炭の力

炭の力

 おそらく日本唯一の「炭・木酢液・竹酢液の総合情報誌」。何がすごいって、まずタイトルがすごい。『炭の力』。誰がつけたのか知らないが、炭への熱い思い入れがひしひしと伝わってくるネーミングだ。
 中身のほうも炭火のように熱く燃えている。Vol.24(2003年11~12月号)の第一特集は、「炭入り繊維の衣料は機能的で着心地満点」。最初に紹介されているのは、直径1ミクロン以下の微粒子にした備長炭をナイロン繊維の中に直接練り込んだ新素材。従来にない画期的な素材らしく、「太古より利用されてきた炭と、工業製品の最たるナイロンのコラボレーションはどのような実力と可能性を秘めているのだろうか」とアオリ文句にも力が入っている。
 炭に関する最新情報を集めた「炭・NEWS・ファイル」のコーナーでは、「大豆の市民フォーラムで保谷納豆の木内社長が『炭火造りの秘密』を公開」「月の宵をテーマに炭アーティストが競演 力作が一同(原文ママ)に」「魚の骨や折り鶴の炭化に歓声 炭ギャラリーがオープンし体験コーナーも人気」といったニュースが並ぶ。仕事柄、「トリビアの泉」的雑学知識には自信がある私だが、「炭アーティスト」なる人々が存在することを、この雑誌で初めて知った。世の中まだまだ知らないことがたくさんあるなあ。

 知らないといえば、巻頭コラム「炭想」で取り上げられていた話題もそう。「竹炭の規格化に向けて」と題されたコラムは次の一文で始まる。
「木炭や木・竹酢液の規格化が進行中であるが、竹炭のみが規格化について全く手が付けられていない状態である」
 ……前提として語られている「木炭や木・竹酢液の規格化が進行中」ということからしてまるで知らない話である。ましてや「竹炭のみが規格化について全く手が付けられていない状態」なんて、初耳もいいところ。そもそも炭に規格があるなんて、考えたこともなかったし。執筆者の「福井炭やきの会」会長・鳥羽曙氏は「黒ければ炭、炭は全ての機能を備えた物の如き幻想を抱かせないためにも、消費者に対し安全でその目的に機能することを表示する必要があるのではないだろうか」と述べる。食品でも何でも、成分や機能の表示については、今、大きな問題となっている。なるほど、炭も例外ではないというわけだ。

 その主張に呼応するように、「炭をめぐる人々」のコーナーでは、木質炭化学会会長の谷田貝光克氏が「今こそ炭の科学的根拠づけが必要」と語っている。一方、「フォトリポート」には、「基本修得のドラム缶窯で炭をやく喜びを伝えたい」という「炭やき伝道師」高橋哲男さんの記事が。「炭ファンの中には自分で炭をやいてみたいと思っている人も多いのではないだろうか」というのだが、「炭ファン」っていったい……? 
 炭なんて単なる実用品かと思っていたが、アートにもなればファンもいる。いやはや奥が深い世界である。
 そんななか、炭本来の姿とも言うべき「炭火クッキング礼讃」という連載ページもある。今号のお題は「サンマの塩焼き」。また、ちょうど1年前の2002年11~12月号では「シイタケ傘焼き&串焼き」が紹介されている。が、なにしろ「炭火クッキング」である。その調理法は至って単純。とにかく炭火で焼くのみだ。サンマなら「表に斜めに3本、裏には横に一筋包丁目を入れておく」といった多少のコツはあるものの、クッキングページとして成立しているのかどうなのか。

 広告はもちろん炭焼機。個人用から業務用まで取り揃えた「デゴイチシリーズ」は、「新製炭法(特許取得済み)により高収炭率を実現!」「製炭作業にガス、灯油等の燃料不要!」「ステンレス仕様につき、高耐久性を実現!」というスグレモノ。「パーソナルを使った『出張炭焼き』致しております! 優れた性能をその目でお確かめ下さい!」ということなので、このページを読んで俄然炭に興味の湧いてきた方は申し込んでみてはいかが?
 ほかにも「人に炭あり志あり」「炭なんでもQ&A」「炭美ギャラリー」といったコーナーが目白押し。また、バックナンバーを見ると、「炭入り風呂で心身リフレッシュ」「炭の驚くべき吸着力が野菜・果物の鮮度を保つ」「ヘルシー食材=炭のお目見え 炭を食べる知恵・工夫」「飾り炭の雅趣を楽しむ」「備長炭を生かして電波障害から身を守る」など毎号趣向を凝らした特集が組まれている。
 隔月刊で840円。全国にどれだけいるのかわからないが、炭ファンにとってはバイブル的雑誌であろう。

(※2002年から2004年にかけて『トップジャーナル』という警察官向けの雑誌に連載した原稿です。情報は掲載当時のままで、取り上げた業界紙誌が現在もあるかどうかは未確認です)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?