巻頭言(下書き)

特集:漫画家と本
巻頭言 新世紀の藤本タツキと阿部和重
沖鳥灯

一九八二年十二月六日午後二時十七分
関東地方に新型爆弾が使用された…
『AKIRA』大友克洋

『ヤング・マガジン』で『AKIRA』連載開始から40年後の2022年1月『大友克洋全集』の刊行が始まった。1989年の手塚治虫の死去を経て、1993年『AKIRA』は完結した。
 漫画の歴史を紐解くうえで大友克洋以後という区分はいまでも有効だろう。1954年宮城県生まれの大友は1973年『漫画アクション』でデビューした。大友とはサブカルチャーの特異点ではないか。
《「世界の未規定性」を、いわば一ヵ所に寄せ集めて、「世界」の中の特異点(特別な部分)として表象する。この特異点を社会システム理論では「サイファ」(暗号)と言います。》
(『サイファ覚醒せよ!』宮台真司 速水由紀子)
「世界はメタファーである」は「世界はサイファである」と変換可能だろう。情報の渦の中で暗号化されて眠っている世界を目覚めさせること。大友の画力とストーリーテリングは暗号解読の可能性/不可能性たりうる。解読によって未来を創造する力こそ唯一無二のサブカルチャーたる所以なのだ。
 1990年代は完結ラッシュだった。1993年『YAWARA!』。1994年『風の谷のナウシカ』『機動警察パトレイバー』。1995年『寄生獣』『14歳』『ドラゴンボール』。1996年『らんま1/2』、そして新連載として、『賭博黙示録カイジ』、1997年『ワンピース』。
 ミレニアムを通過して私は藤本タツキと阿部和重に注目する。
 2000年代、「セカイ系」席巻において文学では、95年的想像力のサブカルチャーを総動員した阿部和重『シンセミア』『グランド・フィナーレ』『ミステリアスセッティング』『ピストルズ』の「神町サーガ」が登場した。
 2010年代以降、深夜アニメやサブカル漫画などから新しい想像力としての「日常系」と、藤本タツキ『ファイアパンチ』『チェンソーマン』『ルックバック』などの「サヴァイヴ感」の揺り戻しがあった。
 以上のような「新型爆弾」としてのサブカルチャーの台頭を踏まえ、「漫画家」という制作者にスポットライトを当てることで、2020年代のサブカルチャーの特異点に照準を合わせるのが本特集の狙いである。 
 メイン特集は「藤本タツキvs阿部和重」と題した。現代の漫画と文学を代表するクリエイター両雄には類似点と相違点があると思われる。その空隙を衝く二次創作を期待したい。
 サブ特集は「漫画家と本」に関する論考とエッセイ。漫画家自身の好きな本、典拠する本と書き手との関係を綴ってもらう。もちろん私がおこなった歴史化につきまとう暴力性からこぼれ落ちるものこそ俎上に載せるべきだろう。
 そして特集の余白として創作にまつわる私見を「ハッカーとヒッピーの作家」として述べるつもりだ。
 またテーマ自由の論考と創作、紀行文、エッセイも掲載予定である。

『山羊の大学 第3号』
2022年9月25日、文学フリマ大阪で頒布予定。

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