日記(4)

2019年10月30日<深夜>

 フロイトの書簡を読み終えた感想を手短に。

 冒涜的に聞こえるかもしれませんが、精神分析学者の目から見れば、人間の良心すら攻撃性の内面化ということから生まれているはずなのです。
(『ひとはなぜ戦争をするのか』)

 ここが白眉だった。この十月のことに腑が落ちた。いまはすっきりした思いだ。共同体の暴力は、対立する理性・良識どうしの「攻撃性の内面化」によって緩和できるのだ。それには文化が必要になるとフロイトは述べている。愛と憎しみ、これを中和するのもエロス的文化である。
 戦争は科学を進歩させる、なんて訳知り顔で戦後の文明評論家なんかがよく言ったものだが、戦争は文化を壊滅的に破壊する。だがこのアインシュタインとフロイトの書簡を読んで、戦争は多くの犠牲を払うが人間の内面を進化させるものかもしれないと思った。戦争は「攻撃性の内面化」というお行儀のいいものではなくて、タナトスの外部への破壊衝動であり、極めて動物的でありファルス的であり低脳な行いだ。
 だが、人間はそのくびきから逃れられない。それは生活世界においても同じだ。世界は暴力とポルノで溢れている。地獄である。煉獄である。天国はない、とジョン・レノンは歌った。そう生きている限り天国はないし、あの世にも天国はない。あの世が実在していてもそれは天国と呼べる世界ではないと自分は思っている。
 だからニーチェではないがこの世でなにかを為さねばならぬ。そのための日記な気がしてきた。

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