見出し画像

5/19文学フリマ東京38『伊藤計劃トリビュート:閉ざされた世界と、その敵』

前文 世界精神型の悪役

沖鳥灯

伊藤計劃は一九七四年東京生まれのSF作家。代表作は『虐殺器官』(二〇〇七)『ハーモニー』(二〇〇八)。二〇〇九年逝去。二〇二四年は生誕五〇年、没後一五年のメモリアルです。

伊藤計劃の生まれた翌年にベトナム戦争(一九五五─一九七五)は終結しました。ベトナム戦争は米ソ冷戦下の戦争です。熾烈なゲリラ戦でアメリカが敗戦しました。日本の六〇年安保、六八年革命はベトナム反戦の影響が大きい。学生運動は多くのテロ事件を起こし、ベトナム戦争は様々な文化へ波及しています。

他方で伊藤計劃は二〇〇一年アメリカ同時多発テロ以降の「テロとの戦い」を背景にSFを創作しました。九・一一はアフガニスタン紛争(一九七八─一九八九)と湾岸戦争(一九九〇─一九九一)が起因と言われています。湾岸戦争以降、「テレビゲームのような戦争」という表現が取り沙汰されました。ベトナム戦争や政治テロと湾岸戦争以降の「テロとの戦い」は明らかに異なると思います。その差異に敏感で「世界精神型の悪役」という言葉をブログで記した伊藤計劃とは何者だったのでしょうか。 

世界精神型の悪役とは何か。世界、とは我々の世界でもあり、また映画の説話全体でもある。そして映画を監督が支配する(ということにしておいてください)以上、世界精神型の悪役という言葉は、監督が創造した世界の代弁者もしくは映画そのものの演出家という審級を与えられることになる。映画そのものを演出する映画内キャラクター。つまりは映画内における監督のキャラクター化だ。

『伊藤計劃:第弐位相』

 本誌は「世界精神型の悪役」のテーマのもと編まれた伊藤計劃トリビュートです。テーマに基づいた二次創作四篇とテーマ自由の論考二篇で構成されております。副題「閉ざされた世界と、その敵」はカール・ポパー『開かれた社会とその敵』と伴名練『なめらかな世界と、その敵』から採りました。ヘーゲルがナポレオンを「世界精神」と呼んだように、未知のヴィラン(悪役)を「閉ざされた世界」の〈破壊〉=〈革新〉として提示します。

二〇二四年五月六日 
編者


東京流通センター第一展示場
メルキド出版(D-44)

5月15日 表紙と目次の公開予定。
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?