オタク・ヤンキー・アカデミズム(0)

2021年6月27日
第0夜
「前口上としての自己紹介」

 先日から滝本竜彦『NHKにようこそ!』(角川書店、2002)を読んでいる。見返しのあらすじで「これ俺じゃん」となった。

俺は気づいてしまった。悪の組織NHKの存在を。俺が大学を中退したのも、無職なのも、今話題のひきこもりなのも、すべてNHKの陰謀なのだということを。

 あらかじめ断っておくが僕はQアノンのような陰謀論者ではない。かといってなんの陰謀も盲信していないとも断言はできない。まあ冗談半分に小泉政権を陰謀論と捉えているロストジェネレーションだとでもいっておこうか。
 僕は1975年に生まれた。母は団塊の世代(1947~1949)でその次男の僕は団塊ジュニア(1971~1974)の下になる。父はジョン・レノンと同じ1940年に生まれの戦中世代(1935~1945)。愛・地球博が開催された2005年に亡くなった。僕が東京から戻ってひきこもりになったのは2002年の夏からだ。父との最後の3年間、日に日に弱る姿を見ていたがまったくなにもできなかった。無力だった。母は前川清と同じ1948年に生まれ、現在73歳。去年、庭先で転倒し腰を痛めた。それから家事をちょくちょく手伝うようになった。無力だった20年前の自分と重ねながら日々の生活を送っている。
 ゴダールは『右側に気をつけろ』で回想録の無意味さを役者に語らせている。これから数ヶ月不定期で連載される予定のこの記事は「回想録」以外のなにものでもない。時期は1990年から1997年になるだろう。僕が15歳の誕生日を迎えた翌月に不登校になって21歳の春に上京するまでの映画に明け暮れた日々を記すことになる。記事の総題「オタク・ヤンキー・アカデミズム」は勢いでつけた。なんならこの企画自体勢いだけで決めた。むりくり後付けするなら僕の人生はオタクに始まりヤンキーの誹りを受けアカデミズムで挫折したといえる。
 ブッシュやオバマの回想録にすら食指が伸びないのにしがない中年の自分語りなど読むに堪えない方もいよう。だが僕は「見せ物小屋」を買って出ようと思う。カフカ「断食芸人」は好きな短篇だ。リンチ『エレファント・マン』もいい。僕の人生は真面目な大人から見れば「フリークス」なのだろう。マイノリティを自称するのは情けないものだ。現実で連帯もできない。だから孤独にネットで喋り書き込むのだ。「一匹の犬」として。
 背後から「実存の切り売りで疲弊しないように気をつけて」と声がする。
「右側に気をつけろ」

真っ当に生きろと云い放てる時遂に祝うその一口ぞ青々と自由たる香さぞ染み入る事だろう
東京事変「緑酒」(2021) 

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