書きを賢い後輩のアキラに見せたら一瞬でこう返ってきた。

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これが運動ばっかやてきた僕とちゃんと勉強してきた人間の違いですわw
さて、勉強しよ。

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