萌え系じゃない秋葉原

※2005年3月4日取材/初出「DO YOU?」(ソフトバンクパブリッシング)

 秋葉原といえば、最近では電気の街というよりオタクの街、萌え系の街のイメージが強い。が、今回はあえて昔ながらのアキバワールド、それもコアな電気マニアが集まる電子パーツ屋を訪ねてみることにした。

 向かった先は、知る人ぞ知る老舗「秋月電子」。実は10年ほど前に、とある企画でガイガーカウンターが必要になり、この店でキットを買ったことがある。といっても、私自身は電気の知識に乏しく、そっち方面に詳しい人に組み立ててもらったのだが、当時から同店は電子パーツ界のカリスマショップとして有名な存在だったのだ。

 久しぶり(というか生涯2度目)の秋月電子は、以前と同様、ちょっと怪しい雰囲気を漂わせていた。得体の知れない商品が山と積まれた店頭にも、壁一面にパーツやキット類が並べられた店内にも、客がビッシリたかっている。もちろん男ばっかりだが、いかにもマニア臭い連中ばかりでなく、スーツ姿のサラリーマンも意外と多い。とはいえ、『マトリックス』のネオもどきのサングラスに黒コートの男やマイケル・ムーアそっくりの外国人もいて、やはり客層は脂っこい。

 学生風の2人組が、「コレ使って暗視カメラ作れるよ」「へえ~、やってみようか」なんて話してるかと思えば、作業服姿のオヤジがなんかのケーブルを手に取って「いいじゃん、コレ。めちゃめちゃいいよ」って、いったい何がいいのか、さっぱりわからない。

 商品は、それこそ無数の種類がある。携帯電話用の手動式発電器やアルコールテスター、電波時計、USBカメラといった完成品から、金属探知器、赤外線センサー、超音波デジタル距離計などの組立キット、さらにはICやスイッチ、抵抗、コンデンサ、発光ダイオード、モーター、ファン、その他、何に使うかわからない細かいパーツまで、ありとあらゆるものが所狭しと並んでいる。一時期話題となった「ドン・キホーテ」の圧縮陳列なんて、これに比べればカワイイものだ。

 で、何がすごいって、その混沌の中から自分の欲しい物を選べる客がすごい。40代~50代のオジサンたちが、取り皿(小さな部品の選別用に店側が用意している)を手に、細かく区分けされた部品棚を熱心に覗き込んでいる姿は、なんだか微笑ましい感じすらする。こんな光景、どっかで見たなーと思ったら、手作りアクセサリーとか手芸用品のお店における女のコたちの生態に似ているのであった。自分の好きなものを手作りするというのは、男女を問わず楽しいものに違いない。 

 ちなみに、同店の人気商品ベスト3は以下の通り。

1位 AKI-PICプログラマーキット

2位 AKI-H8/3052F超高性能マイコンボード

3位 AKI-H8/3052-LAN LAN開発ボードキット

 1位のプログラマーキットは「シミュレータソフト付きのすぐれもの! 最新PICフラッシュマイコン版、ほぼ全てに対応!」だそうですが、意味わかりません。お値段は上から6700円、3800円(CD-ROM付)、9780円。安いのか高いのかもわからないが、たぶん安いんでしょう。とにかく同店には客がひっきりなしに詰めかけ、狭い店内はてんてこ舞い。

 それにしても、ほかにもパーツ屋は何軒もあるのに、なぜこの店だけがこんなにいつも人だかりしているのか。

「そうですねー、こういう細かいパーツは扱うの大変だから、やめちゃうお店が多いんですよ。だから皆さん、ウチにいらっしゃるんじゃないですか。ホントはウチもやめたいんだけど、なかなかそうもいかなくて」と苦笑するのは店長の辻本重雄さん。

「お客さんは趣味の方とメーカー関係の方と半々ぐらい。やっぱり商品知識に詳しい方が多くて、こちらも最新の素子を揃えてはいるんですが、さらに最新のものを求めて来られる方もいます。ですから、逆にお客さんに教えていただく部分もありますね」

 なるほど、そういう品揃えのよさ、「あそこに行けば何とかなる」的な信頼感は大事だろう。が、この店の賑わいぶりはそれだけでは説明がつかない気がする。いったいどこが魅力なんだろう……と観察していて、気がついた。

「好評のPICNICキットが組み立て品で登場しました」

「単3乾電池1本で白色LEDが点灯 単3電池ホルダーにすっぽり入ります」

「超高輝度3㎜φLED 量子井戸構造で高純度高光度です」

「史上最強ともいえる高機能テスター。それがこの『P10』なのです」

 同店の主力商品であるキット類はビニール袋に入って売られているのだが、それぞれにこんな手書きのPOPが付いているのだ。書いてある内容は別にして、そのノリはCDショップなんかに近いものがある。まあ、説明がなければ何がなんだかわからないというのもあるが、これが手書きでなくパソコンの印刷だったら、店の雰囲気もずいぶん変わってしまうはずだ。このPOPに象徴される手作り感にこそ、客はグッときているのではないか。

 今どきわざわざハンダ付けとかして、何かを作ろうという客に、手書きのPOPで応える店。お金の計算とかソロバンでやってそうな店構えといい、デジタルとアナログが融け合った不思議な空間がそこにある。

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